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どうやら勇者の中に一人、暗殺者が紛れ込んでいるようです。  作者: 桜川ろに
インタールード~シドアニアの王都にて~
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02.「暇を持て余した『大英雄』の遊び」

 ……それはまさに、大空間だった。

 白いタイルが一面に敷き詰められた室内には、大人が何十人も入れそうな、大理石の巨大な浴槽(よくそう)があり。

 浴槽いっぱいに、満ち満ちたお湯。

 石膏の女神像の瓶から、ジャボジャボと止めどなくお湯が流れ出てくる。


 ――湯けむりが立つ、そこは貴族の大浴場……。


 (ぜい)()らして作られたその浴室の中で、お風呂に浸かっていたのは、長い金髪の少女を含む、五人の美少女たち。

 その中で中心にいたのは、THE・貴族の令嬢といった雰囲気の、金髪の少女。

 彼女こそが他でもない、『大英雄』――カタリナ・ノーウェンであった。


 幼さを残した、あどけない顔立ち。そして、美しいブロンドの髪。

 ――しかしその右手には、()()()()()で満ちた(グラス)が握られていたのだった。

 少女は杯を傾けると、いかにも美味しそうに飲む。


 そして『大英雄』カタリナ・ノーウェンは、女の子たちに囲まれながら、ワイングラスを片手に、得意げに女の子たちに武勇伝を聞かせるのだった。


「あれは私が北の砦に、『ミストランドの巨大鬼』を討伐しに出掛けた時のことだったわ……」


 そして周りの女の子たちは、カタリナが語っている間、きゃーきゃーと(はや)し立てるように声を上げる。


「流石はカタリナ様ですわ!」

「流石です、『大英雄さま』!」



「いいわ、もっと褒めて! もっと称えて! 私の事をもっと持ち上げなさいっ」


「カタリナ様はこの国一の――いえ、大陸一の大英雄ですわ!」

「いいえ、大陸どころで収まる器じゃありませんわ! 宇宙一の大英雄です!」


 言われた通り女の子たちが息を揃えてカタリナを持ち上げると、カタリナは嬉しそうに、ニンマリとした笑顔を浮かべる。


「そんな、宇宙一だなんて♪ 嬉しいわっ! だから……抱きしめちゃえ!」


「きゃっ、嫌ですわ、そんな所……♡」

「きゃーカタリナ様のエッチ!」


「にゃはは、良いではないか〜! ほれほれ〜」


 カタリナは逃げる女の子たちを追いかけて、後ろから抱きつく。

 その度に女の子は黄色い声を上げて、イチャつき、じゃれ合うのだった……。



  ◇



 ――そして、お風呂上り。

 体から湯気を立ち上らせながら、カタリナはバスタオルを体に巻き付けて、脱衣所の方へと上がっていく。

 そこでは一足先に上がった女の子たちが、()()()()に着替えている最中だった。


 カタリナは棚にワイングラスを置くと、まるで友達に声を掛けるかのように、その女の子たちに声を掛ける。


「みんな、今日も楽しかったわ! 演技も板について来たし……流石は私のメイドねっ!」

「もうこれで五回目ですからねー。……あ、その『美味しいぶどうジュース』の瓶とワイングラスは、私が片付けておきますね」


 そう言って、メイド服に着替え終わったメイドは、カタリナの手元から『美味しいぶどうジュース』の瓶とワイングラスを回収する。


 「もしかして……お風呂で女の子たちを侍らせながらワイングラスを持ってたら、スケベな貴族みたいじゃない!?」という、毎度のカタリナの思いつきに、メイドたちが巻き込まれた形だったのだが……


「……けど、『ぶどうジュース』っていうのは格好がつかないわよね……。銅貨一枚ぽっきりで『好色貴族』のなりきりが出来るのはいいけど、いい加減、本物のワインでやりたいものだわ……」


 カタリナが、ボソリと呟く。

 それを聞いたメイドの女の子は、慌ててカタリナを(いさ)めるのだった。


「お酒を飲みながらお風呂は危ないですから、絶対ダメです! そもそもカタリナ様は未成年ですから、お酒は飲んじゃダメでしょう!?」

「……でも、『偉い先生』とかとご飯を食べる時、お酒飲んでるし……」

「それも本当はダメなんです!」

「……え、そうなの?」


 キョトンとした様子のカタリナ。

 それを見て、メイドは「はぁ……」とため息を吐くのだった。


「とにかく、このことは御屋形様に相談しますから、これからはお酒を勧められても、絶対に飲まないようにしてくださいね?」

「……はいはい、分かったわ」


 そう言ってカタリナは、ガックリと肩を落とす。

 ううっ、お酒、大好きなのに……。そしてカタリナは、メイドたちが出て行った脱衣室で一人、着替える。


 これが『大英雄』カタリナの日常だった。



  ◇



 そして、その後――。

 寝間着姿に着替え終わったカタリナは、自室へと戻ったのだが……。

 のんびりとソファーに腰掛けていたカタリナの元へ、コンコンと、小さくドアをノックする音が聞こえてくる。


 そしてドアを開けて現れたのは、新人メイドの『アリス』だった。

 最近このお屋敷に雇われた新入りで、いつもおどおどしているのが可愛い、小柄な女の子メイドである。


 そして、そんなアリスであるが……どうやらカタリナに届け物らしい。何やら大事そうに白い封筒のようなものを抱えている。


「あの……カタリナ様に、届け物ですっ。直接渡してほしいって……」

「ありがとーっ、アリスちゃん! ぎゅーってするね!」

「うーっ……」


 そしてカタリナは、アリスから封筒のようなものを受け取る。

 何やら入っているのは手紙だけではないようで、手に持つとずっしりと重い。


「ん? 何かしらコレ。重いけど……って、金貨じゃない!」


 中には差出人不明の手紙、そして……何と、大量の金貨が入っていたのだった。

 そして手紙には、こう書かれてあった。


 ――『大英雄さま』を見込んで、仕事を依頼したいと思います。

 ――そのお金は前金です。仕事を受けるなら更に出します。


 ……ごくり。カタリナは、生唾を飲み込む。

 そう、これはいわゆる、闇営業の誘い……!


「し、仕事の依頼ですって……! 私に直接!? しかも、こんなにいっぱいの金貨が……!」

「ですがカタリナお嬢様、流石に怪し過ぎでは……?」


 完全に目がお金マークになってしまったカタリナに対し、年下のアリスが冷静に諫めるのだったが……カタリナはアリスの制止を振り切り、宣言する。


「いいえ、受けるわ。前金で金貨十枚なのよ? 仕事を受ければ、もっと貰えるハズ……! ふふっ、これだけのお金、きっと遊び放題よねっ!」

「しかし……身元が不確かな相手とは、お付き合いをしてはいけないと御屋形様が……」


 おずおずとアリスがカタリナに忠言する。

 しかしカタリナは、きっぱりと言い切るのだった。


「不確かなわけないじゃない! このお金が身分の証明よ。こんなに金を持っているなんて、きっと凄いお金持ちの立派な方なんだわ……!」


 ウットリとした様子で、カタリナが呟く。


「いい、このことは誰にも内緒よ?」

「は、はいっ……」


 アリスはおどおどした様子で頷く。


 …………。


 かくして『大英雄』カタリナは、身元不明の差出人からの依頼を受けることになり――『剣聖』のリゼを巡る、大陰謀へと巻き込まれることになるのだった……。

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