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1人の少年

 月明かりが静かに照らす森の中、静かに目を閉じる。瞑想ってわけじゃなくて、周囲の気配を探り、今日のターゲットを探っているんだ。

 俺の義母さんは森と一体化して、森全体の気配を探れるらしい。俺も原理を教えてもらったのだけど……どれだけ集中しても言葉を聞き取れない部分があって魔法が発動出来なかった。


「……見つけた」


 俺が魔力無しで探れる範囲は、大体半径50メートル程。その範囲に何かが入ってきた。義理のおばさんのような人に教わった闇魔法で、姿や気配を隠して動き始める。足音を立てないように気を付けつつ、範囲に足を踏み込んだ存在に接近していく。

 俺が行っているのは、ギルドの依頼だ。今日の依頼は賞金首の討伐、生死は問わないという事なので容赦なく殺そうと思う。だって殺した方がギルドに持って行くのが楽だからね、首だけの方が持ちやすくて軽い。


「……ん、姿が見えてきたね」


 森の中を歩く事数分、ターゲットの賞金首の姿が見えてきた。大柄で一見太っているように見えるが、アレは多分筋肉だろう。獣の皮を加工した簡易的な衣装とはいえ油断は出来ない。そして悪人面に無精髭で傷だらけの顔……良し、手配書の通りだな。

 職業は一応、山賊……犯罪歴は主に強盗にギルドを通さない殺人、ハインリヒから遠い村の娘への強姦罪。どうしようもないクズだな。名前は……どうせこれから殺すんだ、確認する必要無いよね。


「……オイ、誰か居るんだろ? 気配が駄々洩れだぜ?」


 俺が気配遮断の魔法を解いた瞬間、山賊がそんな事を言い出した。馬鹿な奴だ……気配が漏れているんじゃなくて、わざわざ隠す事を辞めてやったというのに。

 背中に魔法陣を展開し、白い魔力を全身に纏わせる。周囲を見回す山賊の動きや風で揺れる木々の動きがスローモーションになっていく。義理のおじさんのような人に教わった、自分の動きを光速へと近付ける魔法……おじさんのように光速までは辿り着けないけど、その辺の雑魚なら止まったように見える程の速さにはなれる。


「それじゃ、死ね!」


 右人差し指の魔力を鋭く尖らせ山賊の男へと飛び掛かる。首目掛けて素早く振るうと、山賊の首に細い線が走った。速度の身体強化を解除すると、山賊の首が高く跳ね上がる。厭らしい笑みを固定して、頭は地面を転がっていく。体は噴水のように血を吹き出しながら、ゆっくりと膝を着いて倒れて行った。

 このまま死体を放置して獣に喰らわせるのも良いんだろうけど、魔王軍の魔物に見つかってゾンビにされるとガタイが良くて面倒だろうしな……適当に焼いておくか。


「手間かけさせやがって……」


 魔力を火属性に切り替えて指を鳴らすと、山賊の体が炎に包まれる。燃え盛る死体を放っておき、跳んでいった頭の髪を雑に掴む。無属性の魔力で紫色の門を作り出し、その中へ山賊の首を放り込んだ。

 死体も燃えて脆くなれば、ゾンビとして復活されても石ころを投げつけてやれば無力化出来る。死体の処理は終ったし、賞金首も文字通りの状態にしてやった。面倒な魔物と遭遇する前にギルドに戻るとするか。



 ギルドという場所は朝から晩まで、静かになる事は無い。今日も例外ではなく、多くのテーブルで酒と食事を楽しみ騒いでいる。奥にある受付カウンターまでスタスタと歩いていき、目の前で黙って紫の門を開く。俺の収納魔法の中に余計な物は入っていないので、目当ての首は直ぐに見つかった。


「賞金首を獲ってきました。これでBランクの依頼とは思えませんでしたけど……?」


 受付の前に討伐の証の首を雑に置き、ポケットに入れていた手配書を横に差し出しておく。突然出された首に驚く事なく、受付は手配書と首を見比べ始める。

 こういった賞金首を殺した場合は、夜に報告をするのが暗黙の了解だ。昼の酒も飲めない受付嬢に、死体を見せるのは流石に酷だからさ。


「ええ、確かに手配書と同じ顔ね。少し待ってて、報酬金を持ってくるわ」


「お願いします」


 受付が奥の部屋に報酬金を取りに行く間、横のボードに貼られた依頼書を確認する。仕事を受ける前と依頼や賞金首の顔触れに変化は無い。その中の適当な賞金首の1つを剥がし、受付カウンターに戻る。手配書を机の上に置き、カウンターに腰掛けて受付を待っていた。

 何か地元から離れられる依頼でもあればと思ったが、流石に半日程度じゃそんなに依頼は増えないか。暫くは賞金首を狩りながら金を貯める生活が続きそうかな……


「おい、聞いたか?」


「聞いたって……何をだよ?」


「ヤパンに怪しい男が現れるって話だよ」


「怪しい男? 普通に賞金首とかいうオチじゃねえのかよ?」


「そうじゃねえ……それがよ。噂によるとその男は黒髪黒目で全ての属性を扱えるらしいぜ」


「全属性を!? それって15年前に姿を消したって言う……っ!?」


 それは……俺が探しているあの男かもしれない。そう思うと、殺意が抑えきれなかった。気が付けば俺は話をしていた男の肩に手を置き、力を込めてしまう。


「お、お前はユウキ……!?」


「おい、その話を詳しく聞かせろ!」

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