13.「大英雄付き後処理部隊――通称『カタリナ係』。そして、スキだらけの背中。」
◇
――それから、僕たちは。
"カタリナ係"の女官たちにこってりと絞られる『大英雄』の姿を、目の前でまざまざと見せつけられていたのだった。
"カタリナ係"の女官たちが放つ一言一言に、かつての尊大な態度は何処へやら。カタリナはまるで底に穴が空いた紙風船のように、小さく縮こまっていく。
――そこに居たのは、シュンとした様子の『金髪ロリっ娘』が一人。
なんというか……こうなってしまうと『大英雄』も、ただの子供だな、と。
しかしそれにしても。驚くべきは"カタリナ係"の縦横無尽たる弁舌である。
「むー……お互い同意の上での決闘なのよ? なんで私だけ謝らないといけないのかしら」
「それはカタリナ様が『失礼』をなさったからです」
"カタリナ係"の一人、若いキリリとした印象の眼鏡の女官はキッパリ断言する。
「リーゼロッテ様一行は国王陛下から招かれた、いわば『国賓』ともいえる立場です。決闘などもっての外。『大英雄さま』といえど……いえ。『大英雄さま』だからこそ。粗相をしたならば、落とし前をつけなければなりません」
……あまりにも理路整然と問い詰めていく様は、まさにエリートのそれ。
それもそのはず、彼女たちは、この国のエリート中のエリート――あの錚々たる顔ぶれの中には、元『高級外交官』や『王立裁判所の判事』も含まれているという。
(いや……なんという、人材の無駄遣い……)
と、つい思ってしまうが、これも王宮にとっては必要経費なのだろう。
――『大英雄』という、"規格外の戦略兵器"を運用する為の必要経費。
(…………)
その扱いはきっと、人間に対するそれではなく。敢えて例えるなら――まるで爆発物のような、そんな扱いのようにも思える。
――人間には、"生まれながらの天命"があると人は言う。曰く、人は与えられた天命に抗ってはならないのだと。
けれど僕は――そんなもの、『クソ食らえ』だと思っている。
一挙手一投足全てを管理される人生なんて、あまりに不自由だ。
『生まれながらにして授けられた"異能"の等級に翻弄される人生』。その一点に関して言えば、僕もカタリナも、そしてリゼも、同じなのかもしれない……。
◇
――そして。
有能揃いの"カタリナ係"の面々が手を回して、瞬く間に事後処理が終わった後のこと。野次馬が捌けきった凸凹だらけの大通りの真ん中で、僕たちは改めてカタリナと対面していたのだった。
背後でピュウと、春の陽風が草木を撫でる音が聞こえてくる。カタリナは面と向かってリゼと向き合うと、バツの悪そうな顔で言うのだった。
「……えーっと、何て言えばいいのかしら。そうね。"剣聖さん"、あなたとは色々あったけど……全部、私の『早とちり』だったみたいだわ」
「……そう。随分とそそっかしいのね。ひょっとして、誰かにそそのかされた?」
「――ギクッ! な、なんで分かったのかしらっ!?」
カタリナは、ハッとした顔でリゼの顔を見つめる。……分かりやす過ぎる。
一方でドラゴンの幼体は主人の横で首を天に向け、大きく欠伸をしていた。
* * * * * *
――そんなこんなで。
事態も収束して、めでたしめでたし、と云った所だったのだが……
「その……ね? ダーリン」
「……なんでしょうか、カタリナさん」
「えーっとね……私、貴方のことが……ううん、な、何でもないわ」
少年との別れ際。
大英雄は、何か言い掛けては止めてしまう――といった行為を何度も繰り返していたのだった。
そんな様子を、天使少女ギブリールは背後から焦ったそうな顔で見つめる。
――サラサラな金髪の長髪と、キリっとした細い眉。そして、クリッとした青色の目。
……正直、ボクでも可愛いと思う。
トーヤくんとの関係は、詳しくは知らない。でも、何か確か焦ったいことだけはボクにも分かる。
……ピキッピキッピキッ。ギブリールは顔を引き攣らせて、グッと目を閉じる。
――ああもう、焦ったいなぁっ! 一番大スキなボクが触れられないのにっ。
誰よりもトーヤくんを……「スキスキスキスキ大スキ」っなこのボクが、お預けを食らっているにも関わらずっ!
直に触れられる立場にありながら、ぐずぐず、ぐずぐずとっ……!
そして、ギブリールは振り返る。
……それに、トーヤくんもトーヤくんだ。
目の前で女の子が、モジモジ、モジモジと……「早くトーヤくんのモノにして下さいっ……♡」と言わんばかりにアピールしてるのに。
――こんな状態の女の子を目の前にして、抱きしめてあげないのは「男の子失格」なんじゃないのかなっ?
「……らしくないね、トーヤくん。女の子が困ってたら、助けてあげなきゃ」
ボクは意を決して、トーヤくんの耳元で囁く。――そして。
――トスン。
ボクは念動力でトーヤくんの"スキだらけ"な背中を押すと、そのまま前にプッシュするのだった。