自己紹介
出席番号が一番の子から自己紹介が始まった。
静かに話す子、ひょうきん者を演じる子、緊張で詰まらせる子等、色々な子が席から立ち自己紹介をしていく。
あ行が終わり、か行に入ると件の人物が立ち上がる。
「初めまして、九条院 純花です。え~、と。好きな物は甘いもので最近やっとスマホを買って貰ったのでよかったら連絡先を交換してもらえると嬉しいです。あ、最近はアニメにはまってます!仮面ライダー魔法使い好きです!」
『九条院家の子?見たことないな』
『あ、でも可愛い』
『あの可愛さでライダーヲタク!?最高かよ!!』
九条院 純花
身長158㎝年齢16歳、血液型O型。
日本人とイギリス人のハーフで、暗めの茶髪が肩甲骨辺りまで伸びていてそれを緩く淡い水色のシュシュでまとめられている。
容姿は垂れ目がちで整った容姿は穏やかで優し気な雰囲気が浮かんでいる。体型はFカップで健康的な細さで、些か筋肉が足りない様にも思える。
父親は九条院 峰典だが、まぁ真面に育てられた様な感じではないらしい。
母親である女性は峰典氏の同僚だったイギリス人女性だったが、一夜の過ちで純花を身ごもり、とある研究先で九条院 純花を生んですぐに亡くなった。
それから九条院 純花は暫く峰典氏が雇ったベビーシッターに育てられながら、8歳になるまで共に世界中を転々としていたらしいが、10歳の頃九条院家に引き取られそれからそのまま過ごして来た。
性格は人を疑う事を知らない様なお人好しで箱入りお嬢様と言われている。
そんな彼女はその情報を裏付ける様な、人の好さそうな微笑を浮かべている。
私はそれを見て、無性に苛立ちが募ったが。直ぐにそれを抑え込み、ふと沸いた暗い感情を飲み込む。
何の不自由もなく育ってきた子を見ると無性に怒りが込み上げるのを何とかしたい。イラついても仕方の無い事なのに。
「あの子が純花ちゃんか~、なんかお金持ちの子にしては親しみやすそうだね」
「そうだね、マッドな峰典氏の子とは思えないね」
周りが九条院と聞いてにわかにざわついたが、直ぐに彼女に絆されて頬を緩ませている傍ら、私と里沙で顔を寄せ護衛対象である九条院 純花に対しての第一印象を話していると、彼女はいつの間にか席についていて自己紹介の時間は進んでいた。
次に私達の興味が寄ったのは一人の女子生徒。
「初めまして東城 夏樹と言います。趣味はバイクで一人旅、好きな物はアクション映画です。こんな見た目ですがよろしくお願いします」
『東城…東城ってあの?』
『イカつ、でもなんか不良的でかっこいいかも』
『あ、顔が良い……』
そんな誰かの呟きが教室に静かに木霊し、畏れの混じったざわめきがにわかに沸く。
「東城…東城会」
私は直ぐに予め葵さんから送られたクラスメイトの資料からそれを探す。するとすぐにそれは見つかった。
東城 夏樹。
身長174㎝、年齢16歳、血液型A型。
腰まで伸ばした艶のある黒髪が艶やかで、前髪は横一文字に切り揃えられ、左側のもみあげは青いアシメが掛かっている。
切れ長で涼し気な目は凛とした表情と相まってどこか中性的な美しさを持っていて、左右の耳には軟骨を含み沢山のピアスが刺さっている。
体型はCカップで細身だが、無駄な筋肉も脂肪もついていない、理想的なモデル体型を築いていると思える。
そんな彼女は関東を中心に東日本を牛耳る指定暴力団、基極道である東城会の一人娘で、性格は奔放、若干サブカルな趣味やハードコアロックに趣が深い所があるらしく、そう言った場に護衛を連れスーパーカブに跨って訪れているのが確認されている。
家庭環境は西の関西連合出身の母親と東の東条会である父親の間に生まれ、両親の仲も睦まじく組員からも愛されて過ごして来たようだが、ここ最近になって家業の手伝いもしているらしく、恐らくだが、荒事に慣れていると思う。そんな雰囲気が直感的に伝わる。
