17.「『予言の皇女』エレオノーラ」
――エレオノーラ・シドアニア。
それが、彼女が生まれて最初に付けられた名前だった。
現国王と王妃の間に生まれた、二番目の子供――
曰く、彼女の出生を巡って、教会からとある予言があったという。
――刻、二十四度、双子月が満ちたる後に、救世の勇者が現れり。
その者、次なる皇女の導きの元に、世を救う大業を成さん――
王妃の胎が膨らみ出した頃、その予言が王宮の最奥へと届けられたのだった。
当然、王宮は騒然となったのは言うまでもない。
「ええい、なんと言うことだ! 生まれるのは女の子なのかっ!? しかし、やってくれたな教会の連中め……! これでは、とんだネタバレではないか……!」
国王はちょうど王妃と共に、赤子向けの玩具を手に、「生まれるのは男の子だろうか、それとも女の子かな?」と和気藹々と語っていた所だったのだが――
突然のネタバレに、冷や水を引っ掛けられたように憮然とした様子。
そんな王様らしからぬ、愛嬌を見せる彼だったが……やがて国王の顔になると、立ち上がり真剣な表情を浮かべるのだった。
――彼はすぐ理解した。その予言の重要性を。そしてその予言が我が子にとって、そしてこの国にとって、何を意味するのかということを……。
決断は早かった。すぐさま臣下たちに向かって号令を下す。
「生まれて来るのが、男ならレオナルド、女の子ならエレオノーラと決めておったが……まずは何よりも、エレオノーラを守らねばならん! 箝口令を敷くのだ! 予言のことは、絶対に漏らすでないぞ!」
王には、ある予感があった。
もしこの予言の通り、皇女が生まれたとしたら――
もし予言の通りに救世の勇者が出現することを、都合が悪いと思う者がいたとしたら――皇女を暗殺しようとするかも知れない。
それは、これから生まれるであろう娘に対する愛情でもあり、一国の国王としての『利』を考えた末の判断でもあった。
そしてすぐさまこの予言は、秘密裏に闇へと葬られることになる。
そして、それから半年後。
予言の通り、王妃の元に元気な皇女が生まれたのであった。
予言はエレオノーラ皇女の安全の為、秘密裏に処理されたハズだった……
――しかし。
十余年の後、エレオノーラを狙ったテロが勃発。
幸い皇女の身に別状は無かったものの、この事件を重く見た国王は、公式にエレオノーラ皇女の死を発表――その裏でエレオノーラは、王家と繋がりが深い『アークフォルテ家』の元へ引き取られ、身を隠すことになったのだった。
――『エレオノーラ・シドアニア』から、『レオ・アークフォルテ』へ。
名前を変え、姿を変え。普段は俗世から隔離された鳥かごのようなお屋敷で生活し、週に数分の間だけ、社交界に顔を見せるだけの日々……
幸いにもその後、再びテロが起こることは無かった。
しかし、そんな生活の連続に、エレオノーラは焦燥感を感じていた。
(このままこの鳥かごのような部屋で過ごしていて、良い訳がない……!)
(私は、もっと世の中を見てみたい! そして、強くなって……自由になるんだ。その為には……)
そしてエレオノーラは、自らアークフォルテ家に直談判し……やがて、カルネアデス王立異能学院への入学を取り付ける。
――そしてエレオノーラは、二人と出会ったのだった。
トーヤとリゼ。
二人はそれぞれ異質な強さを持ち、私の上を飛び越え、証明して見せた。
私はすぐに確信した。間違いない、彼らこそがいずれ世界を救うという、『救世の勇者』であると……。
そして、エレオノーラは考える。
(私が彼らと出会うことも、私が生まれる前から予言されていたというのか……? だとすれば、封印された『予言の続き』とやらも……)




