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鬼人と魔人①

「蘭丸、そやつを一気に片付けよ。小娘は儂がひねり潰す!」


 巨大な獅子の魔獣に跨った信長が、不敵な笑みを浮かべながら言った。


「ハッ!」


 蘭丸が神一郎に向かって数歩進むと、生き残った魔人達は、信長を護るように円陣を組んだ。

 その動きを見て、風一族もライカと神一郎の周りに集まった。双方共、勢力は五十人余りにまで激減していて、傷を負った者も少なくなかった。


「神一郎、力は蘭丸の方が上だ。勝算はあるのか?」


 蘭丸と睨み合っている神一郎に、ライカが声を掛けた。


「あちらが力で来るなら、こちらは知恵で勝負するしかないでしょう。それにしても、あの闘気の凄まじさには閉口します」


 神一郎はライカに笑みを返すと、突然空に舞い上がった。そして、蘭丸に手招きすると、そのまま西の方へ飛んで行ってしまった。


「えっ、まさか神一郎は逃げたのか?」


 驚いた大刃が、神一郎の飛んで行った方向を指さしながらライカを見た。


「そうではない、場所を変えたのだ。これ以上里を壊したくなかったのだろう」


「こんな時にも里の事を考えるとは、神一郎らしいな」


 氷馬も納得して笑みを浮かべた。


 蘭丸は、小さくなっていく神一郎を暫く見ていたが、信長に一礼して彼の後を追って行った。



 神一郎が下り立ったのは、太平洋を望む、紀州西岸の煙樹ヶえんじゅがはまという海岸である。月光に照らされた白い砂浜は何処までも続いていて、強風に煽られた大波が音を立てて崩れ、砂浜に押し寄せていた。


 暫くすると、追って来た蘭丸に続いて、信長や魔人達、風一族が次々と海岸に下り立った。彼らは、左右に分かれて陣取ると、今まさに始まろうとしている神一郎と蘭丸の戦いに、固唾を飲んでいた。


 波打ち際で、海を背にして立つ神一郎。それを見下ろすように、長身で引き締まった身体の蘭丸が、青い目を光らせ、白い髪をなびかせていた。


 突然、両足を踏ん張った蘭丸の身体から、空気を震わす凄まじい青の闘気が噴出した。神一郎も負けじと、橙色の闘気を放ち睨み合う。


「食らえ、魔風牙!!」


 手刀を作った蘭丸の右手が、横一文字にブンと振られた。神一郎が素早い身のこなしで避けると、ズン!! という地響きと共に砂塵が舞い上がり、砂浜には巨大な刀で抉ったような溝が出来ていた。

 魔風牙も、風で物体を斬る技だが、神一郎の風牙よりも破壊力は勝っている。


 蘭丸は、左右の腕を交互に振って、魔風牙を続け様に放った。息つく暇もない攻撃に、神一郎は必死で身を躱したが、魔風牙が掠めただけで、海中に叩きつけられた。


 海に炸裂した魔風牙は、波を裂き、海を割って、巨大な水柱を上げると、その余波が怒涛の大波となって海岸に打ち寄せた。


(あんなものを食らったら一溜りも無い!)


 神一郎は、風を巧みに操って身を躱しながら、風牙で反撃を試みたが、的確に迎撃して来る魔風牙によって悉く弾かれてしまった。


「これならどうだ!」


 神一郎の放った風牙は、変則な動きで魔風牙の迎撃を躱したかと思うと、終に蘭丸を捉えた。蘭丸は血飛沫を上げながら仰け反った。


(よし!)


 神一郎が心の中で叫んだ次の瞬間、蘭丸の深い傷は見る間に塞がっていったのである。


(奴は不死身なのか……。いや、そんな筈は無い。奴の再生能力にも限界があるはずだ)


 神一郎は、そう思ってみたものの、自分の最大の武器である“風牙”が通じない今、彼には何の手立ても無かった。このままでは体力を使い果たし、魔風牙の餌食になるのも時間の問題だった。


「神一郎、どうあがいても魔人となった私に勝てるはずもない。観念するんだな」


 蘭丸が落ち着き払って言った。


「……」


 蘭丸が止めの魔風牙の態勢に入った刹那、神一郎は何を思ったのか、海中に身を躍らせた。


「逃がさぬ!」


 蘭丸が、魔風牙を海中に向かって乱射したが、神一郎は、それを躱しながら更に沖へと潜っていった。



 神一郎は、暗い海底の中で、水の技を使って空間を作り、岩の上に安座して心を落ち着けていた。魔風牙を避ける為に、速く動き過ぎた身体も悲鳴を上げていた。


(蘭丸も、魔風牙が使えない海中には来ないだろう。だが、何時までも此処に居る訳にもいかない。どうすればあいつに勝てるのか……)


 神一郎は、活路を見い出そうと懸命に考えた。


(神一郎!)


 突然聞こえて来たライカの声に、神一郎は辺りを見回したが、彼女の姿は何処にもなかった。


(ここだ、お前の心の中だ!)


「えっ!」


 驚いた神一郎は、自分の胸に手を当てた。


「ライカ様、心配かけてすみません」


(お前に言っておきたい事があって来たんだ)


「何でしょう?」


(お前さえよければだが、……この戦が終わったら、私と夫婦になろう)


「えっ、本当ですか!?」


 憔悴していた神一郎の顔に、パッと赤みがさした。


(嘘など言わぬ。だから必ず勝ってくれ。私も勝つ!)


「はい!」


 神一郎は、ライカを抱きしめるように自分の胸を抱きしめた。そして、ライカの優しさに包まれている自分を思うと、力が漲るのを覚えた。


(神一郎、魔王の力と言っても阿摩羅の力の一部にすぎぬ。阿摩羅の力を体現できる我らが、勝てないはずは無いのだ。お前は優しすぎる、それが力を弱めているのだ。相手が魔人なら、お前は鬼に成れ! 必ず勝てる。見守っているぞ……)


 神一郎の中から、ライカの気配が消えた。


「鬼か……、成って見るか!」


 地上では、上がって来ない神一郎を心配して、風一族が波打ち際まで出て来ていた。


「恐らく、海の中で身体を休めているのでしょう。心配は要りません」


 息子の力を信じている神龍斎が、冷静な顔で言った。


「うむ、だが力の差は歴然だ。どう戦うつもりなのか……」


「お父様、大丈夫です。神一郎は負けません」


 白龍斎が振り向くと、ライカが笑みを浮かべていた。



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