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08.「"アイギス"・モード『スフィア』。そして、僕たちの逆襲が始まる」

 魔の森(イービルウッズ)にて包囲網を敷き、虎の子の馬車から潰す戦略を取る、狡猾な魔物達。

 しかしそんな計略も、『球形(スフィア)の壁』が打ち砕いたのだった。


 "アイギス"・形態(モード)球形(スフィア)』――!


 馬車の周囲360度を取り囲む、半透明の絶対防壁が、魔物の攻撃の一切を阻む。

 ゴブリンが、ワイルドボアが――ものの見事に壁に弾き返される様子を、リゼとレオは驚いた様子で見つめていた。


「これは、結界……!? この力……そうか、トーヤ、君がやったんだな。……くっ、私が知らない内に、また君は成長したというのか……。トーヤ、一体いつの間にこんな力を身につけたんだっ?」

「それはその、塔で色々あって……とにかく、そのことは後で話すよ」


 レオに問い詰められた僕は、そう言ってはぐらかす。

 話すにしても、まずはギブリールのことから説明しないといけないし……それに、まずは目の前の魔物を倒すことが先決だ。


 そして――リゼを見ると、どうやら既にやる気になっている様子だった。


「……これで、守る必要もなくなった。後は……あの魔物達を倒すだけね」


 今までのもどかしい戦いに、よっぽどフラストレーションが溜まっていたのだろう。見るからにウズウズしている。

 そして、共闘している騎士のアンリさんも――"アイギス"の力を目の当たりにして、驚いた様子で呟くのだった。


「――これが、【盾】の異能の力だというのか……!? コモン級だと聞いていたが……。さすがは『塔』の踏破者だ。規格外だな……」

 

 しかしすぐに切り替えると、アンリさんは槍を構えて言う。


「しかし、これで助かった。守るだけでは性に合わんのでな……騎士アンリ・ナスターシャ、一気に攻勢に出るッ!」


 そして、一気に僕たちの逆襲が始まる――!

 僕たちは思い思いに、魔物たちに向かって行く。

 そして、今までの戦いが嘘のように、僕たちは魔物をなぎ倒すのだった。

 

 僕の戦いは、遊撃からの撹乱だ。僕はギブリールと共に、戦場を縦横無尽に駆け巡ると――死角から、魔物の首を掻き切って回る。


 まだまだ対魔物の戦闘の経験が少ない僕にとって、これは貴重な実戦機会――あまり"暗技"を大っぴらに使うものじゃないけれど……

 今だけは、そうも言ってはいられない。


 影と化し、陰から近づき――そして最も脆弱な点を突くッ! 


 【縮地】からの【影取り】、それによる【影討ち】――!

 そして僕が差し出した刃は、呆気ないぐらい抵抗を受けずに、魔物のうなじへと突き刺さったのだった。



「不思議な戦いだ……一見して猪突猛進、無謀な戦い振りに見えるが、実際に無防備を晒しているのは、魔物の方……」


 そんなトーヤの戦い振りを遠目に見ながら――アンリは一瞬、つい槍を振るう手を止め、唸るのだった。


 今まで見てきた戦い方の、どれとも違う。

 勇敢な戦士なら、今までいくらでも見てきた。けれどあの少年は、魔物に気付かれることなく、死を運ぶ……まるで、戦場に踊る死神のようではないか……!

 

 そして、魔物の命を確実に刈り取る、圧倒的な剣捌き――!

 異能抜きで魔物を倒してのけるなんて、聞いたことがない……。こんな人材、一体、どこに埋もれていたんだ……!?


 驚愕するアンリをよそに、戦いはなおも続いていく。


 そして、その後――戦いは、僕たちの圧倒的な有利で進んでいた。


 元々、普段のペースで戦えば、何の事もない敵なのだ。

 【剣聖】のリゼ、【雷撃】のレオ、【氷雪槍】のアンリ――こっちには、これ以上ないぐらいのメンバーが揃っている。


 レオもリゼもアンリさんも、順調に魔物を殲滅している。

 後は、アイツ(・・・)を倒すだけ――!

 そして僕は、戦場を駆け巡りながら、『ある物』を探すのだった。


 何の理由もなしに、魔物がこんなに無尽蔵に湧いてくるわけがない。

 それに、魔物らしからぬ統率の取れた動き……

 間違いない、この戦場のどこかに、ヤツ(・・)がいるハズ……!


『トーヤくん、あれ――』


 僕の後ろで、ギブリールが声を上げる。

 そして僕は大樹の陰に、それ(・・)を見つけたのだった。


 ――居た。


 魔物でありながら、(いにしえ)の魔導士のような黒いローブを身に纏い、宝珠の付いた木の杖を握っている。


 ()()()()()()()()()()()――!

 ヤツこそがこの戦場をコントロールしていた、群れの裏のボス……!


 魔物の中でも、特に闇の術に通じ、死者を意のままに操る……

 道理でいくら魔物を倒しても、湧いてくるわけだ……! 

 単体の戦力はそれ程でもないものの、本体を倒すまで延々と魔物を蘇らせるというその脅威度から、『B級』に認定されるほどの厄介な魔物――


 そして僕は音も無くゴブリンネクロマンサーに近づくと――一切気付かれることなく、ヤツの首を搔き切った。


 ――作戦(ミッション)成功(コンプリ-ト)


 ゴブリンネクロマンサーが倒れると、操っていた屍も同時に雲散霧消……。

 既に残っていた魔物は、殆どがネクロマンサーに操られていたものだったのだろう。戦場と化した魔の森(イービルウッズ)から、一気に魔物の姿が消失する。


 そして、リゼが最後の魔物に止めを刺し――

 ようやく僕たちは、勝利したのだった……。

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