夕日に染まるそれぞれの放課後
舞羽の暴動も収まったと思ったが和が二人っきりの時に口を滑らせてからもう一悶着。
洋が脱兎の如く去って三十分後。
「うう……ごめんね、みんな」
舞羽が申し訳なさそうに頭を下げた。
「大丈夫ですよ~………まあ止めるのが精一杯だったけど」
綾が疲弊した声と笑顔で応えた。
「うん………まあ、ね……流石悠季ちゃん………あそこまで秘めた力があったなんて……」
まるで小さな鬼。とは姉の洋みたいに口を滑らせない和であった。
「はぁ~~……。大丈夫かいまりもちゃん?」
この中で一番体格が良い郁巳も大きなため息を吐いた。が、直ぐ様隣で崩れる様に座り込み細かい呼吸をするまりもの心配をした。
「はぁはぁ………だい、だいじょ…ごほっ!」
「マーちゃん大丈夫?」
「綾、これをみて大丈夫だと思うか?」
「ううん、正直いつ倒れてもおかしくなさそう」
「てな訳だ。保健室に連れていく。綾、手を貸してくれ」
「はいはーい…の前に少し飲ませて」
綾はそう言って少しふらつきながらペットボトルのお茶を一口飲み郁巳とまりもを左右から支えて保健室へと歩いて行った。そして取り残された舞羽と和はしばし無言でそれぞれのペットボトルを手の中で転がして時間を潰した。が、やはり時間がそう潰れないのでお互いに困り会話の糸口を探した。
「……え~っと。まりもちゃん、大丈夫ですかね?」
「ああ、あれは少し大丈夫でないかもだね。悠季ちゃんと同じ位の背丈だけど悠季ちゃんの方がタフだものね」
「うう………すみません」
舞羽が申し訳なさそうに和から離れた席に座った。
「ああっ!ごめん!そう言うことでは無いんだよ!?えっとほら!…………え~っと………」
「………………」
「………………」
「………………」
「………うん!大丈夫だよ!」
「和先輩のバカッ!!」
「ああ!悠季ちゃん!」
あれだけ暴れた舞羽は今度はミサイルみたいに部室を飛び出して行った。
「ああっ!…とりあえず皆に悠季ちゃんの事を報告して捕獲しよう。…まりもちゃん以外に」
ワーン
まりもを郁巳と一緒に保健室のベッドに寝かせた綾にLOneにメッセージが届いた。
日本式さん:ごめんっ!!
まいまい逃走した。手分けして探してほしい。
あやーん:何したんですか
また口を滑らせたんですか
日本式さん:そんな事ないよ!
ただ…タフと言う言葉の後に言い淀んでしまって少し泣きそうだった。
あやーん:更にダメじゃん!
ああもう、だめだめな先輩達の為に私が一肌脱ぎますか
「肉兄、私ちょっと舞羽先輩探してくる。」
「どうかしたのか?」
「いや、和先輩が口を滑らせて舞羽先輩が拗ねて逃走したらしいから私探してくる」
「それだったら綾がこっちにいた方が良いんじゃないのか?」
「いや肉兄LOne打つとき足止まるじゃん」
「ぐはっ」
「まあ、後で肉兄は合流してくれたら問題ないよ。だから今はマーちゃんの傍にいて」
「おう」
日本式さん:おおっ!
何か手があると!?
あやーん:手分けして探す
どこか行きそうな所知りませんか?
日本式さん:ですよね~( ; ゜Д゜)
………ごめん、知らない。
あやーん:ですよね~
なら片っ端から探しますよ。良いですか?
日本式さん:イエス マム!
なら私は部室の近くから探して行くよ。
あやーん:なら私は保健室付近から
部室とは反対側へ探して行きます。
「じゃあね、肉兄。マーちゃんよろしく」
「おうっ」
「…襲うなよ」
「んな事するか」
「あはは、じゃあね~」
そう言って綾は保健室を出て行った。
日本式さん:あれ?いくみんは?
