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深海の死闘②

 神一郎は、瞑目して何かに集中しているライカを左手で抱きかかえると、右手の刀だけで鮫たちと戦った。剛腕から繰り出される彼の刃は、水の中とは思えないほど速く、的確に鮫の急所を突いて倒していった。


 その内、血の匂いを嗅ぎつけた新手の鮫達が姿を現し、怪我をした仲間を襲って、壮絶な共食いが始まった。


 斬っても斬っても、鮫は襲ってくる。


「こいつら、いったい何匹いるんだ!」


 神一郎が必死に戦い続け、体力の限界を感じるようになった頃には、真っ赤な血で、鮫達の動きが見えなくなっていた。


 その時、巨大な鮫の頭が、神一郎達の眼前にぬっと現れたかと思うと、大きな口をグワッと開けた。

 神一郎は、ライカの身体を護ろうとして、反射的に自分の背中を鮫に向けた。


「やられる!」


 観念した神一郎が、ライカを強く抱きしめた。


 その刹那、赤い海水が音を立てて左右に割れたかと思うと、十丈四方の空間が海底に出現したのである。


 海水が無くなった地面には、鮫達の死骸が転がり、襲って来た鮫や小魚達が、バタバタと暴れていた。


 四方に押し広げられた赤い海水の断面の向こうでは、鮫達が鋭い歯で彼らを威嚇していたが、飛び出てくる様子はなかった。


「助かった! ライカ様、これは貴女の仕業なんですか?」


 ホッとしながらも、面食らっている神一郎に、ライカは目を瞑ったまま軽く頷いた。


「信じられない。風を使わずに水を操るなんて……」


 そうなのだ、風一族の技は、風を使って、土や水を動かしているに過ぎない。風を起こせない水の中では、風一族の全ての技は、使えるはずが無いのである。


「神一郎、風を操るのと原理は同じなのだ。お前にも出来る」


 いとも簡単に言うライカに、神一郎は「はぁ」と、空返事をするしかなかったが、現実に、彼女の思うように水は動いていた。彼は、これは心の世界だから出来る芸当なのだと、自分に言い聞かせた。


「どうすればいいんです?」


 神一郎が、半信半疑ながらライカに教えを乞うた。


「風と同じだ。水を思い、水に語り掛けるんだ」


 神一郎が、心を沈めて水と対話してみると、風を動かす時と同じような感覚になった。そして、彼が回れと念じると、目の前の水がゆっくりと回り出し、渦を巻き始めたではないか。


「……信じられん。こんなに簡単に動かせるとは!」


 水は更に大きく渦巻いて、鮫の血で赤く染められていた海水は、元の透き通った水へと変わっていった。いつの間にか鮫達は姿を消していた。


「流石だな、神一郎!」


 ライカが目を開けて微笑んでいるが、水の壁は微動だにしない。彼女は既に、水を完全に制御していたのである。



 その時、吸盤の付いた巨大な長い足が、水の壁を突き破って伸びて来て、神一郎とライカの身体に巻き付いた。ぬるぬるした粘液が纏わりついて、不快感が襲ったかと思うと、次の瞬間には、骨も折れよと二人を締めあげて来たのだ。それは、巨大な蛸の足だった。


「ウウッ!」


 ライカの集中力が切れると、彼女の造った空間は形を失い、二人は再び海中に没した。


 海水が流れ込んだ勢いで、大蛸の足の力が弱まった隙に、神一郎は刀を抜く、その足に突き立てた。大蛸が神一郎を離した瞬間、彼はその足を一気に斬り落とした。


 ライカの方を見ると、彼女も大蛸の足を斬り落として難を逃れていたが、大蛸は怯むどころか猛然と向かって来ていた。


「神一郎、空間を造れ!」


 神一郎が、大蛸の足から逃げながら念じると、再び、海の中に巨大な空間が広がった。


 だが、水が無くなっても、大蛸の動きは止まらない。大きな身体を器用に操って地面を移動し、二人を絡めようと太い足をググっと伸ばして来た。


 その刹那、二人に伸びて来た大蛸の足が白く変色し始め、身体全体を覆っていくと、大蛸は二人を睨んだまま、真っ白になって動かなくなった。


 隣のライカを見ると、両手を大蛸の方向に突きだしている。


「ライカ様、今度は何をしたんです!?」


「大蛸の身体の水分を、氷へと変化させてみた。思いの外うまくいった」


「……」


 神一郎は、次々と新しい技を繰り出すライカに、驚くばかりだった。


 心の世界に来て、ライカはどんどん成長していた。彼女は、怪我で養生している間も、人知れず心の中に入って修行していた事を、神一郎は知らなかった。


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