真麟奪還②
「炎龍斎様!」
真麟の黒い炎の剣が、炎龍斎の胸に突き立ったのを見て、氷馬が声を上げた。
「ウウッ!」
炎龍斎は痛みを堪えながらも、剣が突き刺さったまま、真麟の両腕を強引に掴んだ。
「ハ、ハナセ!」
真麟が嫌がって身をよじるが、炎龍斎はその手を放そうとしない。真麟は黒い炎の剣を、炎龍斎の胸の奥へと押し込んだ。
「グフッ!」
炎龍斎は口から血を吐きながらも、優しい目を真麟に向けていた。
「お前を救う為なら、この命、何時でも捨てる!」
炎龍斎の顔が厳しくなって、真麟の目を見据える。
「真麟! 目を覚ませ! 真麟!!」
我が命を捨てても、娘を救おうとする炎龍斎の魂の叫びが、真麟の魂を揺さぶった。
すると、真麟の狂気の目が優しい目へと変化していった。
「ち、父上?」
正気に戻った真麟が見たのは、我が子の剣で胸を貫かれながらも、笑みを浮かべている父親の姿だった。
「父上!!」
真麟の叫び声が響いた瞬間、身体が反転して信長の姿に変わったかと思うと、右手を天に突き上げ雷撃の態勢に入った。
天空には、いつの間にか黒い雷雲が渦巻いていた。
「死にぞこないめ。さっさとあの世へ行けい!」
真麟の黒い炎の剣が引き抜かれ、血飛沫を上げて後方に倒れた炎龍斎に、信長は飛び下がりながら、巨大な黒い稲妻を放った。
信長の雷撃は、炎龍斎の身体を一瞬の内に蒸発させ、白い砂浜を真っ黒に焼き焦がして、巨大な穴を開けていた。
そこには、炎龍斎の着衣の切れ端一つ残っていなかった。
「炎龍斎様ーッ!!」
氷馬の叫び声が、暗い空へと吸い込まれていった。
「神一郎、龍笛を吹け!」
ライカのよく通る声に我に返った神一郎が、腰に差していた龍笛を唇に当てた。
ピィ――――――ッピロロロピィ―――ッ!!!
力強い笛の音が、その世界に染み込むように響き渡ると、信長に異変が起き始めた。
「ウウッ、何だこの笛の音は?! やめろ、やめぬか!」
神一郎の笛を聞いて苦しみだした信長は、苦し紛れの雷撃で神一郎を襲う。だが、神一郎は、風に乗りながら軽やかに雷撃を躱し、笛を吹き続けた。
次の瞬間、苦しみ続ける信長の身体から、真麟の身体がフッと分かれたのだ。ライカが、その瞬間を逃さず、彼女を抱きかかえて空に飛びあがった。
「今だ! 氷馬、大紅蓮を撃て!」
「承知!」
それまで、ライカの指示で、紫の光の玉を生成していた氷馬が、その玉を信長に放った。
紫の玉は信長の頭上で破裂し、彼を瞬時に凍らせてしまった。
「神一郎、止めだ!」
「はっ!」
ライカが叫んだ次の瞬間、神一郎の渾身の風牙が、凍りついた信長を脳天から斬り裂くと、粉砕された氷の欠片がキラキラと光りながら舞い散った。
「神一郎、信長は死んだのだろうか?」
氷馬が、砕け散った氷を見ながら言った。
「……どうかな? 心の世界は魔王の住処でもある。恐らく死んではいまい」
「信長は、そう簡単には倒せぬ。氷馬、神一郎、風の里に帰るぞ!」
「はっ!」
ライカ達四人は、一気に現実世界へと浮上していった。
彼らが目覚めた瞬間、目に飛び込んで来たのは、大刃の操る土龍の腹の鱗だった。土龍は、ライカ達の身体を囲むように蜷局を巻いて、襲い来る魔獣達を防いでいたのだ。
だが、魔獣達は土龍の腹に牙を立てて、今にも食い破ろうとしていた。