いくみんも探してもらえると助かるかも
あやーん:それは無理
肉兄、LOne打つとき足止まるから
日本式さん:それは仕方ない
では見つけ次第合流で
あやーん:オッケー
では
「さてと、舞羽先輩はっと…」
綾はそう独り言を言ってから廊下を少し駆け足で走って行った。時を同じくして保健室で
「んん……あれ?私は………あ、郁巳先輩」
「おう、体調大丈夫か?」
「…ああ、運ばれてる途中で意識失ったと。そして綾ちゃんがいない間に私は食べられたと」
「ははっ。そんな口が叩けるなら大丈夫そうだな」
「…むう、冗談ですよ。郁巳先輩のケチ~」
「まりもちゃんってそんな感じだったっけ?」
「…あはは。いつもはちょっと無口風ですが今は心も許しているので口調が甘えん坊なのです」
「お…おう……」
「…郁巳先輩……耳まで真っ赤」
「う、うっさい!」
「あはは……でも安心した」
「ん?」
「隣にいるのが郁巳先輩で」
「……先輩をからかうんじゃ、ありません」
「あたっ。郁巳先ぱ~い。私保健室で寝てるんですけど~」
「ならゆっくり寝てなさい」
「ぶー~…ふふっ」
「ぷっ」
「くすくす。やっぱり今の私達、少し可笑しいですね」
「ああ、今だけ。な」
「せーんぱい、もう少しだけ傍にいてくださいね。…もう少しだけ寝ます」
「おう…」
「…襲わないで下さいね」
「…それ綾にも言われたわ」
「…流石綾ちゃん。…では………お休みなさい…」
「ああ……」
そうして郁巳とまりもは再び安らぎの時間を過ごすのだった。そして
「ぐすん。和先輩のばか~」
舞羽は屋上で黄昏ていた。どれだけ時間が経ったかも分からない位佇んだり座ったりしながら時間が過ぎていっていた。
「でもいくみんもいくみんで悪いんだよ。ボク以外の女の子にあんなに近づいて~」
完全にふてくされている舞羽は自分の言っている事の理不尽さを微塵も感じずただただ愚痴をこぼし始めた。
「そりゃボクだってまりもちゃんみたいに大人しく出来たら苦労しないよ。でもボクはボクだもん。だからこうやって拗ねてるし早くいくみん来てくれるのを待ってもいるんだけど…多分先に来る子は綾ちゃんかな~」
ガチャ
屋上の扉が開く音がして舞羽が振り向いた。
「あ、……舞羽…先輩?」
「あ……うん。舞羽先輩ですよ~」
「あはは、ごめんなさい。兄じゃなくて」
「う、ううん。そんな事、ないよ…」
「ああ!ほら舞羽先輩!顔!」
「…え?」
「涙。目も赤くなっちゃって。そんなに泣いたんですか?」
「そ、そんなに…泣いて……ない、よ?」
「もう、何で疑問系なんですか。ほら顔こっち向けて下さい」
「うん………」
舞羽は綾に言われるがまま顔を向けて目を瞑った。
「もう、可愛い顔が台無しじゃないですか。舞羽先輩は笑顔が一番似合うんですから笑って下さい」
「うん…」
「全く兄は。こんなに慕ってくれる同級生や下級生がいるのに全くフラグ成立させようとしないんだから」
「あはは…」
「…舞羽先輩、今しれっと何か言った事は忘れて下さい」
「?…ああ、まりもちゃんのこと?」
「うぐっ……まあ、多分そうです」
「多分って…?あれはどう見てもそうじゃん」
「あ、いや~。他から見てたらそうなんですが、お互いに兄妹っぽい雰囲気が妹からして感じてまして~」
「…ああ、でもあれは何時まりもちゃんが気付いてもおかしくないよ」
「ええ…だから少し舞羽先輩を心配してるんです。舞羽先輩はマーちゃんが兄に出会う前から知り合いでそして兄を慕ってるのも兄以外皆知ってますし」
「うん…。あ、でもいくみんとはなしはじめたのは新学年になってからだから実際にはそんなにまりもちゃんと変わらないよ」
「そうなんですか?てっきり一年の頃から友達だと思ってました」
「あはは。だから密度の濃い時間を過ごしたんだけどね………だめだなボク。ライバルがいると直ぐに嫌な自分が出てきてしまう。そして八つ当たり。…こんなんじゃいくみんにも愛想尽かされちゃう」
「ああ、ほらまた涙がでてきてますよ~可愛い舞羽先輩」
「う、うわ~~ん!わ~~~ん!」
舞羽が本泣きし始めてから綾はそっと舞羽を抱き締めた。
「よしよ~し。舞羽先輩、兄じゃないけど腕の中で泣いて下さい。今は誰も見てませんから」
「うん!うん!…ぐず」
「よしよ~し」
そうして日が傾いていった。
あやーん:まいまい発見
だけど今日はもう帰らせます。まいまい、また明日皆に謝ると言ってました。私もまいまい送って帰ります。ので部室には誰も居ないで下さい
日本式さん:了解
まいまいにごめん、また明日って伝えて下さい。
あやーん:りょ
じゃあ30分位後に部室に戻ります
日本式さん:はーい
じゃあね~
「さてと、マーちゃんはっと」
綾はそうしてLOneでまりもにメッセージを送った。
あやーん:お疲れ様です
そっちはどう?