因みに、極道の一人娘である彼女がこの場に居るのは黙認されているのか、特に何も聞いていない。
そうやって手元のスマホで彼女の資料を確認した後、ふと顔を上げると丁度こちらに視線を寄こした彼女と視線が交わる。
その瞬間、彼女が少しだけ口角を上げ流し目を寄こす。
ニャップルン♪
スマホにメッセージを受信した着信音が鳴り、送られたメッセージを開く。
『あれ?言ってなかった?東城会の娘さんは楠さんも黙認してたよ、なんか上で密約でもあったんじゃな~い?』
「葵さん、こう言う事はちゃんと言ってくれないと困ります」
『ごめんごめん~。あれ、何かメールが……うわ、まためんどくさそうなのが』
渋い顔をしたネズミのスタンプの後に、葵さんが開発した私達犬小屋メンバーだけが入っているメッセージアプリにPDFが送られる。機密と書かれたその書類には。
【東城 夏樹の護衛もやれ】
的な事が書かれていた。
「うっわ~。馬鹿じゃないの?里沙達護衛じゃないんだけど」
横で里沙がしかめ面で愚痴を零す。
が、良く資料を読み込めばまぁそこまで危険性が無いみたいだし、一応東城会の方からも護衛がいるらしいから、一応九条院 純花の護衛の傍ら東城 夏樹の護衛もしろ。という事らしい。
まぁ大変だけど、仕事なら仕方ないと諦めのため息を吐く。それと同時にもう目の前まで順番が来ていて、スマホを仕舞う。
そして目の前の人の自己紹介に拍手して、私の番が来ると少しの緊張に心拍を上げながら立ち上がる。
「初めまして月島 美琴と言います。余り趣味という趣味は無いですけど、最近は友人の影響でアニメとか漫画をよく見ます。特に仮面ライダー電oh!が好きです。あと流行に疎いのでそこら辺教えて貰えると嬉しいです」
『あの子も可愛い!いや、若干かっこいい?かっこいい寄りの可愛い?』
『おい見ろよあの筋肉!上腕二頭筋!服の上からでも分かる鍛えられ方だぜ!!ありゃ相当虐めてるなぁ。俺の筋肉が仲良くなりたいって囁いてやがる』
『あぁ、顔が良い……なつ×みこ……尊い…』
うん、挨拶は上々だね。
クラスメイトの反応は良し、肝心の九条院 純花の様子は。
「……」
あれ、無反応?美野里さんによるとこういうヲタク趣味は割と仲良くなりやすいらしいんだけど。
まぁ確かに別にヲタクって訳でも無いし、里沙や美野里さんに付き合わされて日曜朝からテレビを見る事がある程度だけど、だからってそこをバレるわけでも無いし。良く分からない。まぁ様子見かな。
そうやって暫く考えていると里沙の番が訪れる。
「初めまして錦戸 里沙って言います!!好きな人は美琴!愛してる人も美琴!!美琴は里沙の嫁なので手を出さない様に!!以上!!」
『なんだあの合法ロリ巨乳!!存在が違法だろ!!』
『ていうか美琴ちゃんと付き合ってるの!?マジかよ!俺狙ってたのに……あれ、でもなんかそれはそれで…』
『筋肉美少女×ロリ巨乳……尊い…』
騒然とする中、里沙のそんな大きな胸を張って満足そうに鼻の穴を広げる里沙の自己紹介に頭が痛くなる。
目があえば里沙は何を思ったのか満面の笑みで親指を立ててくる。
思わずその大きな胸をはたけば「おっ…」っと声を漏らして期待の視線を寄せながら身をくねらせている。
冗談じゃない。
折角私が無難に挨拶を終えたのに、どうしてこう悪目立ちする様な事をするのか。
仕事に支障がでたらどうするつもりなんだ。
頭を抱えながら、視線を右に向ければ東城 夏樹はにやにやと腕を組みながら背もたれにも垂れかかりながらこっちを見てきて、九条院 純花は…何故か無表情でじっとこちらを見ていた。
いや、違う。あれは…羨望?
その視線に何が含まれているのか気付かないまま、彼女は視線を外す。そしてそれと同時に先生が次を促し、丁度最後の子が終わると同時にチャイムが鳴る。
先生は少しの休憩を伝えると、生徒たちは皆思い想いに席を立つ。
私と里沙も、仕事の第一歩を始める為に、席を立つ。
里沙への説教は帰ってからにしよう。