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インプランタの魔女  作者: 透坂雨音
第三部

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第21話 クゥとアイヒ



 クゥの馬車を見送った後。

 フェネリーはとぼとぼとした足取りで歩き、ゆっくりと図書館に戻るしかなかった。


 ショックを受けている事は事実だったが、腑に落ちない事があった。

 家に帰らずに、再び学校に戻ったのは、その事についてリコットに話を聞く為に。


 友だち云々はともかく、急な移動の事情については結局何も判明しなかったので、クゥがいなくなることを知っていたリコットなら何か情報を得ていると思ったのだ。


 いつもの図書室にフェネリーが戻ると、そこでずっと待っていたらしいリコットが、事情について知って話をする事になった


 それは、クゥと言う魔女と……。

 魔女になる前の一人の少女、アイヒという人間の少女についての話だ。





 昔、戦争が当たり前に起きていた時代。

 あちこちで大規模な聖霊魔法が行使されていた時代の事。


 アイヒと呼ばれるごくごく普通の人間の少女がいた。

 その少女は、詳しくは分からないが、どこからか偶然にも戦乱の地に迷い込んでしまった子供だという。もしくはその戦場にいた兵士の娘か何かだったのかもしれないが。


 アイヒは戦う力など何も持たないただの子供だった。

 そんな彼女が魔女になってしまったのは、ただの偶然。


 戦争に関わっていた死にかけた一人の魔女が、争いの場に迷い込んだ少女を不憫に思い、その子供が行き抜く為にと力をすべて明け渡したのが原因だという。


 それで、その日からアイヒは魔女になった。


 クゥ・エルと新しく名乗った少女は、その力で戦乱の中をどうにか生き抜く事に成功するのだが、戦争が終わってもその少女が平穏に生きられる事はなかった。


 なぜなら、クゥ・エルが力を渡された魔女は特別な魔女だったからだ。


 リバース・インプランタ。彼女は、世界の西側から徐々に土地がやせて枯れていく謎の現象「土地枯れ」それに対抗できる唯一の魔女。緑を生み出す事の出来る魔女だったからだ。


 その魔女の後継者であるクゥは、今なお枯れ果て続ける世界を何とかするために、いくつもの国や研究者いくつものに協力する事になったという。それが、フェネリー達の知る魔女、クゥ・エル・インプランタだった。






 そこまで聞いたフェネリーは首を傾げてリコットに尋ねる。


「魔女って、戦争を起こした張本人だって聞いたんですけど。インプランタさんがその魔女なんですか?」

「そう。でも、それは真っ赤な嘘。戦争した二つの国が後腐れなく和解する為に全ての責任をそいつに押し付けたらしい。クゥの言葉を信じるなら、だけど」

「そんな……」


 言われようのない事で責められる事になっただろう魔女に、フェネリーは少しだけ自信の境遇と重ねた

 そんな魔女を知っていたから、クゥはフェネリーに力を貸してくれたのかもしれない、とフェネリーは考えた。


「でも、そんなすごいクゥ様がどうしてこんな学校にいたんですか?」

「監獄での研究が嫌で、脱走してきたからだ」

「脱走!」


 そんな不真面目な、とフェネリーは呆れる。

 それはクゥらしい理由であり、フェネリーの知る我が儘で傍若無人な女王様気質の友達の、いかにもやりそうな行動だったからだ。


 だが、そんな想像を理解したうえで、リコットはフェネリーの別の考えを否定する様に首を振る。

 クゥが不真面目だから脱走した、という事柄について……。


「嫌になるのも無理はない。普通の人間なら持たないんだ。行われた研究は苦痛を伴う物だったから。場合によっては死ぬかもしれないくらいのやつ。人体実験って言えばお前でも分かるだろ」

「じんたい、実験……」

「進めていた研究が、ある時を境に行き詰ったから……。クゥがちっとも緑を生やす事が出来ない事に焦れた連中が、行動をエスカレートさせていった」

「そんな……」

「自分の思い通りにいかない時ほど、人間は非情になりやすい」


 それは、フェネリーも分かる事だった。

 言われて、フェリーは数日前にイジメっ子達に詰め寄られた時の事を思い出す。

 その時の事を脳裏に再生して、確かにと頷いた。


 あの時のフレディ達の様子は、普段よりも若干冷静さを欠いていて、態度が大きかったからだ。

 

 そんな事情があった為に、クゥはその場所から逃げて、この王立学校の図書室に引きこもっていたらしい。


「手配書の人間が、この学校にいるのを見つけた時はさすがに驚いたな」

「リコット先生クゥ様の事探してたんだ。じゃあ先生が、クゥ様の居場所を教えたんですか?」

「馬鹿だろ。俺が教えたんだったら、もっと早く連れてかれてる」

「あ、そっか」


 それはリコットの言う通りの事だった。

 もう、何カ月も学校で一緒にいたのだから。

 その間何もなかったのだから、必然的に犯人はリコットではないと言う事になる。


 なら、誰が……と思うが、リコットは何もいわないので、心当たりが無いのだろうとフェネリーは判断した。


「そいつが分かったとしても、何も事情の知らない人間からすればそれは悪い事でもなんでもないしな」

「え?」

「何でもない」


 とにかく、とフェネリーは考えを整理する。


 友達がひどい目に遭っていると言うのなら、フェネリーがやらなければならない事は一つだ。


「クゥ様、助けに行かなくちゃ。人体実験なんて駄目だよ」

「お前、自分が何言ってるのか、分かってんの? クゥもそれが不可能な事だって分かってるから、追いかけに行ったお前を拒絶したんだろ」

「見てたんですか!?」

「顔見れば分かる」

「うっ……」


 想像よりずっと分かりやすかかった態度の事と、救出は無理だと言われたその二重の意味で、フェネリーは言葉を失くしてしまう。


 よく考えてみれば見るほど、遠くにある監獄からクゥを助け出すなどと言う事は、不可能に近い事にフェネリーには感じられた。


(ついこの間まで落ちこぼれだったボクに何ができるんだろう)


 相手はとてつもない組織の人間達で、クゥがいるのは恐ろしい監獄。


 フェネリーに出来る事などは、どう考えてもない。


 それにフェネリーは、クゥに友達などではないと言われてしまっているのだ。

 土産も突き返されている。


 クゥは、あえて嘘をついた可能性もある。

 だが小さな魔女は、フェネリーが助けに来る事など望んでない……そういう可能性もあったのだ。


「今まで通り生活してろ、それが一番だろ……」


 かけられた言葉は、現状でフェネリーが一番達成できる無難なもの。

 それが一番だろうとフェネリー自信も理解していた。


 けれど、何故だか彼女はリコットの言葉に素直に頷けないでいた。




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