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悪役令嬢と隠しキャラ令息の共謀  作者: たんとらったった
魔術大会・魔力盗難事件
17/25

帰還と転移、それから威圧

伏線回収が下手過ぎる


途中アルファベットが出てきますが、この国で言う適当な記号的なものと解釈してください。というか、ただのおふざけなので気にしないでください。

 

「……で?何をしていると言うんです」


 肝心なときにいない間の悪い男は、これまた間の悪いことにたった今こちらに戻ったようだ。よりによって今。ここに現れるなんて。


「うるさいわね。今見つかるとまずいのよ。少し黙りなさい」


 学園裏の小さな茂みの隅で屈んでいる私を見下ろすロードラーザ様を睨みあげる。

 彼は無言で片眉をあげると、ぱちん、と人差し指を親指で弾いた。同じくぱちんと泡の割れたような感覚があったため、姿隠しの魔法でもかけられたのだろう。便利な男だ。


 私は無言の催促に負けて、渋々この男のいない間に起こった出来事とその顛末を教えた。



「なるほど。つまり、貴女自身が広めた(・・・・・・・・)噂によりシルカ嬢の評価が上がった結果、自分の味方がいなくなり窮地に陥っていると」


 これ以上ないくらい嫌味な言い方だ。しかし、今のこの男の様子を見る限り、事の経緯をさっさと話してしまった方が賢明だろう。私は少し息を吐いて気を落ち着かせる。


「……しかも悪いことに、未だにシルカへの不満が抜けきらない方々が私を筆頭に仕立てようと追ってくるのよ」


「なるほどなるほど。つまり貴女の流した噂を利用してシルカ嬢に反感を抱く集団を解散しようとしたのにも関わらず、反対にその集団をまとめる立場になりかけている、と」


 本当に心の底から苛つく言い回しだ。その髪を燃やしてやりたい。


「それで?それからどうしたんです?」


「……あの後は、キューズロンダ様が駆けつけてその場を収めてくださったわ。誤解を解く余裕はなかったけれど」


「……なるほど。しかし……妙ですね」


 やっと茶化すことをやめてまともな感想を言った目の前の男に視線を向ける。


「シルカの様子ね」


「ええ、それにトトの様子も。聞いた限りでは、初めはいつも通りの彼でしたが……彼は、何の確証もなく人を疑ったり、悪者にする性質ではありません」


 難しい顔で眉をひそめるロードラーザ様。やはり、彼とはそれなりに親しいようだ。


「……シルカ嬢の尋常でない様子は、今も続いているのですか?」

「いえ、チェナの話だと、あのご友人……セマ様に付き添われているうちに落ち着いたそうよ。それに……その時の記憶もないみたい」

「……そうですか」


 ロードラーザ様が息を吐く。やはり心配だったのだろう。私の話を聞いている最中も何度か無意識に魔法で転移しかけていたし。


「それはともかく。貴方、学園をほっぽりだしてどこかへ行っていたんだから、きちんと成果はあったんでしょうね?」


「まぁ、そうですね。欲しいものは手に入りましたし、悪くはないと思いますよ」


「それで、今度はどうするの?というか、何をする気なの?」


「ああ」


 ロードラーザ様はそこで初めて私たちに何の説明もしていないことに気づいたらしかった。

 ぽん、と手を打つ仕草が絶妙に腹立たしい。


「そうですね……ふむ、丁度姿は不可視にしてありますし、とりあえず行きますか」


「は?」


「あまり身体に力を込めないでくださいね。うっかり取り残されたら困りますので」


 そう言うと、ロードラーザ様はすいと空に指を滑らせた。

 まさか。


 私が何かを言う前に、我が道を往く男は先程から使いかけていた魔法をついに使ったのだった。


―――


「説明!!」


 私が目を釣り上げるのなど何処吹く風と、私と自身をどこかへ転移させた男はふらりと歩き出す。


「静かにしてください。声は聞こえるんですから」


 すたすた歩く奴について行くと、どうやらここは学園の一角らしいことがわかった。

 化学室の近くだろうか。よくサゼーナが入り浸っているところだ。サゼーナは2日目の魔術知発表大会で研究発表をするらしく、彼女と会う確率と反比例してキューズロンダ様に出くわす確率が増えている。暇なんだろうか。

 彼女は忙しそうにしていたし、今もこの辺りにいるかもしれない。


 そんなことを考えていると、前を行く男の靴が止まった。

 目配せに頷き、止まった先にある扉に耳を寄せる。


「……だよ!ふざけんな!お前はそんな奴じゃないだろう!」


 男子生徒の荒らげた声が聞こえる。

 私はその声に聞き覚えがあった。

 はっとしてロードラーザ様を見ると、軽く頷かれる。


 ……彼は、先日魔力盗難の被害に遭った生徒だ。最も被害が大きく、また、犯人について何か知っている様子だった。


 と、すると。今彼が話している相手は……。


「……うるさいな。放っておけよ」


 背はそこまで高くない。どこか幼さの残る顔立ちに、意志の強そうな赤い瞳が特徴的だ。そしてその身に常に纏うのは、真っ青なマント。カーラの言っていた「青い布」は間違いなくこれだろう。

