イチャツキ玄関前
郁巳の家に着いてからの話です。
今日のシェフ、舞羽悠季は初めて行く意中の人の家に内心ドキドキしていた。
「(ううう…まさか初めていくみん家に行くのに手料理まで振る舞うことになるなんて…大丈夫…かな?)」
普通なら好きな人の所への訪問はマンガ借りたり週末複数人集まっての徹夜で遊んだりだろうが、今日は平日の月曜日。しかも夕ご飯作りはかなり高いハードルだった。
「舞羽、ま い は ね!」
「は、はいっ!」
隣を歩いていた意中の人、琴乃葉郁巳の声が後ろから聞こえて姿勢を正し振り返った。
「おい、舞羽。どうした?俺の家ここだぞ」
郁巳はそう言って指差した。
「あ!うん!ココ!イクミンノイエナンダネ」
「何緊張している?」
「べ!別に!緊張なんかしてないし!大丈夫だし!」
そう言いながらも舞羽の目が少し泳いでいた。
「…まあ、なんだ。家の前で立ってても仕方ないし、入るか」
郁巳は舞羽を少し不審に思いながら玄関を開けた。
「ただいまー」
「お、オジャマシマッス!」
玄関を開けて家の中の人に声をかけたが返事が帰ってこなかった。
「舞羽、今誰も居ないわ。済まんな」
「へっ!?そうなの!?というと!二人っきり!?」
あまりの仰天な事に舞羽の声が裏返った。
「ん?何玄関で立ってるんだ?早く入れよ」
「は、はい!失礼シマス!」
郁巳は玄関で突っ立っている舞羽に中に入るように促した。
「…本当に誰もいないの?おば様は?」
「お母様は只今家事放棄、主にご飯作り放棄しているから家にいないぞ。綾は…居たら居間でテレビ見ながら食い棒食べてるから分かるわ」
「ふ、ふーん。…ん?お母様?」
親の名称で普段聞き慣れないワードが出てきて聞き返してしまった。
「………」
「何故黙るいくみん」
ジト目の舞羽が狼狽する郁巳を捉える。そして郁巳が重い口を開いた。
「…ついこの間までお母さんと読んでいたのだが、自分より遥かに出来る人だったことを改めて痛感して…な、お母様と言う様になったんだ…」
郁巳の告白に舞羽は「あ~」っと同情した。
「ん~、まあ親たちは私達より何十年も生きてきているんだから仕方ないよ~。…ほら!いくみん!そう肩を落とさない!ほら、ここからだって!」
舞羽の慰めに郁巳は涙ぐんだのを見せない為か顔を背けた。
「でも、舞羽だって出来るんだぞ。俺、今まで何してきてたんだろうと…」
「うんうん。そうだね。ってちょっといくみん!何気にボクをディスらないでちょうだい!というかもう立ち直ってるよね!ねえ!こっち向いて!何少し吹き出してるの!」
「…ぷっ、ぷぷっ…」
「もう!いくみん!!」
「はーはっはっはっ」
「もうっ!…ふふっ」
立ち直りが早い郁巳に舞羽は少し怒りながらも微笑んだ。
はよ家の中に入れ!




