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エピローグ

 時は流れ、2010年前後になります。

 私は回想を止めて、思わず空を仰ぎ見た。

 何だか、空からアラナ姉さんが私達をじっと見ているような気がしたからだ。

 考えてみれば、この感覚は私が操縦桿を握ってから、折に触れて感じるようになった気がする。


「どうかしたの」

 姪のマリーが私に声を掛けた。

「何だか、アラナ姉さんが空から見ているような気がしたの。私に色々と言いたいことがあるのに、言えない顔をしていたような気もする」

 私は、そう答えた。


「お母さんらしいわね。考えてみれば、半分しか血がつながっていないのに、一番、お母さんに似ているのは他の弟妹や私達子どもを差し置いて叔母さんだもの。叔母さんは今でも操縦士の資格を持っているの」

「持っているわ」

 私とマリーは会話した。


 海軍士官になった私は、紆余曲折の末、操縦士の資格を取り、主に飛行艇の操縦桿を握った。

 任官当初に操縦した二式大艇、主に操縦したUS-1,退役直前に操縦したUS-2,全て日本製の飛行艇だった。

 私の祖国フランスの航空機製造会社は、第二次世界大戦後、飛行艇を製造しなくなっていたからだ。

 その代り、日本製の飛行艇を主に救難用として、フランス海軍はずっと採用している。


「そうそう、アラナお母さんが、麻薬に手を出せなかった理由として、面白い情報が入ったの」

 今ではフリーライターとして暮らしているマリーが、意味深な口ぶりで言った。

「どんな情報?」

 私は、叔母としてそれに付き合うことにした。


「カサンドラお祖母さんが、ユニオンコルスの首領の中の首領と謳われた男の隠し子だった、というのよ。私の取材過程の中で、ユニオンコルスの引退した大幹部が、小耳に挟んだ話で真偽は分からないが、あんたは本当なら、あの首領の曾孫になるから、どうにも黙っておけない、と言って話してくれたの。アラナに誰一人麻薬を売らなかったのは、そのためだ。当時、生きていたあの首領の耳に、アラナに麻薬を売ったという情報が入ったら、孫娘を麻薬中毒にしたとして、その売人とその所属組織全員が消されたからな、と言っていた。叔母さんは、そんな話を聞いていない」

「初耳ね。そもそも、カサンドラ母さんにそんな気配を感じたことはないわ」

 マリーと私は会話した。


「やっぱり、嘘なのかな」

 マリーが、そう呟くのを聞きながら、私は想いを巡らせた。


 確かにそれが本当なら、色々とつじつまが合うのも事実だ。

 何故に、アラナ姉さんが、麻薬に手を出さなかった、いや、出せなかったのか、の説明がつく。

(実際には、カサンドラ母さんのせいではなく、ジャンヌお祖母さんのせいだった、と後に私には分かるのだが、事情が事情だけにマリーには明かせずじまいになった。)


「それじゃ、そろそろ行かせてもらうわね。取材の関係で、列車に乗り遅れる訳には行かないの」

 マリーは、まだ色々と私に言いたいことがあるようだったが、この場から去ろうとしだした。

「いつでも、家にいらっしゃい。今は一人暮らしだから寂しくて。一人暮らしの家が、あんなに寂しいとは思わなかったわ」

 私は、去ろうとするマリーに声を掛けた。


 夫には先立たれ、一人息子はフランス陸軍士官に任官し、自宅から出て行ってしまった。

 カサンドラ母さんの遺産で建てた我が家は、一人暮らしには無駄に広いだけの家になってしまっている。


「取材の合間に寄らせてもらうわ。叔母さんはどうするの」

 マリーは、そう言って駅に向かって歩き出した。

「もう少し、アラナ姉さんと会話してから帰るわ」

 私は、そう言ってアラナ姉さんの墓とあらためて向かい合った。


 アラナ姉さん。

 もう少し早く、姉さんの想いに私が気づければ、よかったのかな。

 ごめんね、姉さん。

 私は、涙が溢れ出て止まらなかった。

 これで完結します。


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