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プロローグ

 本編と異なり、プロローグの舞台は2010年前後です。

 私は、アラナ姉さんの命日に、必ずアラナ姉さんのお墓を訪れることにしている。

 一時は幸せな日々を送れていたのに、アラナ姉さんはPTSDを発症してしまった。

 そして、アルコール依存症になり、治療には大変な手間と費用が掛かった。

 そのために姪のマリーや甥のルイが、私を母代わりとして慕うようになる程に。

 マリーが、軍人にならなかったのは、アラナ姉さんのようにはなりたくない、と思ったからだった。


 アラナ姉さんが弱かっただけだ、と切り捨てられれば、どれだけ楽だろう。

 だが、私やマリー、ルイ(既に亡くなったが、ピエール兄さんやお父さん、カサンドラ母さん)たちは、アラナ姉さんを、そう簡単には切り捨てられない。

 アラナ姉さんに起きた事態は、今でもフランス中で、いや世界中で起こっている事態だ。

 そう思うと、私は本当に沈んだ気分になる。


「アラナ姉さん、もう、自分を責めないで。あの時は軍人であり、仕方なかった、と想おう」

 酒、それもジンやウオッカに溺れて荒んでいたアラナ姉さんの姿は、今でも私の脳裏に鮮明に蘇る。

 あの時、私はアラナ姉さんから酒瓶を奪い取り、抱きしめてそう叫んだ。

「マリーやルイを、これ以上、苦しめないで」

 私は続けてそう叫んだ。


 本当はいけないことだったらしいが、あの時は、両親に介入してもらい、無理矢理、アラナ姉さんを精神病院に強制入院させ、酒を強引に断たせた。

 それで、何とかアルコールを抜けさせたが、アルコールへの精神依存がかなり既に進んでいたアラナ姉さんは、私や両親、更に夫のピエール兄さんからすれば、目の離せない存在になっていた。


 不幸中の幸いだったのは、当時の私は全く知らなかったが、ジャンヌお祖母さんのおかげで、アラナ姉さんが薬物(具体的には、ヘロイン等の麻薬)に手が出せなかったことだろうか。

(もっとも、ジャンヌお祖母さんが、直接、意図的にそうした訳ではない。

 ジャンヌお祖母さんがかつて培っていた裏の世界のコネが、隠されて脈々と生きており、アラナ姉さんを保護してくれたのだ。)


 かつて空軍のパイロットとして、戦闘爆撃機の操縦桿を握って戦場の空を翔けていたアラナ姉さんが、あそこまで荒むとは、私とアラナ姉さんが姉妹の名乗りを交わした時には、想像もつかなかった。

 そんなふうにアラナ姉さんの墓の前で私が回想していると、後ろから声を掛けられた。


「サラ叔母さん、先にここまで来ていたんだ」

「マリー」

 私に声を掛けてきたのは、姪のマリーだった。


「何を考えていたの。物思いに沈んでいたように、後ろ姿からは見えていたけど」

「いつものこと。何で姉さんは壊れてしまったのだろうって」

「そうね。断酒して、そのための互助組織にも入って、相談を持ち掛けられたら、相談に乗って。懸命に頑張ってはいたけど。最期の頃には、カサンドラお祖母さんと、どちらが年上か分からない程、お母さんは衰えた有様だったわ」

 マリーの口調には、少し冷たさが入っていた。


 それはそうだろう、マリーが老成したのは、アラナ姉さんがアルコール依存症になったためだ。

 弟のルイとは3歳ほどしか違わないのに、一時は、母のように弟の面倒を見る羽目になったのだ。

 勿論、親身になって自分達の世話をしてくれる使用人はいたし、私や祖父母、更に父も折に触れて自分達に気を配ってくれた。

 だが、実の母が、酒に溺れて、自分を放り出していた、というのは忘れようにも忘れられないのだろう。


「そうね」

 私は、一応は姪に味方した。

「でもね。今でも思うの。どうして、アラナ姉さんは、あそこまで荒んでしまったのかなって。そして早く救えなかったのか、と後悔するの」

「確かにそうね」

 私とマリーは物思いに耽った。

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