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阿摩羅

これでもかと言うほどに、間断なく降り注いでいた無数の稲妻が止んで見ると、そこには、無傷の魔王が、羽を納めて悠然と立っていた。


「やはり、百龍雷破をもってしても通用せぬか……」


 ライカが力なく呟いた。


「もう、魔王を倒す武器はありません……」


 いつの間にか傍に来ていた神一郎も、肩を落とし、無念の表情を浮かべた。


 二人の間に、長い沈黙が流れた。


 並んで空中に浮いていたライカが、不意に神一郎を引き寄せて、柔らかな唇を合わせて来た。


「えっ?」


 一瞬驚いた神一郎だったが、ライカの熱いものが彼の中に流れ込むと、萎えていた心に力が漲るのを覚えた。

 

「ライカ様!」


 神一郎は、ライカをギュッと抱き返した。


『何の真似だ?……』


 目を閉じ、抱き合って口付けする二人を、魔王が忌々しそうに見ていた。


「忘れたのか神一郎、魔王といえど阿摩羅の力には敵わないのだ。阿摩羅を、いや、自分の中の力を信じようではないか。そして、私の為に、風の里の民の為に、龍笛を吹いてくれ、さすれば阿摩羅も応えてくれよう!」


「承知、心を込めて!」 


「刀を私に」


 ライカが神一郎の刀を受け取ると、二人して魔王に向き直った。


「神一郎、私は自分の力を信じる!」


 ライカが、声高に言った。


「はい、私も自分の力を信じます!」


 神一郎も、それに呼応する。そして、


「阿摩羅の力を信じ、魔王を倒す!!」


 と、二人同時に叫んだ。


 彼らは、自分達の不動の心を、魔王に宣言したのである。



 神一郎は、腰に差してあった龍笛を抜き取り、唇に当てた。


「ピィ―――――――ッ!!」


 神一郎の力強い笛の音が魔界に響き渡ると、二人に止めを刺そうとしていた魔王の動きがピタリと止まった。神一郎の龍笛の音は魔王の一番嫌いな音で、魔力を奪う破魔の力があるのだ。


『何だこの音は! 止めろ! ウウッ、止めろと言っておる!!』


 魔王が、耳を塞いで苦しみ始めた。


 一方、ライカは、神一郎の龍笛を聞いて歓喜していた。神一郎のライカへの思いが、龍笛の調べとなって心に沁み込むと、無敵の阿摩羅の力が彼女の五体に湧き上がって来たのだ。

 ライカにとって神一郎の龍笛は、阿摩羅の力を引き出す引き金でもあったのである。


 二人は風に乗ると、ライカは刀を構え、神一郎は龍笛を吹きながら、山のような魔王目掛けて突き進んだ。


『ウウッ、止めんか!!』


 笛の音に耐えられなくなった魔王が、地団太を踏みながらも、衝撃波を撃とうと巨大な羽を広げた。口からは炎が漏れ出ていて、超火炎放射も同時に放つ気だ。


 途轍もない何かが起きる予兆のような、聴き慣れない雷鳴が天上に轟き、神一郎の龍笛が、それに負けじとライカの心に鳴り響く中、彼女が剣を上段に振り被ると、稲妻が纏わりついて、天と剣を繋いだ。


 そして、魔王が苦し紛れに、衝撃波と火炎放射を放とうとした刹那。


「天魔伏滅!!!」


 ライカが剣を振り下ろすと、百龍雷破の稲妻を一つにしたような途轍もない稲妻が、魔王の頭のてっぺんから足のつま先までを一気に貫き、真半分に切り裂いたのだ。


『グガッ!!』


 高速で動いていた、巨大な羽は折れて吹き飛び、吐こうとしていた火炎放射は、腹から吹き出て自らの身体を焼いた。


 魔王は、音を立てて大地に膝をついて項垂れ、ライカ達に忠誠を誓う格好で炎に包まれ、崩壊していった。


 やがて、燃え尽きた魔王の身体は、塵となって崩れ去った。神一郎の破魔の笛で力を失っていた魔王は、自身を再生する事が出来なかったのだ。



「ライカ様、終に魔王を倒しましたね! 今の技は何なんです?」


「うん、“雷王破”とでも言おうか。百龍雷破の全ての稲妻を一つに凝縮した技だ」


 また新たな技を繰り出したライカに、神一郎が笑顔を送った次の瞬間、二人は、心の最下層にある阿摩羅を覆う硬い岩盤の上に立っていた。


 その岩盤がひび割れ、音を立てて砕け散ると、黄金の光が吹き上がった。


「おお!」


 二人は思わず声を上げた。


 そこには、夢にまで見た阿摩羅の世界があった。ライカと神一郎が、阿摩羅の世界の黄金の光に包まれると、身体中に力が漲り、頭は冴え渡った。そして、全ての力と知恵が、自分の中にある事を感得出来たのだ。


「素晴らしい! 何という力……。心までも浄化されてゆく……」


 二人は、阿摩羅の本流に触れて、思わず跪いていた。


「ライカ、神一郎、よくぞ参った!」


 何とも言えぬ暖かで力強い声のする方を見ると、そこには、黄金に輝く一人の僧が立っていた。


「貴方は!」


 ライカが尋ねた。


「この世界の主じゃ」


「阿摩羅様?」


「そう呼ばれることもある。良いか、第六天の魔王は、一人一人の心の中に居る。魔王との闘いは永遠に続くのじゃ、心せよ。二人して我が力を世の為に使うのじゃ。仲良く生きよ!」


「仰せのままに!」


 ライカと神一郎がひれ伏して誓いを立てた刹那、二人は現実世界に戻っていた。


「ライカ様!」


「神一郎!」


 目覚めると、大刃と氷馬が二人の顔を覗き込んでいた。起き上がった二人は、神龍斎に報告した。


「第六天の魔王を倒し、阿摩羅様にお会いして来ました!」


「アマラ?」


 心の中の話が分からない大刃と氷馬が、怪訝な顔で聞き返す。


「この世界を創り、動かしている実在で、私達の力の源だよ」


「……」


 神一郎が説明するが、いまいち二人には分からなかった。


「よくやった。奥義の方はどうだ?」


「試すまでもありません。既に完成しました!」


 ライカが凛として答えた。


「おお、そうか。では、風の里に帰れるな!」


「はい、直ぐにでも!」


 神龍斎達は、更に逞しくなって戻って来た二人を、頼もし気に見た。

 


 次の朝、五人は旅支度をして風魔千太郎の館を訪ね、丁重な礼を述べた。


「神一郎、ライカ様、お元気で!」


「また遊びに来てくれ!」


 千太郎、小次郎、風夜叉、おばばと、名残を惜しんだ彼らは、泣きながら千切れんばかりに手を振る億太郎と若者達の姿を、何度も振り返りながら紀州へと帰って行った。


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