11.「そして始まる、『カルネアデスの塔、踏破記念パーティ』!」
ワイワイ、ガヤガヤ……
カルネアデス会館の大ホールには、沢山の生徒たちが詰めかけていた。
なし崩し的に始まった、『カルネアデスの塔、踏破記念パーティ』。
普段は競争相手として、ピリピリとした空気になりがちな彼らも――今日ばかりは堅苦しいことを抜きにして、皿を片手に卓上に並ぶ絶品料理を楽しみながら、級友たちと談笑に花を咲かせている。
そして、そんなパーティホールの中央で、僕とリゼの二人も、用意された絶品料理を前に、遂に手を伸ばしていたのだった。
結局、朝は途中で学院長室に呼び出されたせいで、絶品料理も全然食べれなかったもんな……。
だからこそ、朝食べれなかった分、食べ尽くしてやるんだ! と、僕は勝手に意気込んでいたのだったが……
僕はフォークを片手に、料理を口に運ぶ。そして――
これは……!? 美味しいっ。それも、いつもよりずっと……!
あまりの美味しさに、一瞬向こう側へ"ぶっ飛んで"しまいそうになった僕は、慌てて元の世界へ復帰する。
あ、危ない……! 危うく、戻ってこれなくなるところだった……!
それにしてもこの美味しさ……! 一体、どうなっているんだ……!?
そうやって僕が訝しんでいた所に現れたのは、古めかしい意匠の深紅のローブに身を包んだ、褐色のロリ娘。
一体、どこから現れたのだろうか……ニトラ学院長がひょっこりと顔を出す。
「クックック……どうじゃ、旨かろう? 普段は栄養に配慮した料理ばかり作らせておるからな、今日は祝いの席ゆえ、味に全力を注げと命じておいたのじゃ。レヴァリーの奴も、腕によりをかけて作ってくれたわ」
――もぐもぐ。
そう言って僕の皿から、一口つまむニトラ学院長。
なるほど、そういうことだったのか……。今までの料理は、ある種縛りプレイだった、という訳だ。いや、それでも十分美味しかったけれども。
――しかし、それはいいとして。
「……わざわざ、僕の皿から食べなくてもよくないですか? 料理なら、そこに幾らでもあるのに……」
「なんじゃケチ臭い。幾らでもあるなら、別にいいではないか。儂が一口ぐらい食べたところで、別に減るもんじゃなし」
「普通に減ってるんですけど……僕の皿の上から」
「全く、細かいのう……。さてはお主、童貞じゃな?」
「いや、別にそれは関係ないでしょう!? そんなことっ」
「クク、図星じゃな? もしお主が女子をとっかえひっかえ抱くような傑物ならば、こんな些事、気にも留めまいて。もぐもぐ……うむ、やはり旨いのう!」
そう言って、再び僕の皿から料理をつまむニトラ学院長。
顔が赤く、上気している。どうやら既に結構なお酒が入っている様子。
きっとこの人には、もう、なにを言っても無駄なんだろうな……。
レオが苦労するのも、今なら分かる気がする……。
それからのニトラ学院長は、まさに無双状態だった。
僕の前でわざと料理をエロい食べ方をして見せたりと、散々僕を挑発し続ける。
「ほれほれ♡ あ~むっ♡ ちゅっ♡ れろ~♡」
完全に、悪ノリしている……!
……本当に、モノを食べるしぐさなのか、これっ……!?
僕の目の前には、あり得ないほど官能的な光景が広がっていた。
――うねうねと淫靡に蠢く口内、これ見よがしに突き出される舌。
――そして、艶やかでありながら、ぷるんと震える唇。
それは、まさに冒涜的と言っていいほどのエロさだった。
くっ……とんでもないエロロリババアだ、この人……!
「んん〜? こんなので興奮しておるのかぁ、トーヤ坊は。儂はただ、料理を楽しんでおるだけじゃぞ〜? ……ククッ、やはりお主も、まだまだ子供じゃのう!」
そう言ってニヤニヤと笑みを浮かべながら、愉しそうに僕を詰るニトラ学院長。
一方でリゼは、そんな僕のことをジト目で見つめるのだった。
違うんだ! これはその、不可抗力で……でも、目の前であんなエロい舌使いを見せつけられたら、男なら誰だって反応しますからっ……!