 ―――ジャン・カース。本名、マッシ・シャルルジャン。


 この、魔力盗難事件の犯人だ。


 その本名の通り、彼は隣の小国随一の商家、シャルルジャンの長男である。その商品は技術大国である隣国の中でも特に優れていると世界中で評判で、つい先日もキューズロンダ様がサゼーナへの贈り物ににかの社のフラスコを差し出していた。


 話には聞いていたが、実際にその顔を直接見るのは初めてだ。


 その顔をまじまじと見る。

 彼は、おそらく「魔法」に憎しみを抱いている。

 それが、キューズロンダ様の調査とロードラーザ様の知識を頼りに導き出した予想だ。

 マッシは幼い頃に、家を襲われ、母を殺された。その犯人が、魔法使いだったと言う。


 確かに、その瞳には怨嗟のような暗い炎がゆらめいている気がした。その妙な暗い光さえなければ、真面目で誠実そうな雰囲気の顔立ちなのに、と少し思う。


 それにしても、何故ロードラーザ様はこんなところへ私を転移させたのか。まさか何の前準備もなく今彼を捕まえるわけでもないだろう。……ないわよね。

 予測不可能な横の男を見上げるが、彼はただ無言で二人の様子を眺めている。



「なんで、なんで俺を……生徒を襲ったりしたんだ。他の生徒もお前なんだろう!?」


「……」


 黙っているマッシ……今はジャンの胸ぐらを、彼が掴む。


「おい……答えろよジャン!なんで何も言わない!?お前は心が痛まないのかよ!俺は……俺はお前の、友人じゃなかったのかよ……!」


 悲痛な声を無感動に聞き、ジャンは瞬きをした。


「……離せ、イビール」


 イビールと呼ばれた彼は、はっと息をのみ込んだ。


「…………俺は、魔法使いを友人だと思ったことなんて、一度もない」


「……な……、じ、ジャ……」


「それとも、また魔力を搾り取られたいのか?……次にやれば、お前……どうなるんだろうな」


 ジャンは皮肉げに肩頬をあげる。


 気圧され、言葉を失ったイビールをその場に残し、ジャンは扉へ向かう。


 がらりと扉を開け、俯きがちにその教室から出てきたジャンにぶつからないよう、私たちは避けた。


「…………っ、ざけんなよ……」


 イビールの悔しそうな声が、その場に落ちた。


 やがて、しばらくその場に佇んでいたイビールがその場を去ると、私は壁に寄りかかっている男に目をやった。



「……貴方が『手に入れたもの』を使うのに、精神を揺さぶることって必要?」


「そうですね。ほどほどに感情的で、ほどほどに動揺している時が最も『使いやすい』ですかね」


「なるほどねぇ」



 私はそっと唇を緩めた。

 ジャンが帰り際に見せた刹那の表情を思い返しながら。


―――



 ―――『後悔』しているんだろう。


 違う。


 ―――お前はあまりに無知だった。


 知る必要なんかない。


 ―――友人を傷つけた。


 友人なんていない。


 ―――よく考えろ。彼がお前に何をした?


 うるさい。うるさい。


 ―――彼女はお前に何をしたっていうんだ?


 知らない。俺は家のためにやってるんだ。魔法を使う奴なんて要らないだろう。家のためなんだ。国のためなんだ。こんな国が隣にあるから父さんは……!


 呑み込まれる。

 駄目だ。まだ駄目だ。まだ終わっていない。まだ足りない。こんな学園、こんな国、滅んで仕舞えばいい。


 ―――ジャン



 違う!黙れ!俺はジャンじゃない!



 ガキンと硬質な音が響いた。

 どこかで、何かが壊れた音がした。


―――



「カルバーナ様。私、感動致しましたわ」


「……」


「あの被害者面した雌犬を、ぎゃふんと言わせましたあの瞬間!私、本当に胸がすっと致しましたの」


「……」


 ついに捕まってしまった。


 目の前の彼女は……名前はなんと言っただろうか。仮にA様と致しましょう。A様は後ろにB C D……と引き連れて、私を壁際に追い詰めた。厨房の鼠になった気分だ。


 彼女たちはサゼーナが率いていたような有力貴族ではなく、あまり力のない下級貴族のようだ。操られている彼らの婚約者ですらない無関係の彼女たちの、どこにそれほど情熱を注ぐ要素があるのだろう。

 ターナス様以外わりとどうでもいい私には理解しがたい感情だ。


 彼女たちはそこまで地位が高くないためか、自分たちの行動を許容してくれる後ろ盾が欲しいらしい。確かに私ならば十二分にそれがあるし、彼女たちがどんなにシルカを酷く扱おうと、私のひと睨みがあれば咎められることもない。


 面倒くさい。

 ものすごくロードラーザ様の気持ちがわかる瞬間である。


 私はとりあえず無難に微笑む。

 何を勘違いしたのか、彼女たちの顔が輝いてしまった。


 ふう、と息をつく。


 もう良いと思う。私が許す。面倒くさい。

 チェナには色々忠告されたけれど、万が一これで不利益が起こったとしても、気合いと根性とひと睨みで乗り切れると思う。よし。大丈夫大丈夫。


 私は思い切り顎を上げ、彼女たちを見下ろした。


「……貴女たち、この私にあまり近寄らないでくださる?卑しい吐息がかかるじゃないの」



 その瞬間の彼女たちの顔は、正直見ものだった。



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