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帰郷①

 風魔谷を後にした五人は、一路、紀州の風の里へと疾風の如く駆けた。


 百三十里の道を、寝る間も惜しんで駆け通した彼らは、三日目の夜に、驚異の速さで風の里を見下ろす山の頂に立っていた。


 神一郎とライカが一年半ぶりに見た風の里は、大きく変貌していた。

 焼失した稲妻家、水上家、土鬼家には、俄か造りの家が建てられており、風家、火王家も含めた五家の庭では幾つもの篝火が焚かれ、厳重な警戒態勢がとられていた。

 二人は、逸る気持ちを押さえながら、赤く揺れる篝火を見ていた。


「街道や谷の要所にも見張りが立っているようです。あれでは、地上から忍び込むのは難しいですね……」


 神一郎が、何か良い潜入方法はないかと思案しながら呟いた。


「ライカ様と神一郎の力で、一気にねじ伏せては?」


 そう言ったのは、日頃冷静な氷馬だった。


「それでは、多くの死人が出る事になる。今は敵とはいえ彼らは同胞だ。むやみに殺すことなど出来ぬ!」


 きりっとした表情で言い切るライカに、神一郎も頷いた。


「となると、俺の出番だな。地中を潜って屋敷の床下に出れば、敵に気付かれずに人質の居場所を探索できると思います」


 勢い込んだ大刃が、神龍斎に進言した。


「うむ、では大刃に行ってもらおう。だが、危ないと思ったら直ぐに戻って来るんだ。決して無理をしてはならぬ。良いな!」


 神龍斎が、猪突猛進の大刃の性格を心配して釘を刺した。


 彼らは麓近くの古びた水車小屋まで下りて、そこを根城とした。里からも離れ、今は使われていないその小屋は、人が寄りつく心配はなかった。



 人質探索の任を受けた大刃は、水車小屋を出ると、火王家の裏山まで山伝いに駆けて行き、そこから地中に潜って火王家の床下に顔を出した。幸い、床下に敵の忍びは居なかったが、館の周りには多くの武士が警戒に当たっていた。


 彼は、床下と天井裏を半時余り動き回って情報を集め、無事、水車小屋に戻って来た。

 

「大刃、何か掴めたか?」


「神龍斎様、火王家の者の話を盗み聞いたところ、人質は、全員龍牙洞に捕らわれて居るようです」


「龍牙洞か……。それで、火王家の様子は?」


「館の内外には、戦支度をした五十名ほどの兵がいました。里全体では百人を越す信長の兵が潜んでいると思われます。炎龍斎が居るかどうかは分かりませんでしたが、真麟はまだ戻っていないようです」 


「あれから一月は経っているのに、真麟が戻っていないのはおかしいな……」


 真麟の事が気になっていたライカが、口を挟んだ。


「真麟の件は、炎龍斎との決着がついてからで良かろう。まずは、龍牙洞へ出向いて、人質の安否を確かめるが先じゃ」


 神龍斎は、そう言って腰を上げた。


 龍牙洞というのは、東の山の麓にある天然の洞窟である。そう広くない穴を、入り口から下方に四十丈【約百二十メートル】ほど下りてゆくと、“龍の巣”と言われる、かなり広い空洞に出る。この空洞には、天井から無数の牙のような鍾乳石が垂れさがっていて、龍が口を開けたように見える事からその名がある。幼き頃、神一郎達が修行と称して皆で遊んだ場所でもあった。


 空は厚い雲に覆われて、月は見えない。神龍斎達は暗い山道を音もなく駆けて、龍牙洞の入り口が見える所までやって来たが、辺りに人の気配は無く、しんと静まり返っていた。


「洞窟の中に人質が居るのなら見張りがいるはずだ。本当に、此処に母上たちが捕えられているのか?」


 氷馬が小声で言って、大刃の肩を小突いた。


「確かにそう聞いたんだがなぁ……」


 大刃が、そんなはずは無いと暗闇に目を凝らしたその時、厚い雲に覆われていた月が忽然と現れて辺りを明るく照らし出した。


 龍牙洞の入り口は高さが三丈、横幅が五丈と、かなり大きい。ぽっかり空いた入り口の岩の上部から、何かが吊り下げられているのが彼らの目に止まった。


 それは、縄で縛られ逆さ吊りにされた、七人の人質達だったのである。


「父上! 母上!」


 大刃と氷馬が、神龍斎の制止も聞かずに、叫びながら飛び出した。


「止むを得ん、行くぞ!」


 神龍斎がライカと神一郎を振り返ると、彼らの身体は既に宙に浮いていた。


 神一郎達は、逆さ吊りになっている彼らを次々と下ろし、縄を解いた。


「逃げろ、罠じゃ!」


 猿ぐつわを外された白龍斎が叫んだ途端、火王家の一団がどこからともなく来襲して、一斉に火炎放射を放って来た。


「洞窟の中へ逃げ込め!」


 神龍斎が叫んで、彼らが洞窟の奥へ身を翻すと、洞窟の入り口は炎の海となっていた。



 火王家の火炎攻撃が執拗に続く中、神一郎達は龍の巣へと追い込まれて行った。彼らは、そこで腰を下ろし一息ついた。


 神龍斎が、懐から取り出した蝋燭(ろうそく)に火を灯し岩の上に置くと、人質となった七人の憔悴した顔が浮かび上がった。彼らは衰弱していて、戦う体力のある者は誰も居なかった。


「あなた、生きていらしたのですね!」


 驚きの顔で神龍斎を見ていた妻の春風が、彼の傍に寄り添った。


「故あって身を隠していたのだ。心配かけてすまなかった」


 神龍斎が、春風を優しく抱きしめた。


「神一郎も良く帰って来てくれました」


 春風が神一郎の手を取ると、ライカ、大刃、氷馬も、それぞれの両親と抱き合って再会を喜んだ。

 

 その時、火王炎龍斎の声が洞窟内に響いて、彼らは現実に戻された。


「ライカ、神一郎、どうやら奥義を会得して帰ったようだが、信長様の邪魔をさせるわけにはいかんのだ。可哀想だが、お前達には此処で死んでもらうぞ!」


 風に乗せた炎龍斎の声が消えたかと思うと、ドドドド-ッ!!! という凄まじい音と共に、大量の水が龍の巣に流れ込んで来たのである。


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