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飼い犬の自宅



 チュンチュン、と雀の囁きが肌寒さを覚える薄く霧がかった三月の朝日の中に響く。

 そしてその後を追う様に06:00を告げるアラーム音が鳴り響く。設定曲は魔王だ。


「…ッ……………くぁ……」


 覚醒していない頭と気怠い身体を起こす。

 その所為で唯一掛かっていた毛布がはだけ、一糸纏わぬ柔肌が露わになる。

 僅かな淫臭の匂いが染みついたベットから身体をずらし床に足を付ける。私が動いた気配を感じたのか、隣で私に背を向ける様に横向きに全裸で眠る同居人が身じろぐ。


「……いまなんじ……」

「6時」

「……っあ~……おやすみ」


 彼女はそう気怠げに言い捨てると腰まで落ちた毛布を芋虫の様に被り、直ぐに肩を緩やかに上下させる。

 低血圧なんだろう。朝はいつもこれで、変に起こすと機嫌を悪くする為特に何も言わずリビングへの扉に手を掛ける。


 全裸だから服を脱ぐプロセスを挟む事も無く浴室に入り、シャワーのノズルを捻り冷水を頭から浴び、意識の覚醒を促す。

 春に入り日中は温かくなったとは言え、朝は身震いする程に肌寒く、冷えた水道管を通る水は氷の如く刺さる冷たさの為、私の体温は一瞬で代謝を阻害する程に下がり別の意味で眠気が訪れる。


 が、今はその痛さが心地よい。

 10秒もしない内にシャワーから湯気だった温水が溢れ、急激な温度変化で痛みすら思えながら、色を失ったように青白くなった肌が桜色に色づき、身体が熱に慣れると完全に意識が覚醒しシャンプーやボディーソープに手を伸ばす。

 時間にして10分程度。身を清め爽快感の中手近に置いてあったバスタオルを被りながら、水滴の足跡を残しつつリビングに向かう。


 水滴の足跡を残しながらキッチンに置かれている冷蔵庫から野菜ジュースをグラスに注ぎ仰ぎ呑む。

 ふぅ。と一息つくとキッチンに手早く朝食の材料を並べる。


 今日の朝食はパンとコンスープとサラダ。

 私も同居人も朝は多く食べられはし無いから、少しでも食べられるようにと栄養バランスを考えてアメリカンスタイルに落ち着いた。まぁいつも作る私が、和食よりは楽だからと言うのが最近の理由なのだが。


 給湯器で水を沸かし、その間にトースターにパンを入れ、パック詰めされたサラダをボウルに盛り付ける。

 給湯器がお湯を沸かし終えたら、私達のマグカップに粉末を入れお湯を注ぐ。

 コーンポタージュとパンが焼きあがった香ばしい香りを肺に取り込みながら、二人分の皿に盛り付けキッチン向こうのテーブルにジャムやマーガリンと共に並べる。

 

 そして朝食が冷める前に未だ惰眠を貪る同居人の元へ足を運び、カーテンを勢いよく開ける。朝日に照らされた同居人はゾンビの如き呻き声を上げて顔を枕に埋める。


「ほら里沙起きて、朝ごはん出来たよ」

「うぅ~……」


 朝食と言う言葉にいつもの如く反応し、同居人である里沙は両手を広げ、抱擁を待つように豊かな双丘と鎖骨を晒す。

 その右半身の状態には爛れた様な火傷の後が広がっていて、今は完全に古傷と化しているが見るだけで思わず幻視痛してしまう。

 

「ほら、顔洗ってご飯食べよ」

「うむぅ……」


 里沙と全裸で抱き合い、モチりとした柔肌を重ねながら全体重をかける里沙を支えながら洗面台に運ぶ。

 ここまで来れば里沙も自分で顔を洗える。

 その間に私は寝室に向かい漸く服を着る。


 今日はワインレッドのフリルが少しだけあしらわれた下着。

 その上から黒いタンクトップを着、アイロンがけされた皺ひとつない真っ白なカッターシャツを羽織る。下は黒いスキニーパンツ。

 髪をかき分け外に出しながらリビングに向かう。すると既に里沙が半分程目を覚ました状態で席に座っている。


「服着ないで寒くないの?」

「…大丈夫」

「そ。パンは?ジャムで良い?」

「ん」


 うつらうつらとしながら反応する里沙の器にサラダを乗せ、目の前にパンにイチゴジャムを塗ったパンを置く。すると里沙はもそもそと山羊の様に口にする。

 その光景を尻目に私も席に着き、テレビのニュースをつけながらパンにイチゴジャムを塗り口に含み、呑みやすい程度に冷めたコーンポタージュで解し流し込む。


『昨晩未明、野党大臣、大黒 俊夫52歳が自宅で亡くなっているのが確認されました。死因は心筋梗塞と見られ……』

「あ~、このおっさん美琴の昨日の暗殺対象だっけ」

「そう。調子に乗ったおっさん」


 そのニュースが流れた辺りで里沙が完全に覚め興味無さそうに呟く。

 いつも通り後始末は定番の事故や病死。ネットでは陰謀や暗殺説が出るが所詮電子掲示板での一過性の話題、三日もすれば皆忘れ去る。


「まさかしてないよね?」


 里沙が声のトーンを一つ落としてバターナイフを突きつけてくる。

 彼女はいつもこうだ。私が仕事をするたびに本番までしたかどうかを気にする。独占欲なのか自分も同じ仕事をしているにも関わらず、私が本番までしたかどうかを仕事の度に聞いてくる。


