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どうやら勇者の中に一人、暗殺者が紛れ込んでいるようです。  作者: 桜川ろに
第1章 【剣聖】少女と【盾】の暗殺者
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10.「どうやら僕は、思っていたよりも凄いヤツなのかもしれない」

 所変わって、場所は第五階層『森林エリア』――


 僕、トーヤ・アーモンドは、ようやく倒したケンタウロスを後目(しりめ)に、薄暗い森の中を先に進んでいた。


 ふと僕は、ついさっきまで繰り広げられていた戦いを思い返す。



 ケンタウロス――あれは強敵だった。


 あれ程弓を上手く使ってくる魔物はそうそう居ないだろう。

 ゴブリンアーチャーの比じゃない弓の名手で、屈強な上半身から生み出される膂力(りょりょく)によって放たれる矢の一撃は、まさに必殺級。


 僕の異能が【盾】じゃなかったら、防ぐことすらままならずに、やられていたかもしれない……。


 下半身が馬の怪物というのは、まさに厄介だった。

 戦いを避けようと森の中に逃げようとすれば、馬の脚力で追いかけて来る。


 何よりアイツらにとっては、森は庭のようなものなのだ。

 いくら逃げた所で、ケンタウロス達は木々の障害物を避けながら疾走し、行く手を阻むかのように先回りしてくる。

 そして針に糸を通すような正確な射撃で、こちらを狙ってくるのだ。


 敵の得意なフィールドで戦うことほど、恐ろしいことはない。


 それでもきっと、リゼなら正面から一撃で倒してのけるんだろうけれど……

 僕みたいな凡人は、"戦略"を駆使して足りない力を補うしかない。


 まずは敵を観察する。

 正面や背後から接近するのは下策だろう。あの屈強な馬の脚で、踏み付けや脚蹴りを喰らうことになり、近づくことすらままならない。


 ならば、側面はどうか――

 側面ならば、踏み付けや後ろ蹴りを喰らう心配はない。唯一警戒することといえば、後ろ脚を使った横蹴りぐらいだ。しかし、それも見切った。


 敵の弱点は、側面からの攻撃と推定。

 ……それだけ分かれば十分だろう。


 仕事柄、敵の不意を突くことには慣れている。

 ましてやここは、遮蔽物の多い森の中だ。

 一瞬でいい。それなら、魔物に自分の姿を見失わせることぐらい、訳はない。


 見失った僕を探して、森の中を駆け回るケンタウロス。


 ――側面が、がら空きだ!


