氷馬覚醒①
「炎龍斎様、それは、天神が魔人化した姿です! 力は桁違いですから気をつけて下さい!」
神一郎が叫ぶ。
「オオッ! チカラガミナギルゾ……。フフッ、コウナッテハ、オマエタチニカチメハナイ。カクゴシロ!」
黒い闘気が、天神の身体から噴出して、蛇のような目が赤く光った。
「クウッ! お前なんぞの相手をしている暇はない。消え失せろ!!」
焦りの色を隠せない炎龍斎が、一気に火炎龍を立ち上げ、空に飛翔させた。彼は、巨大な火の鳥となった火炎龍を、そのまま天神目掛けて激突させた。火王家奥義、“火炎爆竜”である。
火口内の壁を揺さぶる凄まじい爆発が起きて、天神の姿は爆炎の中に消えた。だが、火炎が収まってみると、地面に開いた大穴の横に、無傷の天神が悠然と立っていたのだ。
天神がゆっくりと右手を翳して、炎龍斎に照準を合わせた。
「クラエ!」
天神の手から、迸るように放たれた超高温の熱線は、猛烈な勢いで螺旋を描きながら、炎龍斎の身体を掠め、後方の岩壁に炸裂した。天神の“魔炎破”である。
爆発の衝撃波はライカ達をも薙ぎ払い、岩壁は大きく抉り取られ、その破壊力は、火炎爆竜の比ではなかった。
「炎龍斎様!」
衝撃波で飛ばされたライカが、倒れたまま動かない炎龍斎に駆け寄ると、彼の右腕は無残に吹き飛ばされ、腕の付け根から血が噴き出ていた。
(掠めただけで、これだけの傷を負わせるとは……)
ライカは、改めて魔人となった天神の力の凄さを思った。
ライカが次の攻撃を警戒して天神の方をチラリと見ると、神一郎と氷馬が天神の前に躍り出て、彼女達を護る態勢をとっていた。
「ウウッ!」
苦痛に顔を歪める炎龍斎に、ライカが懸命に話しかける。
「炎龍斎様、心を強く持ってください! 念じるのです! 身体は復元できます!」
その言葉で我に返った炎龍斎が、心を集中させて必死に念じると、瀕死の身体は魔法のように復元されていった。
「おおっ!」
炎龍斎が狂喜する。
「今の我が身の蘇生の感覚を忘れないで下さい。心へのダメージがありますから、暫くは痛みは残りますが、十分戦えます!」
「すまぬ、ライカ殿」
炎龍斎は、何もかも見通したような、ライカの奥深い瞳に畏怖さえ抱き、思わず頭を下げていた。
天神は、神一郎と氷馬を相手に、尚も“魔炎破”を撃とうとしていた。
「神一郎、此処は私にやらせてくれ!」
氷馬は、両の指で印を結び水龍を出現させると、その頭の上に乗って戦闘態勢をとった。
「大丈夫なのか? 通常の技が効く相手ではないぞ!」
神一郎が、心配そうに下から叫ぶ。
「分かっている。もしも私が死んだら真麟を頼む!」
「……」
氷馬の澄んだ目からは、決死の覚悟が見て取れた。
「ナニヲグダグダイッテイル。ハナシノツヅキハアノヨデヤレ!!」
天神の右手が、赤く光った。
氷馬が、天神の攻撃を避けようと水龍を急上昇させた刹那、“魔炎破”に捉えられた水龍の首が、いとも簡単に吹き飛ばされてしまった。
だが、水龍の頭に乗っていた氷馬は、体勢を崩しながらも水龍を見事に復元して、空中に浮かび上がらせたのである。
水龍の動きは速く、攻撃を加える天神が「捉えた!」と思った次の瞬間には、スッと体を躱していた。
「氷馬、いいぞ!」
神一郎が、水龍の動きを目で追いながら、思わず声を上げた。
天神は、狂ったように“魔炎破”を撃ちまくったが、氷馬を乗せた水龍を捉える事は出来なかった。
ただ、天神の放った“魔炎破”は、広大な噴火口の、壁という壁を砕き、飛び散った岩石が雨あられと降り注いだ為、ライカ達は土の技で防波堤を築き、身を護るしかなかった。
「此れでも食らえ!」
軽やかに身を躱していた氷馬が、突然攻撃に転じた。水龍から吐き出された水が、幾つもの鋭い槍のように変形したかと思うと、それが凍り、氷の槍となって天神を襲ったのだ。
単なる水だと思って避けなかった天神が気付いた時には、氷の槍は彼の身体に突き刺さっていた。
「ウッ!」
呻き声をあげた天神だったが、両足を踏ん張り、身体に力を込めると、突き刺さっていた何本もの氷の槍は一気に砕け散り、傷口は瞬時に塞がった。
「フン、コンナモノデ、ワシ二カツツモリカ? コンドコソ、オワリニシテヤル。ワガオウギ、ウケテミロ!!」
天神が両足をズンと踏ん張り力を込めると、彼の腹部が段々赤みを帯びて来た。そして、身体全体がマグマのように赤く輝き出すと、ニッと笑った裂けた口から、炎が漏れ出たのだ。
「氷馬、危ない!!」
ライカが叫んだその時、天神の裂けた口が大きく開かれたかと思うと、見た事も無いような凄まじい爆炎が、ゴーッと吐き出されたのだ。天神の奥義、“大魔炎”である。
辺りは火の海となり、火口からは、まるで噴火のような巨大な火柱が、噴き上がった。




