あなたの背後には猫がいる!(仮短編)
ふと思い付いた短編です。少しでも、楽しんで頂ければと思います。
私には、普通、人に見えないものが見える。
といえば、幽霊や精霊などを思い付くだろう、普通は。
残念ながら、そんなものは見えはしないし、私は、霊感や精霊眼なんて特別なものは持ってはいない。
私が見えるものは……。猫、そう猫なのだ。
そこの人、呆れた顔しないで下さい。
猫は猫でも、背後にいる猫のことなのよー!
こほん。
つまりですの。私、あなたの背後にいる猫が見えるのですわ。
そこのあなた、今、思いっきりバカにしませんでした?
私、嘘つきではなくてよ。
本当に、背後に背負っている皆様の大なり小なりの猫が見えるのです。
その背後の猫というのは、ずばり、猫被りでしてよ!
あなたが、どれだけ猫を被っているのかが分かるのですわ。
どう、驚きました?
背後に猫を背負った人ばかり見てきました私の方のが、驚きの連続でしたけどね。はぁ。
と、まぁ、失礼しましたわ。
私、ユーリ・キャトー・スミウソカ、14歳、これでも辺境伯爵家の次女で御座います。
山奥の辺境でのんびりと育ちましたので、多少は元気過ぎますが、一応これでも来月から王都の学校に通う予定の淑女ですわ。
はぁ、本当は王都になんか行きたくないー。
考えても見て下さい。王都ですよ、王都!
どれだけ人がいると思うのですか!
どれだけ背後猫が……。
実は一度、4歳の時に王都には行ったことがあるのです。それで、何があったかといいますと……。
あまりの人と背後猫を目にして、見事に泡をふいて倒れ、高熱で一週間寝込みました。
それ以来、人の多い所には、行ったことはありません。
とにかく、大勢の人が恐いのです。
暫く、辺境の領地に帰ってから引きこもりになりましたわ。
毎晩、魘されて、巨大猫に押し潰される夢を見たり、とにかく、泣いてばかりの日々でした。
でも、私は背後猫を克服しましたわ。
辺境の自然豊かな森や生き物、素朴な領地の人々、勿論、大好きな家族の優しさに囲まれて。
私の周囲の背後猫ちゃんは、皆さん、可愛らしいのですわ。
肩にちょこんと乗っているぐらいの、愛らしい猫を飼っている方が多いのです。
我が領地の皆さんは、自分に正直に生きているのですわ。
私は、この辺境の領地が大好きなのです!
ですから、領地から王都になんて本当に行きたくないのです。
王都は、魑魅魍魎の集まる恐ろしい所ですもの。
見たくもない、背後猫をおそらく沢山見ることになるのですわ。
さて、私の見える背後猫について、少し説明させて頂きますわ。
私の知る限り、背後猫を背負っていない人は、一度も見たことはありませんね。大なり小なり誰でも少しは猫を被っているのです。誰しも。
私にも頭の上に手のひらサイズですが、ミニマムな子猫がいますのよ。鏡で見えますの。
その背後猫さんは、嘘をつくと膨れたりしますわ。だから、その人が嘘をつくと分かってしまうのです。
また、その男女間の、所謂、浮気とか二股なども、分かってしまうのです。浮気をしている男女の背後猫がイチャイチャするので。
つまりは、背後猫さんを見ると、私はある程度、その人となりが分かってしまうのです。便利な能力だと思われるかもしれませんが、その人から語られる言葉と背後猫の様子が全く異なることなんてよくありますし、本当に人間不振になってしまいますわ。
そういえば、あれは夢だったのか現実だったのか。私が2、3歳?いくつの時のことだったのでしょうか……。
領地の花畑で遊んでいたら、突然、男の子が空から降ってきたのですわ。落ちてきたというより、そう、ふわっと風に乗ってやってきたみたいな?
