第4話
ちょっと待て。
この時間なら、ルイは幼稚園にいる筈ではないか。
「何で、ルイがここにいるの?」
「マリーに幼稚園に連れて行くように言って置いたのだけど」
私の問いかけに、アラナ姉さんは弁解した。
確かにマリーは、年の割にはしっかりしているかもしれないが、まだ10歳にもならない。
そんな娘に、息子の世話を押し付けるなんて。
そして、汚れた服をルイは着ている。
息子を着替えさせてもいないのか?
私は衝動的に叫んだ。
「どう考えても、母親失格の行動よ。妹として恥ずかしいし、マリーとルイを苦しめているわ」
「何よ。あなたを想って、お父さんに認知を求めていないのに。私だって、お父さんにきちんと認知してほしいのに。妹なんて言わないで」
アルコール依存症による感情失禁なのだろうか?
その言葉を聞いたアラナ姉さんは、いきなり泣き出しながら喚いた。
私は凍り付いてしまった。
「お父さんに認知してもらったら、あなたが血のつながった妹だと公になる。そうなったら、世間から色眼鏡であなたが見られる、とあなたのことを想っていたから、お父さんに認知を求めていなかったのよ。それなのに、そんなに言われるなんて」
アラナ姉さんは泣き喚いた。
そうだったのか、だから、アラナ姉さんは、お父さんに認知を求めていなかったのか。
私だって分かっている。
戦場で戦ったことのある女性やその周囲、特に姉妹がどんな色眼鏡で見られてしまうか。
でも、私は分かった上で、アラナ姉さんにお父さんに認知を求めてほしい、と思っていた。
でも、その私の想いは、アラナ姉さんに届いていなかった。
この点については、私も悪かった。
アラナ姉さんに、私が色眼鏡で見られてもいい、だから、お父さんに認知を求めて、と一言、声を掛けるべきだった。
でも、こういうことは早めに言うべきだったが、お父さんとカサンドラ母さんの結婚の際の経緯等から、私は言いそびれてしまい、ずるずると言わずじまいになり、アラナ姉さんは、今更、私から言わなくても分かってくれている、と自分で自分に言い訳していた。
「ごめんなさい。姉さん」
そう言って、私は泣き喚くアラナ姉さんを抱きしめ、アラナ姉さんが泣き疲れて私に寄り掛かった後、実家に電話して、アラナ姉さん達の家にお父さんとカサンドラ母さんがすぐに来るように、と連絡した。
お父さんとカサンドラ母さんは、アラナ姉さん達の家に来て、すぐにその惨状を見て絶句した。
「どうすべきかな」
お父さんは、暫く考え込んだ後、私達に問いかけた。
とは言え、それはあくまでも私達の意思確認だ、と私にはその口ぶりから分かった。
お父さんは、もうある程度、どうするかを決めている。
カサンドラ母さんは、戸惑いの余り、どうすべきか分からないようだった。
「精神病院に入院させましょう。マリーとルイは、私が引き取る方向で考えましょう」
私は敢えて事務的な口調で言った。
「いいのか?」
「ピエール兄さんが、すぐに帰って来られない以上、仕方ないでしょう」
お父さんと私は会話した。
マリーとルイは、お父さん達が引き取るべきかもしれなかった。
でも、アラナ姉さんが退院した際、すぐにマリーとルイを引き取れるか、というと不安がある。
そして、マリーとルイが、アラナ姉さんの近くにいると、すぐに引き取りたい、とアラナ姉さんがお父さん達に言うのが目に見えている。
だから、マリーとルイは、思い切ってお父さん達の傍から平生は離すべきだ、と私は考えた。
それに、私は、マリーとルイにしてみれば、父方からも母方からも叔母なのだ。
叔母として、甥姪の面倒を見るべきだ、と私は考えた。
「そうだな、そうすべきだろうな」
お父さんはそう言って、行動を開始した。
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