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真麟の中へ②

「氷馬、焦るな。必ず方法はある!」


 ライカに励まされた氷馬は、大きな息を吐いて心を落ち着かせようとしたが、真麟の顔が脳裏にチラついて離れなかった。

 氷馬と真麟は、火王家が謀反を起こすまでは夫婦になるはずだった。破談になった後も、彼は、真麟への思いを断ち切れずにいたのだ。


「心で想う事が具現化するなら、あの雲が無くなれと思えばいいのではないか?」


 炎龍斎が事も無げに言った。


「ここは信長が作った世界ですから、それは出来ないのです。私達はこの世界を現実として受け入れるしかありません」


「そうか……」


「信長にとってもあの嵐は脅威のはず、ならば、頂上の何処かに隠れる場所があるに違いない!」


 氷馬が、確信ありげに言った。


「山の頂上にある隠れ場所と言ったら、噴火口の中か……、ライカ様、出来るかどうか分かりませんが、“龍の風”で、頂上付近の雲を吹き飛ばしてみましょうか?」


「そうだな、やってもらえるか!」


 風に乗って飛び立った神一郎は、山の麓に下りると、頂上付近を取り囲む雲をも利用しながら、竜巻を起こしていった。竜巻は、砂塵を舞い上げながら成長し、やがて、天を突く大竜巻となった。


 神一郎は、その大竜巻を山の頂上へと向かわせた。


 ゴゴゴゴゴゴ―!!!!!!


 大竜巻が、頂上を覆う雲を吸い込み、天へと吹きあげていく。徐々に雲が払われ、直径百丈はあろうかという巨大な噴火口が姿を現すと、上空から様子を伺っていたライカ達が、思わず「おおっ!」と、声を上げた。


「これが限界です。今の内に噴火口に入りましょう!」


 竜巻の力の限界を感じた神一郎が叫んで、火口へ向かった。


 神一郎に追いついた彼らは、下方に気を配りながらゆっくりと噴火口の中へ下りて行った。火口は深く、下の方は真っ暗で何も見えなかった。


「何かが来る。気をつけろ!」


 ライカが皆に声を掛けたその時だった。暗い火口の深みから凄まじい羽音が聞こえて来たかと思うと、両翼が三丈【約九メートル】はある、翼竜に似た魔獣達が姿を現したのだ。


 四人は背を合わせる防御体制をとって、下降しながら襲い来る魔獣達と交戦した。だが、ひしめくように襲い掛かる、魔獣の大きな嘴と鋭い足の爪が、彼らを分断させた。


 やむなく、ライカ達は互いの距離をとって、同士討ちに気を付けながら個別に戦う作戦に切り替えた。


 神一郎の風牙が魔獣の翼を斬り裂き、ライカの雷撃に捉えられた魔獣達は、燃えながら落下していった。更に、炎龍斎が出現させた火炎龍の火炎放射が次々と魔獣達を飲み込み、氷馬の冷凍波は、黒い魔獣の身体を真っ白に凍らせていった。


 魔獣達を撃破しながら降下していった四人は、やがて、魔獣達が折り重なって死んでいる火口の底に着いた。火口は下に下りるほどに細くなっていたが、最下部は、巨大な空間が広がっていた。日の光が届く彼らの居る場所は仄かに明るかったが、奥の方は暗闇に覆われていた。


「信長、居るなら出て来い!」


 ライカが叫ぶも、木霊だけが返って来た。


「誰か来ます!」


 氷馬の指さす闇の中から、総髪の長い髪をなびかせた、一人の武士が姿を現した。


「天神!」


 炎龍斎が声を上げた。


「あやつが天神か?!」


 天神の顔を知らなかったライカ達が声を上げると、彼は不敵な笑いを浮かべた。


「天神、信長は何処だ!?」


 突然、炎龍斎が駆け寄り天神の胸ぐらを掴んだ瞬間、彼の身体は宙に舞い、二丈程も投げ飛ばされていた。


「炎龍斎よ、信長様に会いたくば先ず此の儂を倒す事じゃ。だが、お前如きでは相手になるまいて」


 投げ飛ばされ侮蔑された炎龍斎が、憤怒の顔で起き上がり様に火炎弾を放つも、天神に難なく躱されてしまった。尚も、火炎弾を撃ち続ける炎龍斎だったが、天神は右へ左へと軽やかに身を躱し、捉えることは出来なかった。

 

 だが、天神が攻撃へと転じようとしたその時、躱したはずの火炎弾が生き物のようにググッと曲がって天神の身体を直撃した。

 炎龍斎は火炎弾を自在に操れたのだが、天神を油断させるために、敢えて真っすぐな火炎弾を撃っていたのだ。


 よろけながらも踏みとどまった天神目掛けて、炎龍斎が畳み掛けるように火炎放射を放ち続ける。だが、天神は炎に包まれながらも、微動だにせず立っていた。


「此奴、化け物か!?」


 炎龍斎が訝った次の瞬間、火達磨の天神が大きく燃え上がったかと思うと、その中から野獣のような怪人が「ウオ――ッ!!」と叫びながら姿を現したのである。


 一丈【約三メートル】はあろうかという、筋肉質な身体は黒く、長い髪を振り乱した頭には三本の角が生えて、裂けた口からは猛獣のような白い牙が不気味に光っていた。


「な、何だ此奴は!!」


 炎龍斎は、目の前の野獣のような化け物に驚き、思わず数歩下がった。



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