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イスカが聖女のごときやさしさで、俺を抱きしめていると、だんだん、気分が落ち着いてきた。
気分が落ち着いてくると、すごいことに気が付いた。
彼女の双丘が、俺の頭を包み込んでいるのだ。
ユートピアは、ここにあったのですね。
Oh, my god!
英語なんて全然できないのに、そう叫びたくなる。
「とにかく、ご飯を食べて、学院に行かなくてはなりませんよ。
もう遅刻は確定でしょうけれども」
「あ、それなんだが。
俺、魔術学院は退学するよ」
「ど、どういうことですか?」
彼女が驚くのも当然だった。
ノイエ王国は魔術至上主義がはびこっていて、魔術を修めていなければ、要職には基本的に着けない。
それに、魔術を習得していない者が王になった前例はない。
すなわち、王位継承権を事実上放棄するに等しい。
「その代わりに、騎士団長に弟子入りしてくるわ」
「剣術を学んで、騎士になるのですか?」
「そう。そっちの方が、俺に向いてるから」
なぜ、主人公ロト側として、『物語』をプレイした俺が、レイに剣術が向いていると、知っているのか。
それは、魔術学院を退学になり、王国を追放されてから、レイは強くなるのだ。
どういうことかといえば、王国を追放されて、魔術至上主義から解放されたレイは、魔術にこだわらなくなり、剣術を学ぶようになる。
そして、魔術ではなく、剣術を用いるようになると、レイは敵としてめちゃめちゃパワーアップするのだ。
おそらく、ストーリー終盤になればなるほど、敵を強くするための後付けの設定なのだろうが、そんなことはどうでもいい。
重要なのは、レイは、剣術の才能はあるが、魔術の才能はほぼ皆無だという事実だ。
それなら、さっさと魔術には見切りをつけて、剣術を学ぶべきだ。
「ま、見ててくれ。
万事どうにかして見せるさ」
両親に掛け合うことにした俺は、部屋を飛び出した。
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