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少年への刺客……?

 義母さんの部屋を出て、隣の自室に戻る。覚束ない足取りでベッドまで戻り、倒れ込むようにベッドに体を沈めた。部屋の扉が勝手に開く音が聞こえる……多分、レーヴェがついてきたんだろうね。

 嘘を……吐いてしまった。それだけで胸が痛いのに……あの男と同じ道を辿ってしまうなんて……頭がぐちゃぐちゃになりそうだ。


「お義兄ちゃん、あの……お隣良いですか」


「…………ああ、大丈夫だよ」


 うつ伏せの状態から体を横に動かし、レーヴェが座れるスペースを開ける。レーヴェがベッドに腰掛けて、体がほんの少しだけ沈み込んだ。少し顔をレーヴェの方に向けていたが、何か言いたげな目が帰ってきて顔を背けてしまった。

 顔を背けてもレーヴェは話しかけてくるのは分かってるのに……無駄な行動を取ってしまう。ああ、もう本当に最悪な気分だ。これも全部、あの男が悪いんだ!


「明日からヤパンに行くなんて、羨ましいです。ワタシもついて行きたかったなぁ……」


 本当にヤパンの観光だったら、連れて行ってやれたのに……義母さんはレーヴェが俺にベッタリ過ぎると言っていたが、それも仕方ないんだ。レーヴェにとって俺は唯一男で傍に居る同じ血を引いた家族をなんだ。離れたくない気持ちは分からなくはない……というか、俺だって少しは離れたくないという気持ちがある。


「いつになるかは分からないけど、連れて行ってやるからさ」


「本当ですか、約束ですよ……?」


 言葉は嬉しそうだが、声色は暗いままだった。レーヴェの前でいつまでもいじけてるわけにはいかない……体を無理矢理起こして隣に座ると、レーヴェは俺の肩に頭を預けてきた。


「いつ頃、帰ってくるんですか……?」


「さあ、正直分かんないよ」


 あの男に関する手掛かりが見つからなければ、直ぐにこっちに戻ってきて情報収集を再開するつもりだ。逆に少しでも手掛かりを掴んだのなら……かなり長い間、ヤパンに滞在する事になる。

 肩から頭がズレていき、レーヴェの頭が俺の膝に乗せられた。指で髪の毛を梳いてやると、少しリラックスしたようで膝にかかる重さが増える。


「お義兄ちゃん、今日は一緒に寝ませんか?」


「……駄目って言っても、窓から忍び込もうとするだろ。今日は特別だ……ふわぁ」


 今日は体力的にも精神的にも疲労が溜まってきて、もう眠くなってきたな……ヤパンに出かける準備は従者にお願いして、俺はもう寝よう。どれだけ速い馬車を借りても半日以上かかる筈、馬車はかなり揺れるし魔物は襲ってくるだろうしで移動中は休めないだろう。

 とうとう眠気に負けて、口から欠伸が出てくる。レーヴェは俺の顔が見えるように動き、柔らかく微笑んだ。


「ワタシ、寝る準備してきますね」


「ああ……しっかり歯を磨いてこいよ……」


 レーヴェは俺の膝を離れ、部屋の扉を出て行く。さて……さっきから、誰かが見ているね。窓を開け、バルコニーから外を見渡す。視線を感じる方向を見てみるが、視線の気配は逃げるどころか存在感を増していく。

 俺が気付いている事に、相手も気付いていておかしくない……というのに存在感が増していると言う事は、俺が舐められているのか。それとも、何か目的があって俺を誘い出そうとしているのか。どちらにせよ……このまま見られているわけにはいかない。


「………………逃げられたか」


 こっそりと魔力を球状に広げ正体を掴もうとしてみたが、広げ始めた瞬間に気配は消えてしまった。急いで最大探知範囲まで魔力を広げてみても、逃げているような気配は見つからない。

 魔力探知の展開速度には自信があったんだけど、完全に逃げられている。バレないように魔力を控え目に展開したのに気付かれた……一体何者なんだ。偵察だろうか……? 誰が、何の為に……?


「一応、窓に結界を貼っておこうかな」


 まずはバルコニーから屋敷全体に、強固さより大きさを優先した結界を貼っておく。部屋の中に戻って窓を閉め、まずは窓の外側に強固な結界を追加する。窓の内側には気付きにくいようにかなり薄い結界を貼っておいた。

 これなら俺に気付かれずに侵入する事は出来ない筈。バルコニーの結界は気付かずに通り抜けようとすれば大きな音がなる警報結界。窓の外側は解除が難しい複雑な防御結界、窓の内側には余程の使い手が警戒していない限り、気付く事が難しい警報結界をもう1つ……ここまでやれば、どれかの結界に引っかかる……


「と、思ったんだけどな……どうやってこの部屋に入ってきたのかな?」


「……言った所で、貴方は信じない」


 扉から入ってきた? いや、そんな事は有り得ない。どれだけ素早くても従者や義母さん、ピグマおじさんの誰かが気付く筈。特に、戦闘経験豊富なピグマおじさんや獣人の鋭い勘を持つ義母さんに気付かれずに屋敷を動くなんて不可能だ。

 迂闊に後ろを振り向けないな……気配で分かる。コイツは強い、この屋敷最強のピグマおじさんと同じ位だろうか? 女性の声だったな……でも、コイツの声は聞いた事無い。


「お義兄ちゃん……アレ? 入れませんよ!? 一緒に寝るって言ったじゃないですか!?」


 俺の部屋に鍵は無い……そして、扉の方に結界を貼った覚えは無い。という事は、コイツが貼ったって事だよね。俺に気付かれない内に……つまり、魔力の扱いが上手いハイレベルの魔法使いだ。だが、ここは幸い部屋の中、魔法使いはどちらかと言えば不利な場所になるだろうね。


「レーヴェ、着替え中なんだ! 少しだけ待ってて!」


「え、あ、はい……分かりました」


 さて、これでレーヴェが誰かを呼んでくる心配は無い筈。応援を呼んでコイツに逃げられるわけにはいかない……気絶させて、何が目的か吐かせてやる。


「っ!? ぐうぅっ!?」


 全身に白い光の魔力を纏わせた瞬間、後ろの気配から嫌な予感がした。右腕に魔力を集めて振り返りながらガードの姿勢を取ると、強烈な衝撃が右腕を駆け抜ける。コイツが持ってるこの剣って……刀ってやつだ! 確かヤパンの武器だよな……って言う事は、コイツはヤパンの人間って事か!

 右腕にかなりの身体強化を施したというのに、暫く痺れて右腕を動かせそうにない。それに、ピグマおじさんから教わった身体強化を使ってるのに、相手の動きが鈍ったように見えなかった。コイツ、身体強化をしている様子は無いのに、俺よりも身体能力が上という事か!?


「へえ、あの子に似てるようで……違う戦い方だね」


「……舐めてくれるね。直ぐに後悔させてやるよ……!」

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