二人の決意
目を覚まして親から伝えられる転校の話。ただ、それを決めるのは郁巳自身だった。
「………うぅ………あ」
菓愛莉が目を覚ますと郁巳が菓愛莉を見つめていた。
「おはよう、菓愛莉…」
「…おはよう、ございます郁巳先輩………体調、どうですか?」
「ん………ああ、大分良くなったよ」
「そう………ですか……良かった………!?せ、先輩!私の寝顔見てました!?」
菓愛莉は微笑んだが寝起きを見られたのを見て動揺を隠せなかった。
「うん、見た。可愛いかったよ」
「!?も、もう。いくみせんぱ~い」
菓愛莉がぽこぽこと郁巳のお腹をふざけて叩いていると真海と綾が部屋に入ってきた。
「あ、郁巳起きたの?」
真海の言葉に菓愛莉は郁巳と少し距離を取った。
「ゆうべはお楽しみでしたね」
「「まだ夕方だけど?」」
「お母様、この二人意外に純粋」
「うふふ、そうね~そして不粋ね綾。ところで郁巳、大事な話があるのだけど今良い?」
真海が重い口調で郁巳に言葉を投げかけた。
「………どんな話?」
郁巳も内容の重さを感じとり真剣な口調で母親に聞いた。
「郁巳、転校…する気ある?」
「「「!?」」」
真海の一言に言葉を失う三人。
「転校…ってどういうことなのお母様…」
郁巳は再度問いかけて綾と菓愛莉は顔を伏せた。
「郁巳、分かってると思うけどこの原因になったのは悪いけど舞羽ちゃんとまりもちゃんなの。そしてそれが今後ない様にするには転校が一番良いと母親の私は思ってるの」
「でも!」
「ただ、ね。転校はあくまでも最後の手段だと思ってるの。逃げれば良い時もあるけど逃げる事により失うものも多いと思ってるの。だから郁巳が今、転校したいって言えば私は転校させるわ。母親として。だけどちゃんと向き合うのであれば私もそれは応援するわ」
真海は郁巳に親として優しく微笑んだ。それを見て綾も、菓愛莉も真面目な顔で郁巳を見つめた。
「……俺は転校……したくない」
「郁巳先輩…」
「あにぃ…」
「確かに転校したら、逃げれば自分には問題がなくなる。けど残された舞羽やまりもちゃんが悲しむだろ。あの二人が悲しむのは俺も見たくないから。それに本を正せば俺が逃げたからだから…二人の気持ちに応えられなかったからいけないんだ。でも、今はちゃんと向き合えるから」
そう言って郁巳は菓愛莉を見つめた。
「郁巳先輩………」
「だから、俺は逃げない。舞羽からもまりもちゃんからも。そして自分自身からも」
「…そう」
「だったらこれが全部片付いたらパーティーしよう」
「「「は?」」」
綾の突拍子のない言葉に思わず素で返してしまった郁巳達。
「あ、いや。前に舞羽先輩がイノシシ肉取り寄せてたから今頃先輩の冷凍庫の中にイノシシ肉があるはず」
「あらじゃあ皆集まってシシ鍋パーティー…は暑いから焼き肉パーティーかしら」
「だね」
「…郁巳先輩は、大丈夫ですか?」
菓愛莉が心配そうに郁巳の顔を覗き込んだ。郁巳が傷つかないか不安なのだろう。
「…正直二人の気持ちを裏切るのは大丈夫じゃない。だけど今は菓愛莉がいるから大丈夫だ」
「郁巳先輩………」
「菓愛莉は大丈夫か?二人に会うのは」
「…私も郁巳先輩がいるから大丈夫です」
「そっか………」
「………」
「ん、んんっ!」
見つめ合う二人に水を差す綾。それを見てあらあらと笑う真海。ここにはさっきまでの重い空気はなく前を見つめる二人がいた。
郁巳と菓愛莉の決意。二人の決意に舞羽とまりもはどう答えるのか…。




