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奥義への道①

 ライカの凄まじい雷の技に驚きを隠せない神一郎は、負けじと、更に一山越えた所で、風の奥義“龍の風”の修行に入った。


 龍の風は、巨大竜巻を操る大技で、“百龍雷破”同様、問答無用の破壊の技だ。風一族の技は、自身の気の力を使い、大自然の風や雲を操るのである。

 ライカと神一郎の課題は、この自身の気の力を、いかに強くするかという事だった。

 


 次の日から本格的な修行が始まると、神一郎は、気の力を高める為に、複数の風の技を同時に使って見ようと考えた。


 最初に、比較的簡単と思える、風御と風破の組み合わせを試してみた。風で操った数個の小石を自分に投げつけながら、その小石を風破で撃ち落とすのである。

 風御に集中しすぎると、風破の威力が弱まり、風破に力が入ると、操っていた小石は集中力が切れ、パラパラと地面に落ちてしまった。


 二つの技を同時に使う事は至難の業と思えたが、神一郎は、来る日も来る日も果敢に挑戦し、十日ほどで、全力の風御と全力の風破を、同時に使うことが出来るようになった。


 気を良くした神一郎は、次に“風御”と“風牙”の組み合わせに挑戦した。

 風牙は、鉄や巨大な岩をも斬リ裂く風の牙だ。形の上では刀を振るが、実際に相手を斬るのは風である。

 風の技の中でも最高難度の技で、風破とは比べ物にならない集中力が必要なのだ。


 早速修行に入ったが、次々と襲い来る小石を、一気に風牙で捉えることが出来ず、石の直撃を受けて、身体中にあざを作った。


「まあ、どうしたんです、その顔……」


 顔や頭に、こぶを作って帰ってくる神一郎を見て、風夜叉が目を丸くした。


「大丈夫です。石が当たっただけですから。へへ」


 笑うと顔が引きつった。


 彼は悪戦苦闘しながらも、持ち前の負けん気で踏ん張り、次第に風牙の命中率と破壊力を上げていった。

 そして、一月も経つと、拳大の十個の石を高速で操りながら、渾身の風牙で、全ての石を真っ二つに斬れるようになったのである。



 修行に入って三カ月が過ぎた頃、神一郎は、自分の気の力を試すために、龍の風に挑戦してみようと思った。


 彼が目を閉じ、両手で印を結び一心に念じると、風がまわりだした。風は円を描きながら速度を増し、やがて唸りを上げる暴風となると、周りにある木々を薙ぎ倒し、全ての物を巻き込んで、中型の竜巻となった。


 神一郎が、その竜巻を、前方に動かそうとすると、竜巻はライカの修業している右方向へと動き出したのだ。


「何っ!」


 慌てた神一郎が懸命に戻そうとしたが、動き出した竜巻を止めることは出来なかった。止む無く、神一郎が術を解き息を吐くと、竜巻は力を失い、巻き上げた物を撒き散らしながら消えていった。


 本来の龍の風は、もっと巨大な竜巻を、自在に動かせれば完成なのだが、まだまだ未熟と、神一郎は肩を落とすしかなかった。 



 一方ライカは、雷の技を反復する事によって、気の力を高めようとしていた。


 彼女は、鬼の形相の凄まじい気迫で技に取り組み、一度に落とす雷の数を、日毎に増やしていった。そして数か月後には、五十ほどの雷を一度に落とす事が出来るようになったのだが、思うように雷を操ることは出来なかった。


 ある日、雷に打たれ倒れている彼女を、神一郎が修行の帰りに見つけた。


「ライカ様! 大丈夫ですか!」


 神一郎は彼女を抱き上げると、風に乗って大急ぎで小屋へ帰った。


「胸の鼓動も、呼吸もしっかりしていらっしゃいますから大丈夫です」


 心配顔の神一郎に、風夜叉が微笑んだ。目を覚ましたライカは、


「腹が減った」


 と、ご飯を二杯もお代わりして、神一郎を安心させた。 

 

 壁に突き当たる度に、修行は増々激しさを増していった。毎日、二人は生傷が絶えず、ボロボロになって修行から帰って来た。そして、板間に倒れ込んだまま、夕餉も摂らずに朝まで起きない日もあった。


 そんな二人を、風夜叉が、恋女房のように懸命に支えていた。


「神一郎様! ライカ様! 起きて夕餉を召し上がって下さい!」


 失神したかのように、倒れ込んだ二人を叩き起こし、食事を取らせたり、身体の疲れを癒す為に、近くに湧いている温泉に浸からせたり、会話の無い神一郎とライカの話し相手になったりと、風夜叉自身も、悪戦苦闘の日々となったのである。


 地獄のような厳しい修行の中で、殺伐とした心を癒したのが、風夜叉の笑顔と、神一郎の龍笛だった。彼は、幼い頃に母に教えてもらってからというもの、取り付かれたように修練に励み、龍笛の名手となっていたのだ。ライカも、神一郎の笛が好きだった。


 その笛の音は、ライカのみならず、吹いている神一郎の心にも沁み入り、何とも言えぬ気分にさせ、人の心を取り戻す事が出来たのである。



 そうした修行が一年を過ぎた頃、二人の奥義は八割方完成に近づいていた。だが、そこから先へがどうしても進めなかった。進もうとすれば、何故か心が乱れるのだ。最後の壁を越えられずに、二人は悶々とした日々を過ごしていた。


「ライカ様、雷神抄に何か書かれていませんか?」


 日頃話さない二人が、雷神抄を広げて、書かれている文字を追っていた。


 そして、二人の目に留まったのが、『心の奥底に秘められし宝あり』という一文だった。


「心の中の宝って何でしょうね?」


「分からぬ、心の中を見る方法は書かれていないのだ」


 二人は溜息をつくばかりだった。 



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