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望まぬ戦①

 神一郎達と距離を置いて、草原に下り立った真麟は、大刃と氷馬の姿を見つけ、不審げに聞いた。


「大刃、氷馬。貴方達何故ここに居るの?」


「真麟、俺達は仲間じゃないか、何故争わねばならないんだ!」


 氷馬が、説得を試みようとした時、


「逃げ出して来たのさ、火王家の馬鹿共からな。お前こそ、俺たちの前に顔を出せたものだな、この裏切り者め!」


 怒りを露わにした大刃が、真麟を怒鳴りつけた。


「大刃、相変わらず口の減らないこと。まとめて殺してあげるわ!」


 真麟が激昂して合図をすると、火王家の七人は一斉に両手を突き出し、凄まじい火炎放射で、神一郎達を攻撃した。


 その刹那、神一郎達の目の前の大地が、音を立てて三丈【約九メートル】程の高さまで盛り上がり、火炎を防いだのだ。土を自在に操る土鬼大刃の技、土の盾である。


 埒が明かぬと見た真麟は、土の壁に向かって、風に乗せた数発の手投げ弾を投げつけた。火炎を防いでいた土の壁は、たまらず砕け散って、再び火炎放射が三人に迫る。


 だが、そこに分厚い水の壁が現れて火炎を遮った。これは、水神氷馬の水の技である。破壊力抜群の真麟の手投げ弾も、分厚い水の層の中では威力が半減し、神一郎達には届かなかった。


 人数で上回っているとはいえ、五家の内の、風、土、水の技を敵に回しては分が悪いと判断した真麟は、勝負を急いだ。


「火炎八龍で一気に方を付けるわよ!」


 彼女が叫ぶと、火王家の八人は、太さが一丈、長さは十丈ほどもある八体の火炎の龍を出現させた。火王家最強の奥義“火炎八龍”である。


 八龍が放つ凄まじい炎熱は、二十丈ほども離れている神一郎達の身体が痛いほどで、その口から一斉に吐き出される火炎は、氷馬の水の壁をもシューシューと蒸発させた。


「長くは持たんぞ!」


 氷馬が叫ぶ。圧倒的な火炎龍の火力の前に、神一郎達は防戦一方となった。



 遥か後方の林に潜むライカが、思わず立ち上がろうとしたのを神龍斎が止めた。


「もう少し様子を見よう。彼らなら切り抜けられるはずだ」


「はい……」


 心配そうに見つめるライカの黒い瞳の中に、八体の赤い火炎龍が不気味に蠢いていた。



「放て!」


 真麟の合図で、八体の火炎龍の口から火炎弾が吐き出された。火炎弾は、着弾すると爆発的な燃焼反応を起こして、全てを焼き尽くす炎の波となった。蒸発して層が薄くなっていた氷馬の水の壁を破るのに、さほど時間は掛からなかった。


 水の壁が砕け散るのと同時に、今度は、大刃が巨大な土の壁を立ち上げて防ぐが、八体の龍から吐き出される火炎弾の集中砲火の前には、完全な防火堤にはならなかった。火炎の波は、高い土の壁を乗り越えて、津波のように押し寄せて来た。


「一旦逃げよう!」


 神一郎が叫ぶと、彼らは更に二十丈後方に下がり、氷馬が新たな水の壁を作って火炎を防いだ。

 その間に、大刃は、硬い岩を掘削機のように回転させて、幅六尺の縦穴を三丈ほど掘り、そこから横穴を二丈掘り進み、更に角度を変えて五丈掘り進んで、神一郎達を避難させた。



 地上で火炎弾が爆発するたびに地響きが起こり、土塊がパラパラと落ちる暗い穴の中で、神一郎、氷馬、大刃の三人は顔を突き合わせていた。


「まさか、真麟が俺たちを本気で殺そうとするとはな……」


 氷馬が、元気なく項垂れる。


「親が決めたとは言え、お前は真麟の許婚だったものな……。だが、殺さずに追い返すつもりだから心配するな。信長の本性を知れば、彼女もきっと分かってくれる時が来るさ」


 神一郎が氷馬の顔を覗き込み、背中をポンと叩くと、彼は微かな作り笑いを浮かべた。


「神一郎、あの火炎龍を倒す方法はあるのか?」


 火炎弾が着弾するたびに、赤い光が穴の中に差し込んで、急かす大刃の顔を浮かび上がらせていた。


「火炎龍を止めるには、後方で操っている者を倒すしかない。私と氷馬で火炎龍を引き付けている間に、地下に潜り、彼らの背後に出て叩いてほしいんだが、四十丈の距離を掘り進むのに、どの位の時間が必要なんだ?」


「そうだな、この辺りの岩盤は柔らかいから、人が駆けるほどの速さで進めると思う」


「分かった。早速だが行ってくれるか!」


「承知!」


 大刃は、二人を後方に下がらせ、両手を合わして印を結ぶと、火炎龍の居る方向に巨大な穴を掘った。そして、ある程度の空洞ができると、その中で土の龍を出現させた。土の龍は、頭部の巨大な牙を高速回転させて、猛烈な勢いで地中を掘り進んでいった。




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