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祭り②

有難うございました。

 風の里に春が来た。あちこちから長閑な鶯の鳴声が寿ぐ中、ライカと神一郎、そして氷馬と真麟の婚儀が盛大に執り行われたのである。


 場所は稲妻家。大広間の障子は開け放たれ、その前の広い庭は、二百人を超える里人たちが埋めていた。

 大広間の奥には、黒紋付羽織に縞袴の神一郎と、濃紺の紋付き羽織に縞袴の氷馬が座り、その左右に親戚たちが整然と並んで、花嫁の登場を待っていた。


 ドン! ドン! ドン! ドン! ドン!


 婚儀の開会を告げる大太鼓が鳴り響くと、白無垢に身を包んだライカが姿を見せ、その後に、白小袖に赤の打掛を羽織った真麟が続いた。


「おお! 何という艶やかさじゃ」


「ライカ様も真麟様も何とお美しいこと……」


「うむ、当に天女のようじゃ」


 二人の艶やかさに、里人たちは感嘆の声を上げ騒めいた。神一郎も氷馬も、初めて見る彼女達の花嫁姿に言葉を失っていた。


 二人の花嫁が着座すると、大広間は二つの大輪の花が咲いたように華やかになった。三々九度は同時進行で進められ、里人たちは、二組の盃の行方を追った。


 婚儀は滞りなく進んで、新宗家の水上幻龍斎の挨拶で締めくくられた。そして、皆がお待ちかねの披露宴へと移っていった。


 広い庭にムシロが敷き詰められ、机代わりの大きな板の上に、山と積まれたご馳走が並べられると、里人たちがそれを取り囲んだ。


「皆、今日は里の祭りじゃ。存分に飲んで食べてくれ!」


 ライカの父である白龍斎が言うと、賑やかな披露宴が始まった。呼んでいた、旅の一座の歌や踊りが華を添える。


 どの顔も輝いて、楽しそうに御馳走を頬張り談笑している。ライカ達四人も小袖姿に着替えて、彼らの中へ入って一人一人と話を交わしていった。


 ある程度酒が回ってくると、演芸大会が始まった。太鼓を叩く者、自慢の声を聞かせる者、剣舞を舞う者等、思い思いの出し物で皆を沸かせた。その内、皆が総立ちになって歌い踊りだした。彼らは歌い踊る事で、忌まわしい過去を振り払い、前を向いたのである。


 祭りは夜まで続き、皆、満足しきった様子で三々五々と帰って行った。



「今日は、楽しかった。皆のあんな笑顔を見たのは久しぶりだ」


「誠に。皆、本当に楽しそうでした」


 正式に夫婦となったライカと神一郎は、自分達の部屋に戻り、楽しかった一日を振り返っていた。


「戦国の世ではあるが、笑いが絶えない里にするのが我らの勤めだ」


「承知しています」


「……ところで、建てたばかりの家なのに、もう大きな鼠が居るようだな」


 ライカが、天井に何かが居ると、神一郎に目で合図を送った。


「きっと旅の鼠が、祭りの賑やかさに誘われてやって来たのでしょう」


「物好きな鼠だな。この家には大きな龍が棲んでいるというのに」


 ライカが微笑みながら言う。


「はっはっは、当にその通りですね」

 

 神一郎も、ライカの例えが面白くて笑ってしまった。


「神一郎、私達には小作りという大事な仕事がある。鼠の相手をしている暇はないぞ」


 ライカが、天井の鼠に当てつけるように言って、さっさと寝室に入っていくと、神一郎は吹きだしそうになるのを堪えながら、その後を追った。



 翌日、旅の一座は、逃げるように里を出て行った。


「お頭、この里に不穏な動きなど何もありませんな……」


「うむ、だが、秀吉様の話では、此の里の者は途轍もない技を使うらしい。もう少し探ってみようではないか」


 この旅の一座は、秀吉が風の里を探るように命じた、甲賀衆だったのだ。彼らは、里の外れまで来ると荷車を隠し、忍者装束となって山に潜んだ。


 暫くすると、彼らが潜んだ林の中に風が吹き出した。その風はどんどん強くなって、木々を大きく揺らし、立っていられないほどになった。


「何だこの風は!」


 甲賀衆が慌てふためいていると、真っ青に晴れていた空が俄かに掻き曇り、雷鳴が鳴り響いた。そして、辺りが薄暗くなった途端、眼前に白い巨大な龍が忽然と姿を現したのである。

 白龍は、彼らを睨みながらゆっくり近づいて来る。白龍に触れた木々は、瞬時に燃え尽きていった。


「ひえー!!」


 余りの恐怖に、甲賀衆たちは、その場に座り込んでしまった。


 戦意を失ってしまった彼らが固まっている内、黒い雲は去り、白龍の姿は消えて、青空が戻って来た。 


「秀吉の手の者か!」


 突然、良く通る女の声が背後から聞こえた。彼らが振り向くと、そこにはライカと神一郎が立っていた。


「……今の白い龍は、貴方達の仕業なのか?」


 大夫に化けていた頭が、恐る恐る聞いた。


「此の里には、大きな龍が棲んでいると昨日言ったはずだ。帰ったら秀吉に伝えよ、触らぬ神に祟りは無いとな。道中気をつけて帰れ!」


 風が吹いて木の葉が舞い上がると、二人の姿は忽然と消えた。


 春の風が、冷や汗をかいていた彼らの頬を撫でて、鶯たちの長閑な鳴き声が、夢の中の出来事のように響いていた。



 ― おわり ―

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