パーティは始まったばかりというのに、既に、どっと疲れた気分だ……。
僕は一人、トホホと、ため息をつくのだった。
そして――ようやく僕を弄り倒して、満足したニトラ学院長から解放された後。
僕とリゼの二人は、今度は学院の教師陣たちに囲まれていたのだった。
「ほうほう、これが……」
集まって来た先生方は、口々になるほどと感心した様子で僕たちを眺めている。
学院の名だたる教師陣が立ち並ぶさまは、まさに壮観だった。
グエル教頭を筆頭に、オリヴァー教諭、エリー教諭、クレア教諭……。
その誰もが、王国では知らぬ者なしと言われるぐらいの、英雄揃いである。
彼らの武勇伝は王国中に轟いている。特に、グエル教頭……!
活動期間は短いものの、確かに彼は一時、王国でナンバーワンの勇者だった。
――プロフェッサー・プロミネンス。それが現役時代の異名である。
今は若い頃の酷使が原因で一線を退き、このカルネアデスの教頭の地位に収まっているというが……。
グエル教頭は、飄々とした佇まいから、鋭い眼光で僕たちを射抜いてくる。
「ふーん、君たちがあのカルネアデスの塔を踏破したという、二人組かァ。ウンウン、なるほどねェ……どうやら、只者じゃあないようだ」
っ……! 一線を退いたなんて、とんでもない。
いい加減なように見えて、"プロフェッサー"は、いまだ健在。
僕の正体を見抜かれてしまうんじゃないかと、正直冷や冷やモノだった。
そして――それから口火を切ったように、他の先生方も僕たちに言葉を投げかけてきたのだった。
「いやよくやってくれた、二人とも! 先生はもう、感動で感動で……特にこのアーモンド君は、凄い努力家で……くうっ、また涙が溢れてきますぞ……!」
「凄いです二人とも! 私なんか今登っても、八階層止まりだったのに……」
「……それは少したるみ過ぎだぞ、クレア教諭……!」
「とにかく君たち二人は、我々学院の誇りだ!」
僕たち二人は、口々に拍手と賞賛の言葉を送られる。
――超一流の勇者たちから、褒められている? この、僕が……?
嬉しくない訳がなかった。けれども今まで生きてきて、こうやって褒められたことがなかったせいか……どうやって受け取っていいのか分からない。
今まで生きてきて、こんなに報われる瞬間なんて、なかった。
頑張れば、努力は報われる――その言葉を信じて、ここまでやって来た。
けれど……いざこうやって報われると、どう反応すればいいのか分からない。
「……大丈夫、トーヤくん?」
「あはは、なんとか……。こういうのに慣れてないから、ちょっと頭がクラクラしてきちゃった。けど……これも、リゼのおかげだよ」
「……そんなことないわ。こうやっていられるのも、全部、トーヤくんが頑張って来たから。トーヤくんは、もっと自信を持っていい」
「そ、そうかな……? うん、ありがとう、リゼ」
リゼの言葉で、ようやく僕は落ち着きを取り戻す。
うん、こういう時はきっと……素直に喜べばいいんだ。
きっとこれから、今まで苦労して来た分、何倍もの幸せが待っているんだ。だから――これくらいで戸惑っているようじゃ駄目なんだ。
そうだよね、リゼ……。
そしてその後も、先生方は興味津々といった様子で、僕たちに質問攻めを食らわせる。
そして僕たちは、こぞって「自分の騎士団に入らないか」と、興奮した様子の先生方からスカウト攻めにされるのだった。
「あなた達スゴイわ! 良かったら、うちの騎士団に来ないっ!?」
「いやいや、うちに!」
かなりグイグイ迫ってくる先生方に、正直圧倒されてしまう。
確かに、みんな魅力的な誘いではあったけれども……残念ながら僕たちには、女神さまから頂いた大事な使命があるのだ。
もし騎士団に所属すれば、自由に身動きが取れなくなる。正直、騎士団に入ってみたい気持ちはあったけれども……断腸の思いで僕は断りを入れるのだった。
その度に先生方は残念そうな顔を見せるが、最後は渋々と引いてくれた。
そしてやっと、先生方からも解放された僕とリゼの二人。
これでようやく、落ち着ける……。
しかしホッとしたのも束の間、僕の前に次なる客人が現れるのだった。
――かつて僕が所属していた、『ウェイン班』の四人である。




