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始めまして普通のJKです




 私と里沙は足並み揃えて、まっすぐに彼女の元へ向かう。

 九条院と言うネームバリューに怖気づいてるのか、はたまた彼女の容姿に手をこまねいているのか、兎にも角にも一番最初に動き出した私達以外彼女に話かける人の姿は見られず最初に声を掛けられる幸運を噛み締める。


 彼女は机に座りながら、手元のスマホに視線を落としているが、時折顔を上げて近くの席を見るが、不運な事に彼女の周りの席の子は席を立っていて気軽に話しかける相手が居ないらしい。

 そんな彼女に近づくと、彼女は顔を上げ、視線が交差する。


「初めまして、九条院さん。良かったらお話ししない?」

「はろはろ~」

「え?あ、はい」


 私が微笑みながら話しかければ、彼女は曖昧な笑顔を浮かべた後、直ぐに万人受けしそうな可愛らしい微笑を浮かべる。

 でもその笑顔が、私にはなんだか安っぽく見えた。

 見えたが、別段気にすることでもないと、彼女と親しくなって護衛の任務を果たせればそれで十分だと思い返し、不得意だが一応仕事でも通じる程度に鍛えた社交術を発揮し、淑女の、幼い無垢な16歳の仮面を被る。


「九条院さん。あ、純花ちゃんって呼んでいい?」

「あ、はい!全然喜んで!!」

「あはは、純花ちゃん落ち着いて、日本語おかしくなってるよ」

「あ。へへ、ごめんなさい、私あんまりこういうの慣れてなくて」


 気恥ずかしそうに頬を掻く彼女に微笑みながら、内心苛立ちが募る。が、それを奥面にも出さず、直ぐに消化する。

 脳裏では美野里さんが指を立てて、教師のコスプレをしながら彼女とどうすれば親しくなるかの講座をしていた日々を思い出す。


『良い!?JKなんてノリ!ノリと優しそうな雰囲気だしとけばイチコロよ!』

『そんな簡単に行くものなんですか?』

『たりまえよ!!ケツの青いネンネなんざちょーっと優し気に甘い声駆ければすぐにころっと落ちる子ばっかよ!濡れ紙を突くが如く簡単に膜の二枚や三枚破れるね!!』

『美野里さん話ずれてます。別にやらないです』

『あまーい!とりあえずちょっとおバカな感じを装って警戒を解かせて、その隙を突く。これに限る』

『ふむ、頭軽そうにすればいいんですね』

『そう!そしたらそのまま壁ドン!からの耳元で囁くの。「ねぇ、良かったら二人っきりでもっとお話ししない?私貴女と仲良くなりたいな」って!!』

『さては美野里さん何か見ましたね?またBLですか?てかそんなことしたことないでしょ』

『失敬な!!流石にこれは端折り過ぎたけど、大体こんなもんだよ!あと最近はオメガバースにはまってるから全然違いますー!!』


 ……うん、まぁ途中からただの雑談になってたけど、とりあえず参考にはなったしその通り、優しく、ノリ良く共通の趣味で盛り上がろう。


「それでさ純花ちゃん。私この子以外友達居ないんだけどさ、良かったら友達にならない?ライダー友達って感じ?」

「え?あ、でも、私あんまり詳しくないんですよ。緊張して咄嗟に出たのが昨日見たあれってだけで。あはは、すいません」

「え?そうなの!?まぁぶっちゃけ私もそこまでコアかと言われれば唸らざるをえないから。この子とかに付き合わされて見てたのが主だしね」

「そうなんですか、えっと貴女は確か……」

「里沙だよ!錦戸 里沙!美琴の嫁の座は渡さないけど友達ならなってあげる!」

「またこの子は…ごめんね、この子の言う事は無視していいから」

「いえいえ!でも二人とも仲が良いんですね」

「まぁ、そりゃあ…ね?」

「あったり前!里沙と美琴は愛し合っている仲なんだから!」

「あ!あいしあって……」

「だから真に受けなくて…別にあながち嘘でも無いのか」


 順調に彼女と親睦を深める事が出来たと思う。

 彼女は全然擦れた様子が無く、純粋無垢その物と言った感じで、それでいて別段そこまで自信が無い訳では無く、なんと言うか、空気の読める良い子って感じがする。

 

「とりあえずさ、連絡先交換しない?私もっと純花ちゃんと仲良くなりたいし」

「あ、私も良いー?」

「はい、ちょっと待ってくださいね、あんまり慣れてなくて…」


 そう言うとスマホを取り出したどたどしく操作しだす。私と里沙であーだこーだ言いつつ、三人で連絡先を交換して会話を再開しようとした時、だれかが近づいてくる足音がする。


