決戦、風の里①
「大刃、戻ったぞ。今の状況は、どうなっているんだ?!」
神一郎が、下から叫んだ。
「おお、神一郎帰って来たか! 敵が多すぎて限界だ、直ぐに上に来てくれ!」
「承知!」
神一郎は、土龍の頭の上に居る大刃の横に飛び上がった。周りを見ると、そこは自分の家の庭だったが、建物は無残に崩れ去っていた。
下には、ライオン、虎、オオカミ、イノシシなどの巨大化した魔獣達がひしめき合っていて、土龍の土の身体は今にも食い破られそうだった。
「彼らは、夜にならないと魔獣化しないはずでは?」
神一郎が、訝しげに魔獣たちを見つめる。
「俺も昼間は来ないと聞いていたから、あいつらが現れた時は流石に泡を食ったぞ」
「眠っている私達を一刻も早く殺すために、信長が、魔獣を常態化させたに違いない」
「信長って奴は、何でも出来るんだな」
「うむ、奴の魔力は底が知れん」
神一郎と大刃が、眼下の魔獣を見ながら話していた、その時だった。
「ガルルルーッ!!」
一頭の虎の魔獣が、彼らの後ろに迫り、飛び掛かかろうとしていたのだ。
「い、いつの間に?!」
神一郎と大刃は、咄嗟に土龍の頭を蹴って飛び上がったが、それを追うように飛び掛かった虎の魔獣の跳躍力が勝り、鋭い牙が神一郎の足に迫った。
次の瞬間、神一郎は、身体をクルリと後方回転させたかと思うと、その勢いのままに、右足で虎の魔獣の鼻っ柱をしたたか蹴った。
悲鳴を上げた魔獣は、足をバタつかせながら、地上でひしめく仲間たちの上に落ちていった。
「ふー、危なかった……」
神一郎が、額の汗を拳で拭う。
「神一郎、ここは現実世界だ。食われたら終わりだぞ!」
上がって来たライカが神一郎を睨んだ。
「すみません、油断しました」
苦笑いした神一郎が、頭を掻いた。
「先ずは、魔獣達を片付けよう。二人で彼らを遠ざけてくれ」
「承知!」
神一郎は、土龍の頭の上から風破を連射して、彼の真下に居る魔獣達を土龍から下がらせた。その空いた地面に下り立った神一郎は、風牙を使って魔獣達を斬り払っていった。
「大刃、そっちは任せたぞ!」
「おお!」
大刃は、土龍の首だけを動かし、土の槍を吐き出して、後方の魔獣を倒していった。
「神一郎さがれ!」
二人が粗方魔獣達を遠ざけたのを見計らって、空からライカの声が響いた。
神一郎が土龍に戻った瞬間、ライカが放った巨大な雷は、途中で幾つもに枝分かれすると、その一つ一つが狙ったように魔獣達を捉え、倒していったのだ。
ほどなく、近辺の魔獣達をせん滅して、ライカが空から下りて来た。
大刃が土龍の蜷局を解いて土に戻すと、真麟を抱いた氷馬が姿を現し、その足元には炎龍斎の亡骸があった。
空を見上げると、日は西に傾き始めていた。
「夜になれば、千人の魔人化した兵士達がやって来て、本格的な戦いが始まる。その前に真麟と炎龍斎様を安全な場所に移そう。大刃、皆は何処に居るのだ?」
ライカが、周りを警戒しながら聞いた。
「年寄りと子供達は龍牙洞に隠れているんだ。そこへ行こう」
ライカを先頭に、大刃と神一郎は炎龍斎の亡骸を担ぎ、氷馬は、疲れ切って眠っている真麟を抱いて、龍牙洞へと向かった。
龍牙洞の前まで来ると、入り口は土砂で塞がれていた。大刃の土の技で、人の通れるほどの穴を開けて中に入ると、そこには、七十人ほどの老人や子供達が身を寄せ合っていた。
「ライカ様!」
龍牙洞に隠れていた人達が、ライカの姿を見て集まって来た。
「無事、真麟を連れ帰って来ました。もう大丈夫ですよ」
ライカが、不安そうな顔の老人達の手を取って、優しく声を掛けた。
そうしている内、入り口付近が騒がしくなって、白龍斎、神龍斎、黄龍斎、幻龍斎達が戦いから帰って来た。
「お父様、只今戻りました」
ライカが前に進み出ると、白龍斎は、彼女の両手をぎゅっと握った。
「ライカ、無事帰って来てくれたのじゃな、良かった。
里の魔獣達は、粗方追い払うことが出来た。今夜の決戦に備えて、一旦戻って来たところだ」
「お父様、炎龍斎様が亡くなられました……。真麟を助ける為に、我が身を犠牲にしたのです」
ライカが、岩の上に横たわる炎龍斎の亡骸に視線を移した。
「そうか、最後は親として、火王家の頭領として、死んだのだな。天晴じゃ。戦いが終わったら、皆で懇ろに弔ってやろう」
白龍斎達が、炎龍斎の亡骸に手を合わせた。
「父上――ッ!」
「あなた!」
何時の間に目を覚ましたのか、真麟が母の紅と共に、炎龍斎の骸にすがって泣きじゃくった。
「氷馬、埋葬してやれるのは何時になるか分からぬ。とりあえず炎龍斎を凍らせてくれんか」
白龍斎に言われた氷馬は、真麟と紅を宥めて下がらせ、寝台のような岩の上に寝かせた炎龍斎を、綺麗に凍らせた。透き通った氷の中の炎龍斎の顔は満足げだった。泣き崩れる真麟に、氷馬が寄り添った。




