第一章 開拓村追放編 第一話 初日
死んだ、のか
いや、意識がある時点で死んだわけではないだろう。なんだかとても暖かい、だが泣き声が聞こえる気がした。
いや、確実に聞こえる。 俺の上から泣き声が。
目を開けてみる。
女性の顔がある。薄い緑色の髪に長いまつ毛、つぶらな瞳を持つ間違いなく美しい女性。だが何かおかしい。俺のことを持ち上げている手?が震えている。いや、よく見ると顔も濡れている。目からは大粒の涙が流れ出ている。
「ごめんね、ごめんね、うっ、あっ、うぁぁぁんっ。」
どういうことだ?俺は今どうなっている?女性の泣く顔など久しく見ていない。最後に見たのは奈々と別れた時だったか?。 いや、今はそんなことはどうでもいい。
なぜ死んでいないんだ?
これが話題に聞く異世界転生なのか。
まあいい、転生したのだろうと生きる理由などない。このまま自分の首を絞めて死んでしまおう。
無理でした…。
今の俺は赤ん坊らしい。この小さく弱い腕では無理だ。というかまともに手が動かせない。
とりあえず周りを見てみよう。男性がいる。髪は金髪で耳にはピアスみたいなものをつけている。それなりに顔は整っているが、チャラいという言葉がよく似合いそうだ。そんな男が床に膝をつけてこちらを見て呆然としている。そして、突然我に返ったかと思ったら、今度は泣きそうな顔して、抱きついてきた。
「ごめんっ!ごめんっ!、サリー!」
もう訳がわからない。やっと死ねたと思ったのに。
お前らの訳の分からない行動で死ぬ気も失せてしまった。というか、人の温もりなど久しく感じていない。なぜかわからないが嬉しい。こんな気持ちになったのは、久しぶりだ。俺も泣きそうになる。いや元から泣いてはいたが、さらに大きな声で泣き出した。この時俺の心は少なからず救われてしまったのだ。
どれくらい寝ていたんだ?目が覚めるとそこは見覚えのない天井だった。隣を見てみると母親らしき人が寝ている。
「ごめんっ!ごめんねっ!シリっ!」
待て、今なんつった?シリと言ったか、あの話しかけるだけで応答して、こちらの質問に答えてくれるが、たまにいらつかせるあれの名前で俺を呼んだのか⁉︎この世界にもシリが?いや、そんな訳ない。電子機器があるような世界とは生活のレベルがまるで違う。などと考えているといきなりドアが勢いよく空いた。
「生まれた?生まれたの?ねえ見せてよぉ〜、見せて見せて!」
「ダメだっ!入るな!セラ!」
セラと呼ばれた綺麗な赤毛の髪のロングで下ろした四歳くらい女の子が駆けながら入ってきた。
「えっ、黒髪っ、ウソでしょ。」
セラという子はびっくりしていた。そしてその目には恐怖の色らしきものがはっきりと浮かんでいた。数秒間彼女と目を合わせたままだった。彼女が親に連れていかれるまで彼女の目の恐怖はずっと変わらなかった。
これが俺の異世界での初日の出来事だ。