「あたしも混ぜて貰っても?」


 近づいてきたのは東城 夏樹。

 彼女はブレザーの下にパーカーを着ていて、ブレザーのポケットに両手を入れながら可憐な脚運びで近づいて来て、そのアンバランスさに内心苦笑してしまうが、それを表には出さず至って普通の顔で迎える。

 対して二人も少し驚いた顔はしているが、別段気にした様子も無い。


「いいよ、貴女は東城さんだよね?」

「あぁ、夏樹って気軽に呼んでくれていいよ」

「あれ?何か挨拶の時と口調違くない?」


 里沙が聞くと彼女は手をポケットに入れたまま、憮然とした表情で肩を竦める。


「そりゃ、最初の挨拶位はしっかりやらないと。第一印象は大事だろ?怖くないよー、普通のJkだよーって」

「それを言うには見た目のインパクトが強いんじゃないかな?」

「だね、私もそう思う」

「その、個性的で良いと思うよ?」


 そんな三者三様な意見に東城 夏樹は苦笑しつつ、傍による。


「まぁ、趣味を詰めたらこうなったってだけだから、別に後悔はしてないけど、やっぱ不良に見えるもんかね」

「ま、まぁ、インパクトが強いって意味では印象的だと思いますよ?」

「私はピアスとか開けるし、別に気にしないけど」

「え!?美琴いつ開けたの!?」


 私は驚く里沙に髪をかき上げ、右の耳を晒す。

 里沙は私のトラガスについてる、水色の石がはめられたピアスが見えてるはずだ。


「四日前。トラガスに、ほら」

「な…!私が美琴の変化に気付かないなんて……この前ヤッたのに…」


 確かに数日前にヤッたけど、基本この子イキッぱなしだから気付くはずないのに。

 里沙は四つ手をついて項垂れている。

 そんな里沙を私は慣れた目で、東城 夏樹と九条院 純花は驚きに目を丸くしながら見ている。


「この子いつもこんなんなの?」

「まぁね」

「あはは、元気で良いね」

「元気って言うか…バカ?」


 未だ怨嗟の声を上げながら地面に項垂れる里沙を放置して二人に向き合う。


「それでさ、二人はこの後何か用事ある?何も無かったら入学祝にどっか遊びに行きたいんだけど」

「お、良いね~。あたしは何も無いよ」

「えっと、うん。私も大丈夫。あ、でも19時には帰らないとだから」

「門限早いね、お嬢様だからやっぱ過保護なの?」


 私は冗談めかして言ったが、九条院 純花の反応は予想を裏切るもので。


「……うん、そうだと思う」


 その表情は暗く、何かを押し殺しているかのように表情に翳が出来る。


「あ、あー。まぁうちも門限はあるけど、正直そこまで気にしたことないなー!」

「へ、へー!何か大変そうだね!じゃああんまり遅くならない所で楽しく遊べる所いこっか!」


 暗くなった雰囲気を払拭する様に私と東城さんで声を張り。そんな私達に九条院 純花は苦笑する。


「ふふ、ごめんね気を遣わせちゃって」

「まぁ気にするな、事情は人それぞれだ」

「こっちこそごめんね、何か気分悪くさせちゃって」

「ううん、こっちこそごめん。それで、この後は軽く視聴覚室で説明を受けたら帰宅らしいけど、何処にいこっか」


 明るさを取り戻した九条院 純花に二人で安堵しつつ、和やかな雰囲気を再開させる。


「うーん、私あんまりここら辺詳しくないから」

「私もあんまり遊ばないから、ごめんね」

「あー、あたしの趣味の所は合わないだろうし…そうだ、おい!早乙女!!」


 突然東城 夏樹が声を張ると、おっす姉御!と勇ましい声を張りながら一人の軽薄そうなあまり上手に染められていない茶髪の制服を着崩した男子生徒が膝に手を突きながら現れた。


「あんたここら辺で何かJK4人が遊ぶのに適した所知らないかい?」


 それなら近くに最近できたアミューズメント施設があります!

 と答える早乙女君に、東城 夏樹はぶっきらぼうに礼を言うと早乙女君は満足そうに、ウっす!!と答え颯爽と消える。

 そんな二人のやり取りに私達二人は目を丸くする。


「東城さん、彼は?」

「ん?あぁあいつは舎弟」

「舎弟」

「そう、昔舐めた態度だったからあたしが矯正してやったんよ。まぁ何かあったらあいつに聞きな、あいつ情報屋崩れだから、女限定だけど」


 そんな東城 夏樹のセリフに、私は彼の事を記憶すると、丁度先生が来てオリエンテーションの始まりが告げられる。

 私達は三人で談笑しながら視聴覚室へ向かう。


「あ、里沙忘れた」


 慌てて教室に戻った私は拗ねる里沙を宥めるのに時間を要したのは言うまでもない。



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