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奥義への道②

ライカが心の中から出ようとした時、事件が起きた。


 そんな折、神一郎が滝の水に打たれながら、瞑想して懸命に心を練っていると、何処からともなく、小石が彼に向かって飛んで来たのだ。次の瞬間、神一郎はその小石を、風で瞬時に弾き飛ばしたが、身体は微動だにせず、目も閉じたままだった。


「ほう、中々やるではないか」


 しゃがれた声のする方を見ると、岩の上に、顔中に包帯を巻いた、怪しい僧形の者が神一郎を見降ろしていた。


「御坊、何か用か!?」


 神一郎は水から上がり、風で身体の水を吹き飛ばすと、僧の居る岩の上に飛び上がった。


「儂は、天眼てんげんという乞食坊主じゃ。まだお若いようだが、何の修行をしておるのじゃ?」


「自身の心の中を見たいと、修行しております」


「心の中とな、それで見えたのか?」


「いえ、未だ……」


「無理もない。心の中なんぞ、そう簡単にみられるはずもない。ただ、……方法なら知っておるがな」


「えっ、本当ですか! 是非お教え願いたい!」


 神一郎の目が輝いたかと思うと、次の瞬間、彼は土下座していた。


「うむ……。教えてもいいが、条件がある」


「何なりと!」


「暫く宿を借りたいのだが良いか、飯付きで頼む」


「分かりました。同居人の意見も聞かなければなりませんが、何とかします」


「有難い。実を言うと、昨日から何も食べておらんのじゃ」


 神一郎は、天眼を伴って自分達の山小屋に戻った。小屋の中では、風夜叉が夕餉の支度をしていた。


「女房殿。儂は天眼と言う旅の僧で御座る。しばし世話になり申す」


「……」


 風夜叉は、顔全体を包帯で隠した見慣れぬ僧を、訝しげに見ながら軽く会釈した。


「天眼様。その人は、私共の世話をしてくれている風魔千太郎様のご息女で、風夜叉殿です。連れと言うのは、私共の宗家の息女で、ライカといいますが、まだ修行から帰っていないようです」


 神一郎が話している所へ、ライカが疲れ切った顔で帰って来た。

 

「其方がライカ殿か、拙僧は旅の坊主で天眼と申す。火事場で火傷をしてこのような風体をしておるが、決して怪しいものではござらん。暫くご厄介になりたいのじゃが、どうであろう」


 ライカは胡散臭そうに天眼を見ていたが、


「好きにするがよろしかろう」


 と不愛想に言って、衝立の後ろに隠れてしまった。


「かたじけのうござる、お世話をかけます」


 天眼は、ライカの居る方に、深々と頭を下げた。



 数日が過ぎた夜の事。唐突に、天眼がしわがれ声で話し出した。


「神一郎殿、このままでは、お二人の修行の目的は達せられますまい」


「えっ!」


 神一郎が驚いて、訳を尋ねようとしたその時、


「御坊に何が分かるというのだ!」


 身体を休めていたライカが、衝立の後ろから厳しい顔を出した。


「では、数日拝見して思ったことを申そう。それは、お二人の心が噛み合っていないということじゃ。何事も微妙な心の有りようで、結果は大きく変わってしまう。技は違えど、目的とするところが同じなら、心を一つにしてこそ大事は成就するというもんじゃ。どうかな?」


 確かに、ライカと神一郎の関係は、未だにぎくしゃくしていた。その事は、互いに気にはなっていたのだが、厳しい修行に明け暮れて、何も出来ずにいたのだ。


「天眼様の言われる通りです。事に当たる上で最も大事な事は、皆が心を合わせる事だと、幼き頃より父に言われて参りました」


「……」


 無言のライカにも、腑に落ちる所があった。

 

「風夜叉殿にはお暇を与えなされ。ここでの生活を二人だけで助け合っていくのです。そして、修行の事も切磋琢磨して、意見を交換していくべきです。如何かな、ライカ殿」


「……私に異存はありません」


 思いの外、すんなり天眼の意見を飲んだライカに、神一郎は肩透かしを食った思いがした。



 次の日から、朝餉の支度、洗濯、掃除などを分担して、それを手際よく終わらせると、二人で、今の思いを吐き出し合った。


「私はどうかしていたのだ。心を合わせねばならぬのに、我儘を通してしまった。許せ」


 ライカが肩を落とした。


「私とて同じです。私がライカ様を支えなければいけないのに、修行の忙しさにかまけて、心を合わそうとはしませんでした」


「これからは心機一転して、共に力を合わせて行こう!」


「はい!」


 ライカと神一郎ががっちりと手を握り合った。


「それで良い。後は、心の中で修行をするだけじゃな」


 天眼が頷きながら言った。


「天眼様、心の中に入る術を知っているのですか!」


 ライカが天眼に詰めよった。 


「うむ、知っておる」


「何卒お聞かせください。私達の技は、気を持って操ります。その力を高めようと思えば、心の中を見極めるしかないのです!」


「分かり申した。では、仏法で説く、心の世界を説いて進ぜよう」


 二人は、ググっと身を乗り出した。


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