キラキラ輝いている天使みたいな可愛い子でした。
あの頃は、背後猫のことも、よく分かっていなかったので、その子と私の豆粒みたいな小さな猫ちゃんが、楽しそうに踊っているのを見て、二人で一緒に遊びました。その天使さんも、猫ちゃんが見えて、すごく温かく楽しかった記憶が残っております。
あの天使さんは、おそらく、精霊のような存在だったのかもしれません。2度とは会えませんでしたから。
あ、一瞬、現実からまた、逃げ出したくなりましたわ。すみません。
実は、明日が出発なのです、行きたくない王都への。
2つ年上の姉が王都の学校に通っていますので、心強いのですが……。それでも、王都への敷居は、私には高すぎます。
本当に行きたくない。
今夜は、両親や兄たち家族と、暫しの小さなお別れ会をしましたわ。
やはり、両親も兄も私のことが心配らしく、学園なんて卒業しなくても戻ってきていいと言ってくれました。
本当に私に甘いのですから。こんな優しい家族が大好きです。
だから、その夜はなかなか寝付けず、泣いてしまいましたわ。
そして、翌日。
私は、家族と涙の別れを惜しんで、王都にむけて出発したのです。馬車から見える領地の景色を脳裏に刻み付けて。
王都に向かう道中は、何事もなく平和に進みましたわ。
途中、魔獣などが襲ってきましたが、辺境の騎士の敵ではありません。
まぁ、私もちょこっと魔獣を倒したりしまして、大人しく馬車に乗っていて下さいと、怒られてしまいましたが……。だって、じっと馬車に乗っているだけなんて、退屈ですもの。
そうして、退屈な馬車の中で、欠伸を噛み殺しながら、長い道中、ひと月ぐらいをかけ、漸く王都に辿り着いたのですわ。
馬車からちらっと王都の景色を眺めると、思わず顔がひきつりましたわ。
何て、人と背後猫の多いこと。凶悪な背後猫を背負っている人が多すぎです!
あぁ、気分が悪くなりますわ。
馬車から見える王都の景色、皆さんはきっと美しく見えるのでしょうね。羨ましいです。
私には、地獄にしかみえませんもの。
そうしているうちに、馬車はとある屋敷へと入っていきました。学園から程遠くない場所に王都の屋敷があるのですわ。
馬車が到着すると、お姉さまが待っていて下さったらしく、すぐに出てきてくれましたわ。
私たちは、久しぶりの再会を大いに喜びました。
それからは、沢山の積もる話をしましたわ。
辺境の領地や領民のこと。お父様、お母様、お兄様たちが元気なこと。お姉さまは、嬉しそうに私の話を聞いて下さりました。
やはり、お姉さまも辺境を離れて寂しかったのでしょう。
その後は、お姉さまからの学園の話を色々と教えて頂きましたわ。お姉さまは、私の背後猫の見える体質をとても心配していられました。
でも、お姉さま、大丈夫ですわ。これでも私、少しは強くなりましたから。
まずは、入学式、頑張って耐えてみせます!
そうして、やって来ました入学式。
お姉さまと一緒に学園へ。
話には聞いていましたけれど、広い敷地に大きな建造物ですわ。
きょろきょろしながら歩いていると、やはり、密度が高すぎます。背後猫が、皆さん大きすぎですわ。それに、凶暴そうです。
お姉さまの猫さんは、こんなに可愛らしいのですのに。
やはり、王都は騙し騙され、悪魔の巣窟なのですわ。
講堂に入り、新入生なのでここでお姉さまとは、一度別れます。ちょっと不安ですが、あまり周囲を見ないようにして席に着きました。
いよいよ、入学式が始まります。
学園長の挨拶です。あら、学園長の背後猫さん、何故か顔色がよくないですわ。学園長は丸々でっぷりとしていますのに。何処かご病気なのかしら?
ぼんやりと考えていると、突然、物凄い悲鳴が聞こえてきました。あまりの煩さに思わず耳を塞ぎましたわ。
何事かしら?と思い、顔を上げて壇上を見ますと……。
「キャー、会長」
「素敵ー」
「あぁ、もう、神!」
何やら多くの声が悲鳴が飛び交っていましたが、私は、それどころではありませんでした。
あれは、なに???
私の目は、壇上にいる男性の背後に釘付けです。
あんな、背後猫、見たことない!
巨大過ぎで、何て冷たい顔の猫さん。
しかも、色が変わるのです。青になったり黄になったり黒になったり。
はぁはぁ、息が苦しいです。何故か涙が零れてしまいます。
講堂を全て覆い尽くしてしまう、巨大猫。
もう、駄目ですわ。私……。
お姉さま、ごめんなさい。最後まで入学式に参加できなくて。
そうして、私の意識は暗転。
ただ、意識を失う瞬間、巨大猫さんと目があったような気がしました。
声が聴こえたような……?
『見つけた』
前略
お父様、お母様、お兄様
どうやら、私、平穏無事な学園生活を送れないかも知れません。