天然とは時として凶器になりうる
さあ、(昼)ご飯の時間だ。郁巳、舞羽は何を頼むのだろうか。
「いやー、怒られたね~」
お昼休み、舞羽は郁巳と一緒に学食にいた。
「お前のせいだろうに。ところで舞羽はカツカレーなのか?」
そう言い郁巳は自分の後ろに並んでいる舞羽の右手の食券を見て言った。
「うん、そう言ういくみんは?…おしるこ2大盛りって…。うん、そっか~…」
「おい、何で距離を置こうとする!」
「いや、もう4月過ぎて暖かいのにおしるこって…ちょっと距離置こう」
舞羽はスススッと後ろに後退った。
「おい、おしるこに謝れ!ここのおしるこはサラサラで少し甘さ控えめだから胃もたれし難いんだよ!何故そんな目で見られないといけない!」
郁巳は心外そうに舞羽に言った。
「だって…おしるこって普通寒い時期に食べるものだと思っているからこの時期に食べる人の気持ちが分からないんだよ。ぷーっ!」
今度は舞羽が心外そうに郁巳に言ってふてくされた。
「いや、おしるこはこの時期にでもうめーよ。何杯でもイケるよ!」
「むー。…そうなの?」
未だにふてくされてから戻らない舞羽に郁巳は笑顔で答えた。
「おう。保証する。」
「ふーん。なら少し分けてもらえる?」
舞羽は少しいたずらっぽく言った。が
「おう、いいぞ。でもお前のカツカレーも少し分けろよ」
郁巳はド天然に答えた。
「ちょ、ちょっと!いくみん!普通そこは「え!それって間接キスになるんじゃないの!?」と少し動揺するところでしょー!何で普通に受け答えしてるの!しかも「お前のカツカレー少し分けろよ」って間接キスになっちゃうじゃん!ドキドキしちゃうじゃん!」
舞羽は両手で顔を覆い恥ずかしそうに首を振った。そんな乙女な反応を見た郁巳はさらに追い討ちをかける形をとってしまった。
「ん?何?ドキドキする?普通に食べ物分けるだけじゃん」
「ちょ!いくみん!その考えおかしい!普通年頃の男女なら間接キスの1つや2つ、ドキドキするでしょうが!あー!」
舞羽は“こいつおかしい!”と赤い髪をかきむしった。そして郁巳をビシッとさした。
「大体何で恥じらいがないの!?」
舞羽の指摘に周りの傍観者もうんうんと共感する。そんな中、郁巳は無自覚にトドメを射してきた。
「普通妹いたら別々の食べ物頼んだら分けるだろう」
「普通分けないから!そこ普通じゃないから!」
舞羽の一言を発端に傍観者だった男子学生から「うらやましい!」「けしからん!」「妹さんを僕に下さい!」「神は無慈悲だ!」等言いたい放題の阿鼻叫喚になった。そして舞羽は男子学生達を焚き付けた。
「男子諸君!普通こんな奴いるかー!」
『いなーい!!!』
「妹は欲しいかー!」
『ほしーーい!!!!』
「私みたいな妹が欲しいかーーーっ!!」
『ほしーーーーい!!!!!』
「あっりがとぅーーーー!!」
『イエーーーーイ!!!!!!』
見た目が可愛い舞羽の演説に周りの男子学生が大いに盛り上がる。所々「俺の妹になってくれー!」とまでちらほら聞こえてくる。そんな中でも郁巳は我関せずと学食でおしるこの購入を終える。
「おーい舞羽、置いてくぞー」
「あ、はーい」
郁巳の一声に舞羽は回れ右をしてカツカレーを購入。男子たち観衆を置き去りについていく。
「うらやましい!」「憎い!」「呪ってやる!」「ああ、神よ!」など罵詈雑言が郁巳だけに投げ掛けられる。
「なぜ俺に?」
「んふふ。それはボクが可愛いからだよ」
舞羽は前屈みに郁巳にウインクをした。
「うん、舞羽、確かにお前は可愛い」
現在天然継続中の郁巳は舞羽のキューティースマイルを一撃で落とした。
「もっ、もー!もー!何でそんなこと真顔でいえるのさ!いや、すっごく嬉しいけどさ!」
嬉しさのあまりカツカレーを放り出しそうな位百面相をする舞羽。それを見ても郁巳は気にも留めないで机に着いた。
「では、いただきます」
「ってうおぃ!」
舞羽の渾身の一声にも響かず「冷めるから早く食えー」とジェスチャーする始末。そんな郁巳の態度に感情が一周して呆れる舞羽。
「ま、そんな奴だよねーいくみんは。ぷっ」
自分の可愛さに1つも靡かない郁巳をおかしそうに笑いながら隣の席に座った。
「いくみん、そのおしるこ一口おくれね」
「おう、いいぞ。たーんと食え」
「うん!ありがと!いくみん!」
「舞羽、お前もカツカレー一口くれよ?」
郁巳の食べ物一直線をニカっと笑いながら答えた。
「どっしよかなー?w」
「くれよ舞羽!俺のおしるこ一口やるんだから!」
「カツカレーの対価がおしるこ一口なんて…お餅も付けてよ。ねっ?」
「ん?そんなの当たり前じゃん」
「本当に食べ物に関しては真摯だね~。いくみんはw」
そんな談笑をしながらお昼休みが過ぎていった。
ダラダラと申し訳ない。郁巳は舞羽から「いくみん」と呼ばれています。舞羽にはとある有名人が思い浮かぶのでしょう。