11.「『翡翠の国』の石鹸と、天使少女は出オチする。そして、お風呂上りへ――」
――そして、しばらくして。
モクモクと湯煙が漂う、豪華な宿屋の浴室にて――。
お互い一糸纏わぬ姿で、湯船で向かい合う、少年と少女が一組。
リゼから解放された、僕とエレナだったのだが……。
「すっ、済まないっ! 私の粗末な体を、その……押し付けてしまってっ……!」
「全然っ、そんなことなかったですっ! その、気持ちよかったですし……!」
「っ…………!」
僕の言葉に、エレナは恥ずかしそうに顔を真っ赤に染める。
……何というか、こっちが申し訳なくなるぐらいの恥ずかしがり方だった。
「良かったね、エレナ? トーヤ君、気持ち良かったって……」
「な、何度も言うなっ……恥ずかしい……」
――まるでその姿は、さながら親の後ろに隠れてしまうような、恥ずかしがり屋の小さな女の子のように……。
エレナは消え入るような声で呟くと、ブクブクと湯船に潜ってしまう。
そしてリゼは、僕の方を振り返る。
「……ねえトーヤ君、『石鹸』、使ってみない?」
そう言って、リゼが僕に提案する。
そうか、『翡翠の国』の石鹸か……色々有りすぎて、すっかり忘れていたけれども……。今回のお風呂は、それを使ってみるのが目的だったことを僕は思い出す。
「そ、そうですね……それじゃあ、使ってみましょうか!」
そして僕たちは浴槽から上がると、体を洗うため、『翡翠の国』の石鹸を手に取ったのだったが……。
エレナはただ一人、湯船に潜ったまま、一向にお風呂から上がってこない。
「……? エレナ?」
「気にしないでくれ……私は、しばらくお風呂に入っているっ……」
ブクブクブク……。
イジけたように、湯船の中で、体育座りの姿勢をするエレナ。
――あのエレナも、こんな風になるんだ……。
意外に思いながらも、僕はそっとしておいた方がいいだろうと判断する。
そして――そんなエレナをよそに、僕とリゼは、一足先に『翡翠の国』の石鹸を試すことにしたのだった。
――ぴちゃっ、ぴちゃっ。
水気の張ったタイルの上を歩くと、小さな水音が鳴る。
そして僕とリゼは、備え付けの小さな木の椅子に腰掛けると――『翡翠の国』の石鹸を手掴みに、わしゃわしゃと泡立てる。
――これは……!
僕はすぐに、それが普通の石鹸でないことを理解させられたのだった。
まず第一に、泡立ちが凄い。
きめ細やかな泡から、思わずウットリするようなアロマな香りが漂ってくる。
それでいて、質の悪い石鹸に有りがちな、ひりつくような感覚は皆無――。
吸い付くような感覚に、思わず肌が蕩けそうになる。
――凄いな……これが、『翡翠の国』の石鹸……! 道理で、金塊と同等に取引される訳だ……!
「これ……肌が、もちもちする……」
流石のリゼも石鹸の凄さに、驚いている様子だった。
手で泡を作りながら、ゆっくりと体に塗り付けていく。そして――
「――ねえ、トーヤ君。体……洗いっこしましょう?」
――むぎゅっ。
そして僕とリゼは、あっという間に泡まみれになってしまうのだった……。
やがてリゼは、泡だらけの体で、浴槽の方を振り向く。
「ふふっ……次はエレナね」
「わ、私は遠慮しておこうっ! 二人で楽しんでくれ――」
「……ダメ。エレナも一緒に、ね?」
「わわっ、胸ばかり触るなぁっ……!」
リゼはエレナを引きずり込むと、僕にしたように、体全体を使ってエレナの体を泡だらけにしてしまう。
そして――仲良く三人とも、泡だらけになってしまったのだった……。
◇
そして、一方その頃――。
誰もいないハズの脱衣所には、バスタオルを巻いたギブリールがいたのだった。
『ようやく間に合った〜! えへへ、トーヤのお風呂……!』
嬉しそうに呟く、ギブリール。
薄いドア一枚の向こうにいる、『想い人』に思いを馳せ――ギブリールは一人、ドキドキした様子で、ドアの前にフワフワと浮かんでいた。
あれから女神さまのために、大急ぎで晩ご飯を作り、一緒に食べ、そして食器洗いまで済ませてきたのだ。
それも全て、トーヤくんのお風呂を覗くため……!
ちょっとぐらいなら、覗いても良いよね? だってトーヤくんは、ボクのこと、可愛いって言ってくれたし……
それに……トーヤくん相手なら、ボクも覗かれても構わないし……なら、トーヤくんだって構わないハズ……だよね?
ドアの向こうから、ザバーンと水音が聞こえてくる。
――きっと今頃、トーヤくんは体を流しているハズ……!
ふふっ、トーヤくんのこと、ビックリさせちゃおうかな?
そしてギブリールは、一思いにドアを潜るのだった。そして――
『――お、大きいっ……!』
ぐはあっ!
ギブリールは盛大に鼻血を吹き出すと、後ろへ仰け反り、フェードアウトする。
(ギブリール!?)
突然現れた、(そして消えていった)、ギブリールに内心声を上げつつ――僕は目で追うことしか出来なかったのだった……。




