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少年の居場所

 テーブルの料理を充分に支払える金を置き、席を立つ。情報はちゃんと貰ったし、俺が注文した物はもう殆ど残っていない……金も置いてやったんだし、さっさと屋敷に戻ってヤパンに出かける為の準備だ。

 ハインリヒ国王に他国に行く許可を貰って、馬車の手配もしなきゃだし……ヤパンなら馬車でも数日はかかる。野営の手段と魔物除けの結界を貼る準備、ある程度の食糧……色々と必要になってくるね。


「奢ってくれてありがとよ」


「こっちこそ情報をありがとう。また何かあったら教えてね……素直に教えてくれれば、奢ってあげるからさ」


 勿論、素直に教えてくれなかったら、痛い目を見る……で、済めば良いんだけど。本当に自分が抑えきれなくて、俺自身が手配書に載るような事態になる事はまだ避けたい。別に、手配書に載ったとしても捕まる事なんて無いだろうけどさ。あー、でも義母さんが犯罪者の義母って呼ばれるのは我慢できないかもなぁ。



 俺達が暮らす屋敷はかなり大きい。200人を超える従者に1つずつ私室が与えられているけど、まだまだ部屋が余っている。王族が暮らしているハインリヒ城を除けば、この国で最も大きい建物は此処なんじゃないかな?

 扉を開けて帰ってきた俺の元に、どこからともなくメイドがやって来る。着ていたコートを預けると、洗濯をする為に既に背中を向けていた。


「あ、ちょっと待ってくれ」


「どうか致しましたか?」


「義母さんとピグマおじさん、アンおばさんは何処に居るか分かる? 話したい事があるんだよね。寝ているんだったら明日話す事にするけどさ」


「皆様、まだ起きていられますよ。ピグマ様は私室で自由な時間を。アン様とレオさんはご一緒に湯浴みをされています」


 義母さん達は湯浴みか……女性の湯浴みは長いからね。本当は義母さんへ最初に報告したかったけれど、最初はピグマおじさんに報告しに行こうかな。ピグマおじさんは今の国王と結構仲が良いし、今話しておけば、明日にでもヤパンへの許可証が貰える筈。

 メイドに別れを告げ、階段を登る。ピグマおじさんの部屋は2階にある、使ってはいけないと言われている部屋の隣だ。使ってはいけない部屋は……駄目だ、イライラするから思い出したくない。ムカつく部屋の扉を通り過ぎた先に、部屋の扉がある。手の甲で3回、軽くノックして入室の許可を求める。


「起きている、入ってくると良い」


「失礼します、ピグマおじさん。こんばんわ」


「ユウキか、こんな時間に来るなんて珍しいな。何かあったのかい?」


 許可を貰って扉を開けると、髭を生やした金髪の素敵な壮年男性が俺を出迎えてくれた。おじさんが手で椅子に座るように促してくれたので、軽く一礼して椅子に腰掛ける。

 このダンディなおじさんはピグマ・ビゾンさんだ。この屋敷の主で義母さんの雇い主、領地を1つ持っていて、昔は男爵だったらしいが今では侯爵にまで成り上がっている。今、俺が所属しているギルドもピグマおじさんが紹介してくれた所だ。


「いきなり本題というのもつまらないか。ギルドでの調子は良さそうだな。賞金首の討伐や魔物退治の依頼をよくこなしているようだね」


「ありがとうございます。少しでも義母さんやピグマおじさんに恩返しをしたくて……お金を稼ぐのに手っ取り早い依頼を受けてしまうんですよ」


「嬉しい事を言ってくれるね。まあ、それだけでは無いのだろうが……そこは詮索しないでおこう」


「……そうしてくださると、助かります」


 やっぱり、ピグマおじさんには全て見透かされている気がする。小さい頃から俺の事をお世話してくれてる人だし、隠し事なんて無駄なのかもしれない。話してしまった方が良いだろうか……いや、でもあの男を殺したいなんて、ピグマおじさんは良く思わないだろう。


「まあ、君の目を見て分かる、止めても無駄だろう。せめて自分の義家族(かぞく)には気付かれないように気をつけるべきだね。君の義母はまだ彼を信じているし、義妹は彼と出会う事を望んでいる。決して否定はしないだろうが……悲しむ事は間違いない」


 そう言ってくれるピグマおじさんの表情も悲しそうだった。おじさんも口には出さないだけで、俺にこんな事をして欲しくないと考えていると思う。

 勿論、俺だってこういう事を望んでいるわけではない。最初の内は、ただ会って話がしたかっただけだ。それでも毎日帰って来ず、大切な義母さんを悲しませるあの男に憎悪以外のどんな感情を持てば良いって言うんだ。


「………………」


「すまないね。暗い雰囲気にするつもりは無かったのだが、日に日に険しい表情になっているのを見ていると、忠告をしておきたかったんだ」


「お気遣いありがとうございます」


「僕が君の気にかける事は当然の事だからね。さて、本題の方は何かな?」


「ああ、えっとですね……実は近日中にヤパンへ、その……か、観光にでも行こうと思いまして。国王に許可証をいただきたいのですが、ピグマおじさんから頼んでもらえないかな、と」


「ああ、そう言えば今日だったか。どこに仕舞っておいたかな? えーっと……確かこの辺りに、あったあった」


 ピグマおじさんは俺の質問の返事としては違和感のある言葉を口にして、机の引き出しを探し始める。そのまま何かを見つけると、席から立ち上がって1枚の紙を俺に渡してくれた。

 これは……ヤパンへの入国許可証!? どうしてピグマおじさんが既にこれを持っているんだ……? ヤパンへ行くと決めたのはついさっきで、誰にも行くつもりなんて話した覚えは無いのに。


「ど、どうしてこれを……?」


「未来が視える知り合いが居てね。少し前に君にヤパンへの許可証を用意しておくようにと手紙があったのだ。明日、ヤパン行きの馬車も手配してある」


 未来が視えるって……本当なのかな。いや、本当じゃなければ俺の思い付きの行動を読み取って、ピグマおじさんに完璧な用意をさせる事は出来ない。その知り合いに会えれば、俺がいつあの男に出会えるのか分かる筈……!


「その知り合いに手紙を用意しておく、ヤパンでは彼らを頼ると良い」


「ありがとうございます!」


 さて、次は義母さん達に話さないとだね。何とかあの男の気配を匂わせずに話さないと、義母さんはともかく義妹は付いてくると言いかねない。でもピグマおじさんには観光って言っちゃったから、観光って理由で義妹が付いてこないように……何とか誤魔化すしかない。

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