「してないよ。ベットに誘導しただけだし」

「なら良かった。美琴を犯して良いのは里沙だけだからね」

「別に里沙も犯して良い訳じゃないけど……」


 胡乱な目を向けるも呆気からんとした様子を浮かべる里沙。


 私は余り房中術やハニートラップを得意としてない、ただの暗殺者だからあまりそう言った機会は無いが、この道の人間なら情報の為に多かれ少なかれベットプレイの一つや二つあるだろうに。

 幸い、そう言った仕事は回されていないが、私も暗殺者として飼われている身。いつそっち方面の仕事が回されるか分からない。

 と言っても、今日に至るまで殺しの任務ばかりだったし、直接戦闘の技術ばかり仕込まれた訳だからそっちの任務しかないが。


「ごちそー様。あっ!!皆もう集まってるって!」

「今日こそはちゃんと服着てね」

「パンツは履くよ~!」

「……はぁ」


 里沙は逃げる様に足早に席を立ち、寝室に姿を消す。

 そのむっちりとした珠の様な安産型の尻を見送る。

  

 錦戸(にしきど) 里沙(りさ)

 私の同僚で同居人。

 身長146㎝、血液型B、年齢18歳。Gカップに安産型の犯罪的な体型。容姿は童顔で猫目、ライトブラウンの内側に丸まった長い髪をツインテールにしている美少女。そして過去虐待に会っていた彼女は右半身の上体、鎖骨から腋にかけて熱湯をかけられた火傷の後が生々しく痕を残している。そんな彼女は私に依存している。

 最近の趣味は同僚に無理やり勧められたBL物にはまりだしているらしい。


 彼女は日常生活ですら支障が出る程の超敏感肌を持ち、その体質を使い風を読み狙撃を専門としている。

 彼女の腕は1㎞先から全く同じところに数発着弾できる腕前を持ち、その烈椀で持って任務をこなす。

 そして彼女は人殺しという事に対して、自己で精神を調律する程強くなかった。

 生を感じる事で死を忘却する。マインドセットによる逃避の精神圧迫。

 里沙は私と言う存在に依存し、身体を重ねる事で平静を保つ。


 里沙とは2歳離れているが、同じ教育所を潜り抜けた同期で相棒だ。

 周りから徐々に人が居なくなる中、血反吐を吐くような環境の中私達は身を寄せ合う事で日々を耐え抜いた。

 そういう意味では私も彼女に依存していると言えなくも無いが、幸いにか彼女ほど強くはない。

 いつ死ぬか分からない環境だし、いつ離されるか分からない。先生が居なくなった時そう決意した。


 私は食べ終えた食器を洗い終え、タブレットに転送された健康診断の結果に目を通す。


 月島(つきしま) 美琴(みこと)

 身長170、血液型B、年齢16、体脂肪率15%。ギリギリBカップだががっつり割れた筋肉の所為で凹凸の無い身体をしている、脚が長いのが幸いだが。

 容姿は純日本人らしく黒髪黒目、二重で目鼻立ちがはっきりしているお陰で化粧をそこまで必要とはしない程度に整っている。口元、首、鎖骨と縦に3つ並ぶ黒子が特徴。

 最近の趣味、というか趣味らしい趣味が無く強いて言えば筋トレとトレーニングだけは欠かさない。


 容姿が整っている自覚はあるがそれを使う機会も気力も無い。

 私には先生から貰った戦闘力以外特に興味はない。これだけが私の生きる武器で、道だから。

 私の専門は近接戦闘による暗殺。

 12歳から発足した政府の暗殺者育成プロジェクトの一期生として、まともな生活を送ることも無く良く分からない施設で暗殺者として育てられた。


 正面戦闘能力だけなら現状うちの班では一番の自負はある。

 格闘と射撃に主点を置いて育てられたが、これが私には合っていると思う。ただ言われるがままに引き金を引いてナイフで動脈を裂く。

 言われた通りに仕事さえこなしてれば毎日お腹いっぱいご飯を食べれるし暖かい布団で眠れる。何不自由ない生活が送れるんだ、何を不満に思う事がある。

 この腐った社会の、最低の職場で最悪の仕事をこなしながら日々を生きる。これで良い、何の問題も無いんだから。


「みことー!もう行くよー!」


 玄関から里沙の声が響き、タブレットとスマホを手に向かうと玄関の扉の向こうでパンツの上に白Yシャツだけを羽織った里沙が笑顔で手を振っている。

 服が擦れるだけでも苦痛に感じるらしいから仕方ないし、このマンションのこの階から上は全て私達の存在を知る関係者以外しか居ないから良いとしてもだ、幼子の様な外見に似合わない双丘と痴女の様な格好では犯罪的すぎて心配になる。


「ねぇ、せめてシャツとズボンとかにしない?裸Yシャツはなんていうか……」

「興奮した?」

「と言うより心配する」

「まぁだからって着替えないけどね~」

「……はぁ」


 身を翻し、真っ黒で煽情的な下着に包まれた桃尻をチラ見せしながら歩き出す里沙の後をため息混じりに追いかける。

 これから同僚達とミーティングがあるから送れる訳には行かず、里沙に服を着せるのを諦めて歩き出す。

 向かう先は私達が半年前に所属した班の会議室。


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