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第6話

 そして、アラナ姉さんが、断酒治療を受けている間に、私はマリーとルイの後見人に無事に就任した。

 これで、マリーとルイは、私の下に無事に引き取られることになり、この後、私がずっと育てることにもなったのだが、やはり異論が噴出した。


 ピエール兄さんは、アラナ姉さんの入院を受けて、派遣先から急きょ帰国し、今回の経緯の説明を受け、絶句するとともに、自分がマリーとルイの面倒を見ると強く主張した。

 そして、アラナから親権者の地位を奪わないでくれ、とピエール兄さんは強く言った。

 また、私がマリーとルイの後見人になったことで、アラナ姉さんは、自分が母親失格の烙印を周囲から押されたとして、怒り狂った。


 アラナ姉さんの治療だけの観点から後から言えば、私がマリーとルイの後見人になったのは良くなかった、と言えると私にも思える。

 実際、最初の断酒治療のために入院した直後の数年、断酒を誓っては退院し、すぐに飲酒をはじめて、入院するという繰り返しに、アラナ姉さんがなってしまったのは、子どもたちを私に奪われたというアラナ姉さんの心の痛みが大きかったからだ。


 とは言え、ピエール兄さんが子どもたちを引き取ると、必然的にアラナ姉さんが退院次第、子どもたちと同居することになる。

 そして、アルコール依存症治療中のアラナ姉さんが、まともに子どもたちの面倒を見れるかというと。

 子ども達の福祉の観点からすれば、心を鬼にして、アラナ姉さんと子ども達を引き離すのが最善で、それを最優先に考えると、私が後見人に就任し、マリーとルイを引き取るのが最善と言えた。


 かくして、私は20代前半の身空で、二人の子どものシングルマザー的立場になってしまった。

 更に複雑なことがあった。

 私は海軍士官であり、ピエール兄さんは陸軍士官だった。

 そのため、上もかなり配慮はしてくれたが、陸軍と海軍の基地は別である以上、ピエール兄さんは子ども達と離れて、日常は暮らすしかなかったのだ。


 そして、アラナ姉さんのアルコール依存症克服の長い戦いは続くことになった。

 この戦いの間に、お父さんはアラナ姉さんの了解を得て、アラナ姉さんを娘だと正式に認知したことで、私とアラナ姉さんは公式に異母姉妹になった。

(そのために、例の偏見から、私は結婚するまでに大変、苦労する羽目にもなった。

 最初の恋人には捨てられ、二番目の恋人は周囲から猛反対され、という感じで、同じ海軍士官の夫と結婚するまでに私は大変苦労した。)


 マリーとルイの後見人に、私がなっているという事を、アラナ姉さんが心から納得したのは、それこそルイが成人する直前で、マリーは成人した後のことだった。

 それまでに上記のような入退院の繰り返しを、アラナ姉さんはしたことから、その頃には、アラナ姉さんの肝臓は肝硬変にまで至ってしまっていた。

 もうこうなっては取り返しがつかない。


 ピエール兄さんは、そんなアラナ姉さんを献身的に支え続けた。

 私からすれば、共依存関係になっていて、却ってアラナ姉さんの治療には良くないのでは、と思う程に。

 将来を嘱望されていたピエール兄さんが、大佐止まりで退官したのは、アラナ姉さんの治療介護のためだった。

 また、父さんやカサンドラ母さんも、できる限りの支援をアラナ姉さんには惜しまなかった。

 アラナ姉さんも、アルコール依存症から抜けたい、と(最初の数年はともかくとして)頑張った。

 だが。


 アラナ姉さんは、50代半ばの身空で、肝硬変からくる肝不全で亡くなった。

 最後は、私や子ども達と和解し、(亡くなっていた両親は別として)夫や弟妹、子ども達皆に看取られて亡くなれたのは幸せだったと思う。

 でも、私には若死にしたという想いが拭えない。 

 これで本編は終わります。


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