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不器用すぎる恋のレシピ ~料理スキルゼロから始まる彼女たちとの恋愛ストーリー~  作者: 睡眠の精霊ぽち。
第五章「掃除をしましょう そうしましょう」
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四人の恋の終わり、これからの恋愛の始まり。

 琴乃葉家に着た一同。そこで待っていたのは郁巳だけではなく…。

 「い、いくよまりもちゃん…」


 「…はい………」


 そう言って舞羽は琴乃葉家のチャイムを押そうとした。


 「………………」


 「…まだ押さないんですか?」


 「もうちょっと待って!まだ気持ちの整理が!」


 始めに押そうとしてかれこれ十分が過ぎていた。


 「まーだ押さんのかーい」


 「和先輩。私、この下りもう飽きました」


 「そう言わないであげて八ちゃん。悠季ちゃん、いざという時足踏みしちゃうタイプだから」


 「それは分かりましたが…あ、押そうとしてる」


 「………うう!やっぱりダメ~!」


 「………」


 ピンポーン


 舞羽が手を引っ込めた隙にまりもがチャイムのボタンを押した。


 「ああ!まりもちゃん!」


 「………(フイッ)」


 「あ、まっちゃん顔反らした」


 「まあマーちゃんならそうしますね~」


 そんな話をしているとガチャっという音がして中から人が出てきた。


 「はーい。あ、皆さん」


 「ハローあーちん」


 「「「こんにちはー」」」


 「さあさあ、上がって下さい。あにぃ…肉兄もリビングにいるので」


 「じゃあお邪魔しまーす。あ、これケーキと~」


 「…紅茶」


 「に、クッキーで~す」


 「あ、ありがとうございます。さあさあ上がって下さい、ってさっきも言いましたね。あはは」


 「んじゃ、改めてお邪魔しまーす」


 「…お邪魔します」


 「お、お邪魔します!」


 「お邪魔しま~す」


 それぞれが挨拶をして琴乃葉家へ入っていった。


 「もう、舞羽先輩。そんなに畏まらないでくださいよ~。特に何か変わったってことないんですから~」


 綾があっけらかんとして言った。


 「そ、そうなんだけど。久しぶり過ぎて…ね、まりもちゃん」


 「………………」


 「ま、まりも…ちゃん?」


 世間話をしている舞羽の反応とは逆にまりもは神妙な面持ちで舞羽の後ろをついていった。そして直ぐに皆は久しぶりに見る郁巳を見た。


 「い、いく…みん?」


 「おう」


 「…郁巳先輩、その姿は…」


 「あはは、痩せただろ。これで綾から肉兄なんて言われなくなったぜ」


 前の郁巳の面影もなくスリム…と言えば聞こえは良いが実際にはスッと痩せた郁巳がいた。


 「…いくみん、今体重何キロなの?」


 「ん、…五十…四かな」


 「え!?前って確か六十後半の体重だったよね!?」


 「ん…まあ………な」


 郁巳はばつ悪そうに頬を掻いた。


 「まあまあ、積もる話があるだろうけど、今日はその話じゃないんだよねいくみん」


 和が話題を逸らした。


 「ああ、話したい事があるんだ。…えっと……どこから話したら良いか~」


 「…郁巳先輩」


 「ん?何だいまりもちゃん」


 「!?………菓愛莉、ここに居ますよね」


 「!?」


 まりもの言葉に驚きを隠せない舞羽。そしてその答えに階段を降りてくる音がした。


 「ど、ども~」


 「え!?菓愛莉…ちゃん!?」


 「………………」


 「お久しぶり。かーちん」


 「菓愛莉…あんた…」


 二階からの菓愛莉の登場に舞羽以外特に驚きもしなかった。


 「え~っと、皆さんお久しぶりです」


 菓愛莉はおどおどしながらリビングに入ってきた。そしてススっと郁巳の横に座った。


 「え………うそ…何それ………」


 「………………」


 今の状況を舞羽は言葉を失いまりもに至っては険しい顔で菓愛莉を見つめていた。


 「…菓愛莉、いつから?」


 まりもは淡々とした口調で菓愛莉に言った。


 「え~っと…郁巳先輩が登校拒否を起こして直ぐに…かな」


 「………………」


 「え~っとまりも、もしかして怒ってる?」


 「…怒ってないと言えば嘘になる」


 「ううっ……ごめん…」


 「…でも郁巳先輩」


 「ん?」


 「…郁巳先輩、何だか少し穏やかになった感じがします。何となくなのですが…箔が付いた…というか芯がしっかりしている感じがします」


 「うん、そう…だね」


 まりもの言葉にどうにか反応する舞羽。


 「あはは、まあ、ね」


 郁巳はそれ以上述べずやんわりとこの話を終わらせる。


 「で、どうなの菓愛莉」


 「え!?どうって何が!?」


 「どうって郁巳先輩との同居生活」


 「「!?」」


 「ひっ!?」


 「悠季ちゃん、落ち着いて!落ち着いて!」


 「マーちゃんもどうどう」


 舞羽もまりもも今にも菓愛莉に飛びかかりそうになる所を和と綾が制止させた。そして菓愛莉と舞羽達の間に郁巳が割って入った。


 「!?いくみん…」


 「…郁巳先輩…」


 「先輩!まりもちゃん!…とりあえずお茶にしましょうか。菓愛莉、手伝って。郁巳先輩、キッチンお借りします」


 八花の“とりあえずお茶”の言葉に一旦落ち着きを取り戻しそうになる。


 シュー!


