風の里
(主な登場人物)
風一族の五家と五龍
風一族宗家 稲妻白龍斎 雷の技を使う 白龍
妻 雪
娘 雷華
風家頭領 神龍斎 風の技を使う 黒龍
妻 春風
息子 神一郎
水神家頭領 幻龍斎 水の技を使う 青龍
妻 紫
息子 氷馬
火王家頭領 炎龍斎 火の技を使う 紅龍
妻 紅
娘 真麟
小頭 炎鬼
土鬼家頭領 黄龍斎 土の技を使う 黄龍
妻 菊
息子 大刃
-----------------
風魔頭領 千太郎
息子 億太郎
娘 風夜叉
小頭 小次郎
風魔の宿敵 幻馬
魔王の化身 信長
信長の軍師 天神
最強の小姓 蘭丸
---------------------------------------------
阿摩羅 = この世界の根源の力
---------------------------------------------
<主な風の技>
風破 風の力を凝縮して一気に手から放つ衝撃波
風御 風を使って剣や手裏剣などを自在に動かす技
風牙 鉄をも斬る、風の剣
龍の風 巨大な竜巻を自在に操る技
百龍雷破 一度に、無数の雷を落とす技
雷王破 百龍雷破の全エネルギーを、一つに纏めたような超巨大雷
皇龍雷破 ライカの究極奥義、巨大な電気龍を具現化させて、電機波を吐く
大紅蓮 全ての物を凍りつかせる、氷馬の究極奥義
火炎八龍 八人で八体の火炎龍を操る火王家の必殺技
火炎爆龍 大量の火炎を抱えた火炎龍を敵に激突させる火王家奥義
奈落無限 大地を割って地の底に落とし、閉じ込める土の奧技
---------------------------------------------
<魔軍の技>
魔雷破 信長の黒い稲妻
魔風牙 蘭丸が使う、風牙の魔人版
大魔龍 蘭丸の奥義、巨大な竜巻を龍の如く操る
大魔炎 天神の口から吐かれる火炎放射
魔炎破 天神の螺旋光線
魔王龍 信長の化身(龍)
魔王大破 魔王龍の究極奥義、破壊光線
時は戦国時代――。織田信長が、天下をほぼ手中に収めた頃の事である。
紀州の人里離れた山奥に、風の里という小さな村落があり、その里には、風を自在に操る忍者達が住んでいた。
彼ら風一族には、雷を使う稲妻白龍斎、火を使う火王炎龍斎、土を使う土鬼黄龍斎、水を使う水神幻龍斎、風を使う風神龍斎の五人の統領が居て、水の龍、火の龍、土の龍などの技を使うことから、五龍と呼ばれていた。
忍者の数は約百名、一族合わせて三百人ほどの小さな里である。彼らの多くは、木こりや炭焼き、狩猟、農耕などで細々と暮らしを立てていた。
一族の宗家は、稲妻白龍斎が四代目を継いでおり、この地の統治者である雑賀衆の仕事を受けてはいたが、彼らが戦いの場でその技を使う事は無かった。
それは、技を編み出した、初代宗家の、「風一族が真の力を天下に晒せば、天下人にとっては大きな脅威と映り、一族は滅ぼされるであろう」と言う、遺言があったからである。故に、風一族の技は、今迄世に出る事は無かったのだ。
しかし、戦国の世となった今、五家の頭の中には、
「風一族の技を使わないのは宝の持ち腐れであり、信長や秀吉などの大名に仕えて天下にその名を轟かすべきだ!」
と、主張する者も出て来ていた。だが、宗家の白龍斎はそれを認めなかった。彼は、初代の遺言を、頑なに守ろうとしていたのである。
春が来て新芽は萌え、あちこちから鶯の声が聞こえている。里人の顔も晴れやかで、それぞれの仕事に精を出しており、子供たちは歓声をあげ野原を掛け回っている。
平和で穏やかな時が、風の里に流れていた。
だが、その里に、不吉な影が忍び寄ろうとしている事に、誰も気づいてはいなかった。
風一族の宗家である稲妻白龍斎が、雑賀衆の館へ泊りがけで出掛けていた、ある夜の事。皆が寝静まった稲妻家の館の中を、不審な五人の影が窺っていた。
館では、白龍斎の妻の雪と娘の雷華が同じ部屋で眠っていて、数人の郎党が一人づつ交替で、館の外の見回りをしていた。
黒装束を身に纏った盗賊達は、家の郎党の見張りの間隙を縫って、裏の塀を飛び越えて庭に入り、床下から館の中へと侵入した。
賊たちは母娘の眠る部屋に入ると、痺れ薬を染み込ませた布を彼女達の顔に押し当てた。
賊の侵入に気付いた母娘だったが、痺れ薬が効いてくると身体の自由は奪われ、声を出す事さえ出来なくなった。
彼らは、彼女達の着物を剥ぎ取り、次々と欲求を満たしていった。
ライカは、自分の身の上に起こっている事を、犯される母の姿を見て悟った。怒りに震える目から涙がこぼれ落ちた。
ライカは、まだ、あどけなさが残る十五歳の少女だった。母娘は死を覚悟したが、盗賊達は事が終わると、そのまま何も盗らずに去っていった。
次の日の昼前に、宗家の白龍斎が館に戻ると、白い死に装束に身を包んだ雪が、まるで亡霊のように、玄関の土間に控えていた。
「……何があったというのだ?」
白龍斎の声が低く震えた。
「昨夜、屋敷に賊が入り、……私とライカが辱めを受けました。申し訳ございませぬ!」
「何!」
白龍斎の顔から、血の気がサッと引いた。
「喉を掻き切って果てる覚悟は出来ていますが、宗家に事情を話してからと待っておりました」
「何という事だ……。それでライカは?」
「放心状態となって床に臥せっております。あの子も連れて参ります故、お許し願いとうございます!」
雪は、涙を堪えながら、必死の形相で額を土間に擦り付けた。