しばし間を置いて
まりもっこ:お疲れ様です
あ、あやーんちゃん。お疲れ~。私さっき起きて今、郁巳先輩と一緒に保健室出たよ。
あやーん:ほほう
仲良く出来ましたかな(意味深)
まりもっこ:想像にお任せしますw
なーにもなかったよw全く( >д<)
あやーん:あはは
まあまりもっこも元気になったみたいで良かったよ。私、今まいまい先輩と一緒にいるのだけど30分位後で部室に行くからそれまでに帰っていて欲しいッス
まりもっこ:はいはーい
分かったよ。じゃあ先に帰るね。あ、郁巳先輩もついでに帰るって。まいまい先輩多分泣いてるだろうから顔合わせずらいだろうからって。良く分かってるw
あやーん:正解!
じゃあ兄によろしく。送り狼になるなよって伝えといて
まりもっこ:w
ないないwそれがあるなら私保健室で食べられてるってw
あやーん:そりゃそうだw
じゃあね~
まりもっこ:お疲れ~
(´ゝ∀・`)ノシ
「…っと…では郁巳先輩、部室に戻って帰りましょうか」
「おう」
「…にしても郁巳先輩は何と言いますか…紳士なんですね…」
「ん?なんで?」
「…いや、ちゃんと相手を見てるな~っと言うか八方美人と言いますか…もし家庭料理部以外の人でこういう風にしてフラグを立てまくってるのが普通にありそうなので」
「あはは…酷い言われようだ~」
「…でも」
「ん?」
「…それが郁巳先輩らしいと言いますか郁巳先輩だな~っと思いますか」
「お、おう……何かディスられてる?」
「…ふふ、そう思うなら少しは自重して下さい」
「それは無理だ。俺は人に親切にしたがる奴だから。友達なら尚更だ」
「…ふーん………」
「な、なに?」
「いや~~、べっつに~~」
「…今まりもちゃんに小悪魔が乗り移るのが見えたよ」
「…なら小悪魔らしく腕組みましょうよ」
「いや!それは!…勘弁…して……下さい」
「…ぷっ。郁巳先輩、顔、真っ赤ー!」
「そ、そんなまりもちゃんだって顔真っ赤じゃんか!」
「そ、それは…夕日!そう!夕日のせいでーす!」
「なら俺も夕日のせいだな!」
「へ~、郁巳先輩はこんな可愛い後輩から言い寄られても顔色一つも変えないと。八方美人な上にポーカーフェイスなんて~」
「うう…ああ!ごめんなさい!照れてました!ごめんなさい!」
「ぷっ、あはははは!」
「まりもちゃんっ!」
「あ、郁巳先輩襲わないで下さいよ~」
「襲わんわー!」
そうしてまりもと郁巳は普段と違う放課後を過ごしたのだった。
少しずつ芽生える双葉、育つ苗。どちらが空に届くか。