 少ししてお湯が沸き八花が皆に紅茶を入れた。


 「さあどうぞ」


 「…いただきます」


 「………………」


 「こら悠季ちゃん」


 「あ…うん。いただきます」


 「はい召し上がれ。郁巳先輩達もどうぞ」


 「おう、いただきます」


 「い、いただきます」


 「いただきまーす。あ、ついでにケーキとクッキーも持ってくるよ」


 八花は笑顔を絶やさないでお茶を勧め、綾はしれっと和達が買ってきたケーキとクッキーをお皿に入れてきた。


 「みんなどれがいい?」


 「えっと、いくみんはどれがいい?」


 舞羽が郁巳にケーキを勧めた。


 「じゃあチョコケーキで」


 「私はショートケーキ~!」


 「んじゃ私もショートケーキかな」


 「まりもちゃんは?」


 「…舞羽先輩から先にどうぞ」


 「えっと…じゃあチーズケーキ」


 「…ハッカは?」


 「先にまりもちゃんからどうぞ」


 「…じゃあ私もチーズケーキ」


 「菓愛莉はどれにする?」


 「じゃあショートケーキを…」


 「じゃあ私が残ったチョコね。じゃあ…」


 「「「いただきます」」」「「いただきまーす」」「「…いただきます…」」


 先端から食べる郁巳と舞羽、和。二つの角の一方から食べる菓愛莉、八花、まりも。そしてイチゴから食べる綾。それぞれが思い思いにケーキにフォークを通した。


 「んで綾ちゃん」


 「ん?」


 八花のかけ声にケーキを食べながら反応する綾。


 「何で…っていうか菓愛莉に迷惑してない?」


 「ちょ!?ハッカ!」


 「うーん…ううん。全然正直あにぃの変化に最初に気付いたのって菓愛莉だし。まあ、菓愛莉があにぃの彼女になるのは何となくこそばゆい…かな。いししっ」


 綾は言葉通りにムズムズしながら、且つ笑いながら答えた。


 「ふーん、じゃあその彼氏さん」


 「え?あ、はい」


 「おお、もうそこでいくみんが答えるのかい」


 和が少しおどけながら会話を続けた。それこそインタビュアーみたいにフォークをマイクに見立てて郁巳に向けた。


 「いくみんはどうしてかーちんにしたの?ほら悠季ちゃんやまっちゃんも好意を寄せていたじゃん」


 「えーっと…」


 「いくみん答えないで…」


 「え?」


 舞羽がケーキを食べるのを止めて顔を合わせない様に下を向きながら言った。


 「答えないでいくみん…」


 「舞羽…」


 「…そう、もう私は悠季じゃなくて舞羽なんだね…」


 「………」


 「……はは、そこで「ごめん」とかは言わないんだね」


 「…言った方が良いのか…」


 「……………いや………」


 「そっか……なら言わない………」


 「…私は聞きたいです」


 「まりもちゃん………」


 「…私は先輩が好きです。なので他の人を選んだ…菓愛莉を選んだ理由を聞いとかないと納得出来ないです…」


 「そっか……いいか舞羽?」


 「…もう勝手にして………」


 舞羽は下を向いたまま呟いた。


 「………最初は俺が登校拒否になった時、菓愛莉が早退してまで心配してくれた事。そして俺が食事が食べれない事をちゃんと怒ってくれた事、そして何よりずっと傍にいてくれた事…かな」


 「…郁巳先輩、食べれないって………」


 「…ああ、摂食障害…って言えばまだ良いけど正確には味覚がね…ダメなんだ……」


 「「「「!?」」」」


 「あ、もちろん今はってだけでその内戻るから」


 「「「「………」」」」


 「だ、だから私もちゃんとご飯作れる様になってしっかり郁巳先輩を支えて生きたい!」


 「菓愛莉…」


 菓愛莉の決意に八花が瞬きもせずに菓愛莉を見つめた。そこには生涯共に歩く人を決めた目だった。


 「だから…こんな俺達でもちゃんと皆とも話しをしたい。だから…」


 「もういい!!」


 郁巳が「ごめん」を言う直前に赤い髪が揺れた。


 「もういいもういいもういい!!!」


 舞羽は絶叫して外へ出ていった。


 「ああ!…あにぃ、後は任せて!」


 綾はそう言って舞羽の後を追いかけていった。


 「………菓愛莉、あなたはそれで良いの?友達の私と先輩である舞羽先輩の恋をかっ攫っていったのよ。それでも私達に顔向けできるの…!」


 「………!?」


 まりもの核心を突いた台詞に菓愛莉は言葉を失う。肩が震える、喉が渇く、声が出ない。そしてそれでも郁巳と一緒にいたいなんて言えない自分がいることに狼狽していた。でも隣にスッと手を握ってくれる人がそこにはいた。


 「…!?………郁巳………せん…ぱい!」


 友逹を裏切り、縁を切られてもおかしくないのに、それでも手を握ってくれる、共に歩いてくれる人が今、隣にいることに菓愛莉は涙が止まらなかった。


 「まりもちゃん、ありがとう」


 「…何がですか?」


 「菓愛莉、俺に言わせてくれ」


 「?」


 菓愛莉はこれから何を言われるか今は想像出来なかった。


 「菓愛莉、共に歩こう。共に笑って、泣いて、そしてこれからも一緒にいよう。…好きだ」


 「………!?………せん…ぱい……………………はいっ!」


 郁巳からの愛の告白を受け取った菓愛莉。そして郁巳から告白の返事を受け取ったまりも。二人とも流す涙は違っていた………。

 誰かの恋が叶う時は誰かの恋が破れる時。それでも未来へ進んで行く。


…未来は進んで行く。

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