 突然姿を現した僕は、剣を翻し急襲する。


「――グオォォォ!!」


 無意識から斬りつけられたケンタウロスは、堪らず悲鳴を上げ――それでも後ろ脚を持ち上げて、僕に向かって横蹴りをかましてくる。

 しかし、それも予想済みだ。体を伏せて蹴りを躱すと、剣を振り上げて勢いそのまま、ケンタウロスの脚を"折る"。


「――ギャァァァァ!!」


 ケンタウロスは、またも叫び声を上げる。

 ……これで、ケンタウロスの機動力は削がれた。

 こうなってしまえば、敵はただ的が大きいだけの、でくの坊だ。あのゴブリンアーチャーとも大差はない。


 最後の抵抗とばかりに放たれた矢も、【盾】で弾き返し、僕は構えた剣でケンタウロスの首を討ち取った。


 一匹、撃破――。

 それを見たもう一匹の方も、分が悪いと思ったか、身をひるがえして森の奥へ姿を消してゆく。


 こうして僕は、二匹のケンタウロスを退けたのだった。



  ◇



 そして、第五階層のボス部屋にたどり着いた僕だったが……。

 番人の姿は見当たらず、空っぽのボス部屋に、転移門だけが起動していた。


 どうやら番人は、先に来たリゼが既に倒してしまったようだ。

 同じ班ということで、転移門は僕に対しても解放されている。


「……この様子だと、リゼはかなり先に行っちゃってるんだろうな」


 僕とリゼの、戦闘効率の差がここで響いてくる。


 向こうは理論上最強の、【剣聖】の異能。

 対して僕は、攻撃ができない【盾】の異能。


 つまり、僕が魔物に手こずっているうちに、リゼは先に進んでしまうのだ。

 果たして、追いつけるだろうか……。


 いや、考え込んでいる暇なんてない。僕が立ち止まっている今も、リゼはどんどんと先に進んでいるだろうから。


 僕は、どうしてもリゼに追いつきたいと思っていた。

 今追いついておかないと、きっと彼女とはもう会えない気がしたのだ。

 たぶん、その予感は当たっている。


 僕が、彼女(リゼ)に追いつきたい理由。


 それは、僕が個人的にリゼのことが気になっている、というのもあるけど……。

 彼女と一緒にいて、思ったのだ。

 ただダンジョンに潜るだけの、まがい物の勇者なんかじゃなく。

 セカイを救う、『本物の勇者』になれるのは、きっと彼女なんだろうと。


 ……僕は、勇者になりたい。

 だから僕は、絶対に彼女に追いついてみせる。


 そんな強い決意を胸に、僕は転移門を潜ったのだった。



  ◇



 そして僕は、引き続き『塔』を攻略していく。

 そんな中、僕は、第七階層『草原エリア』に突入したのであるが……。


 魔物と戦っていて、気づいたことがあった。


 それは、魔物と交戦中の出来事。

 僕はリゼに追いつくために、無駄な戦闘は極力避け、避けようもない相手とだけ戦うということをしていたのだけれど。


 なぜかたまに、一度交戦して間近にいたはず魔物が、まるで僕を見失ったように追ってこないことがあったのだ。


 魔物の性質を考えれば、これはおかしいことが分かる。

 基本的に、魔物は闘争本能が旺盛で、一度(ひとたび)人間と交戦すれば、どちらかが倒れるまで戦い続ける性質を持っている。


 もちろん、例外はある。

 例えばケンタウロスのように、知能が高い魔物ならば話は別だけれども……大抵の場合はそうじゃない。

 たとえ人間が逃げようとしても、彼らが見失うまで、それこそ地の果てまで追いかけてくるというのが常識なのだ。


 だから、交戦して、目と鼻の先にいる僕を見逃すなんて、明らかに不自然。

 

 まさか……! 

 ここで僕は、一つの可能性に思い至る。


 僕は、無意識で魔物相手に【影取り】を使っていたのか……!?


 確かに、思い当たる節がないわけではない。

 【影取り】は相手の意識の盲点をすり抜ける、暗殺者の技術の一つだ。

 なにせ暗殺者時代に、それこそ息を吸うのと同じぐらい、散々使ってきた技だから……うっかり癖で使ったという可能性もあり得る。


 けれど――僕はそれでも思い直す。


 それは絶対に、有り得ない。なぜなら――


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()




 僕の、かつての苦い記憶(トラウマ)がよみがえる。


 ――巨大な魔物の影。


 そして、なすすべなく敗走する、僕。

 致命傷を負った"親友"を背負いながら、僕は必死で魔物から逃げ惑う。




 あのとき僕は、何もできなかった。

 僕の全てを駆使したのに、まるで通用しなかった。


 魔物には、暗殺技なんて通用しない、ハズなんだ……。

 

 何かの間違いに違いない。そうだ、もう一回試してみよう。


 目の前には大きな体のトロールが一匹と、ホブゴブリンが三匹。

 ちょうどいい、このトロールの巨体を利用させてもらおう。


 僕はトロールの懐に潜り込むと、三匹のホブゴブリンの死角に入ったことを確認し、彼らに向けて【影取り】を発動する。

 トロールは激昂し、僕に向かって棍棒を振り回してくるが……そんな(トロ)い攻撃に当たる僕ではない。


 素早く身を躱すと、トロールの横をすり抜け、更にホブゴブリンの真横を横切った。そして――


 僕の推測通り、トロールは僕のことを追ってきたが……ホブゴブリン達は、まるで僕のことを見失ったように、その場に棒立ちしたままだったのだ!


 やはりゴブリン達には、僕のことが見えていない。


 僕の暗殺技は、魔物にも通用する……?

 僕は自然と、笑みを浮かべていた。一筋の希望が、僕の道を照らしだしたのだ。


 ――これなら、僕もリゼに追いつけるかもしれない……!


 魔物に【技】が通用するのなら、色々話が変わってくる。

 そういうことなら、これからはガンガン使うことにしよう。

 使えるものは、なんでも利用する。僕が血が(にじ)むような努力で身につけた『技術』なんだ、卑怯な技とは言わせない。


 もしかしたら僕は、思っていたよりも、凄いヤツなのかもしれないな……。


 一筋の希望を胸に、僕は地面を蹴り、『塔』を走る。

 目指す先は、リゼがいる、塔の上層部。



 僕は、まだ知らない。僕の運命が、今まさに動きつつあるということを……。



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