最終決戦②
「……し、神一郎、氷馬、真麟、大刃、皆無事か!?」
海中に沈みながら、ライカが皆に呼びかける。
(……)
「神一郎!!」
(あ、……は、はい!)
(ううっ!)
余りの痛みと衝撃で、正気を失っていた神一郎達が我に返った。
ライカは海底に着くと、水を変化させて空間を作り、その中でフーッと大きな息を吐いた。
(ライカ様、身体は大丈夫なのですか!?)
皆、ライカの身体を心配したが、全ての力を防御に回した事で、致命的な傷を負う事は無かったようだ。
「真麟、氷馬、大刃、お前達は自分の身体に戻ってくれ。私の体力も限界が近い。あとは私と神一郎とで最後の決戦に臨もうと思う」
(えっ? 今更何を言うんです! 私達は命を捨てて此処に来ています。引く訳にはいきません!)
真麟が、心外だと言うように声を荒げた。
(その通りだ。私達は最後まで力を合わせて戦うんじゃなかったんですか!?)
(そうだ。五人でも敵わない相手に、どうやって二人で戦おうと言うんだ。お前達が死ねば全ては終わりじゃないか!)
氷馬も大刃も、引き下がらない。
「皆聞いてくれ。皆の力を合わせれば勝てると思っていたが、奴の方が一枚上手だったようだ。魔王龍を倒す為には、もはや阿摩羅の力を最大限に発揮するしかない。その為には自分を極限まで追い込まなければならない。余人を頼むような弱い心では出せないんだ。 ただ、神一郎は我が夫、死ぬときは一緒にと決めているから連れて行く。風の里を再興する為には、貴方達の力が必要だ。だから残って貰いたい、お願いだ!」
切々と訴えるライカの気持ちが、皆の心に染み渡った。
(……)
「死ぬ気では行くが、死ぬつもりは無い。勝つ為に行くんだ。私達の戦いを見ていてほしい!」
(……分かりました。我らはこれにて下がります。ご武運を!)
真麟に促され、氷馬と大刃もライカの意識から消えていった。
「神一郎、いくぞ!」
(はッ!)
ライカが瞑目して印を結んで念じると、海の水がググっと分かれて空への道を開いた。上空には、ライカの様子を探っている魔王龍が悠然と泳いでいる。
ライカが空に飛び上がると、それを見つけた魔王龍は、大きく旋回して彼女目掛けて突進して来た。
ライカも、それを迎え撃たんと白龍を立ち上げ、加速しながら魔王龍に照準を定めた。
ライカと神一郎の心は、命を捨てても魔王龍を倒しこの世を救うとの、その一点しかなかった。
「神一郎、この戦いを終わらせよう。私の為に笛を吹いてくれ!」
(承知!)
ライカの心の中に、神一郎の、優しく力強い龍笛の音が響き渡った。すると、ライカの心に、阿摩羅の力が一気に湧き上がり、彼女の身体を黄金に染めた。その刹那、白龍も、光り輝く黄金竜へと変わっていったのである。
迫りくる魔王龍の双頭の口が、裂けんばかりに開いた瞬間、
『魔王大破!!!』
特大の、二連の青白い超絶破壊光線が吐き出されると、
「皇龍雷破!!!」
黄金竜からも途轍もない黄金の光線が吐き出されたのだ。
ビカ――――――――ッ!!!!!!!!
黄金の光線が、青白い破壊光線を凌駕して魔王龍を飲み込んでいく。
『な、何!! そんな……馬鹿……な……』
黄金の光線の中で、魔王龍の身体は焼かれ蒸発していく、咄嗟に頭を護ろうとした硬い鱗の装甲までも用をなさなかった。
『オオオオ―――――ン!!!!!!』
魔王龍の、悲し気な断末魔の咆哮が天に響き、消滅を免れた頭の一部が海岸の方へと落下していった。
地上に落ちた魔王龍の頭が転がっている所に、ライカが下りてその鼻先に立った。
『さ……さっさと……殺せ!』
顔の半分も剥ぎ取られた魔王龍が力なく言う。
「信長。悪魔のどこがいいんだ。次は、普通の人間に生まれて来い」
『……』
ライカが魔王龍の鼻に手を当てて、祈るようなしぐさをすると、その手から黄金の光が放たれ、魔王龍を包んでいった。
「ああ……」
魔王龍は信長の姿に戻ると、やがて、土塊のように崩れ、風に散っていった。
(ライカ様、信長は、来世では人間に生まれることが出来るのでしょうか?)
「多くの人を殺めた罪は免れまい。だが、いつの世にか人間として生まれる事も無いとは言えぬ。阿摩羅はどんな極悪人でも最後には救おうとするはずだ」
青い空と海が何処までも広がり、太陽の光が燦燦と降り注いでいた。清々しい風がライカの頬を撫で、髪を揺らした。彼女は、手を翳しながら太陽を眩しそうに仰いだ。
「神一郎、帰ろう、風の里へ!」
(はっ!)
ライカは、力強く大地を蹴って、天空に舞い上がった。




