第8話 占いの結果
「あなた、もしかして妹がいたり・・・しない?」
少女は拓海にそう聞いてきた。
『探し物があるんじゃないか』と聞いてきた次に出てきた言葉が『妹』という何ともピンポイントな質問なことから、拓海はこの目の前の人物が適当に物を言っていたわけではないのだと当たりをつけた。
「妹の事を知っているんですか・・・?」
「ええ。知っているわ」
「お前さん、妹がいたのか?それ以外にも何か思いだしたか?」
と、拓海と占い師の少女の会話を聞いていたキングが拓海へ聞いてきた。
「あの、キングさん・・・」
これが良い機会だと思った拓海は思いきってキングに今まで黙っていたことをぶちまけようか、と思っていると、
「あなたの妹さんに私は会ったことがある。そして私もあなたの妹さんを探しているの」
これまた目の前の少女が拓海へ爆弾発言をぶつけてきたのだった。
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「あー・・・つまり、お前さんは記憶喪失じゃなくて、女神とかいうのに魔王を倒せっつって言われて異世界から来た別の世界の人間?だと」
とりあえず拓海はキングにこれまでのことを洗いざらい話していた。
最初は黙っていたことと嘘をついていたことを怒るかもとも思ったが、キングはその辺も大人な対応で「俺がもし同じ立場だったら同じことをしていただろう」と気にするようでもなく拓海の話を聞いてくれた。
「黙っていて本当のごめんなさい・・・」
「だからいいっていいって。謝ることじゃねえよ。
見ず知らずの土地へ飛ばされて初めて会った人間にいきなり『私は異世界からきましたー』っつって言うのもそれはそれでどうかと思うしな。
ただまあ、その神殺しってのが何なのかだとか女神っつーのがなんで魔王を倒せっつってるのかも気になるな・・・」
「女神は魔王がこのヘスティランドを滅ぼす存在だといっていました。
僕は最初、見ず知らずの世界が滅びるからといわれて、それでなぜ自分が戦わされないといけないんだと拒否したんです。
そうしたら魔王を追っていけば妹に・・・死んでいると思っていた妹がこのヘスティランドに生きていてそれがどこにいるかはわからないけれど魔王を追ううちにたどり着く、と」
「なるほどなぁ・・・それでお前さん、俺に魔王がどこにいるか知っているか、なんて聞いてきたのか」
納得、といった様子のキングにこれまで拓海がキングにいきさつを説明している間黙っていた占い師が口を開く。
「話は終わった? で、本題に入らせてもらうわね」
さっきまでとは打って変わって、真面目な表情を浮かべる占い師。
「私があなたの妹さんに会ったのは2年前。まだ私の父が生きていた頃ね。
あなたの妹さん・・・桃香さんも異世界から女神によってこちらへ飛ばされてきたと言っていたわ」
「なんだって!?」
やはり妹はこの世界に来ていた。
何より拓海は名前を言っていないのにこの占い師の少女は妹の名前を知っているのだ。
間違いなくこの子は桃香に会っている、これでそれは間違いないと分かった。
「あの子・・・桃香も魔王を倒すために旅をしていると言っていたわ。その時は4人くらいだったかしら?誰かとパーティーを組んで旅をしていたようだけど・・・」
「桃香のやつも女神に言われて魔王を討伐しようとしていたのか・・・?」
「そうみたいね。私が彼女に会ったのは黄金国の王都よ。そこでどうにか大陸を渡る方法を探していたみたいだったけど2年も前の話だし、もう何らかの方法で魔大陸へ渡ったかも分からないわね」
「・・・つまり桃香はこの大陸にいるとは限らないのか」
やはり女神の言っていた通りに魔王の元へ行くことが妹の行方へ繋がるというのは本当のようだ。
どこにいるのかはわからないだとかぼかした言い方をしていたのも、魔大陸は女神の敵対している魔王のいる大陸だから桃香が魔大陸にいるのは分かっても詳しい場所はわからない、という意味だったのかもしれない。
だとしたら桃香は魔大陸にいることになるのだが・・・キングの話だと今は戦争中で船は出ていないようだし、どうやって移動したのだろうか。
「自己紹介が遅れたわね。私の名前はアリス。アリスちゃんって呼んでね?
それで、あなたが妹さんを探しているというのなら私も一緒に連れていってほしいの」
アリス、と名乗った目の前の少女は真剣な表情でそう言った。
「ひとつ聞いてもいいかな・・・その、アリス・・・さんはどうして桃香を探しているの?」
「それは・・・」
一瞬、口ごもったアリスだったが、観念したように口を開く。
「彼女が・・・私の父を殺した人物を知っている可能性が高いからよ」
「!?」
「詳しいことは・・・今は言えないけれど、私は父を殺した相手をどうしても知りたいの。
1年間、探し続けてようやく手に入れた手がかりが、2年前に会ったあなたの妹だった。
でもあなたの妹さんが今どこにいるのかがどうしても足取りがつかめなかった。
だから占うことにしたの。私は占い師だからね。
ここへ来たのは占いでこの村へ来れば私の目的に近付けるって出たから。
大陸の最西端のこう言ってはなんだけどこんな辺鄙なとこにある村に本当に私の求めているもの・・・あなたの妹さんの居場所の手がかりがあるのか?最初はそう思う気持ちもあったの。
だけど私は私の占いの結果を信じたわ。それで1週間前にここへついてそれからそれらしき人が通るまでここで待ってたってわけ。
それからずうっとこの村でそれっぽいやつ、全員に声をかけたわ。
すると・・・ビンゴッ!」
ビシッと某何たら裁判のように拓海を指さすアリス。
「私の父を殺した相手が誰なのかを知っているであろう晴海桃香の兄。
占いは当たったってわけ。あなたについていけばあなたの妹さんに会える・・・だからお願い、私もあなたの妹探しの旅に連れていって。
お姉さん、こう見えても結構強いわよん?連れてけば役に立つと思うなぁ♪」
さっきまでのシリアスモードはどこへ行ったのか、最初に会ったときのようなどこか掴みどころのないハイテンションなアリスへと戻る。
突然の申し出に面食らう拓海だが、今の拓海はキングにおんぶにだっこ状態だった。
キングだっていつまでも拓海の面倒を見るわけにもいかないだろう。今までは記憶喪失の可愛そうな青年を放っておけないという一心でここまで付き合ってくれたのだ。
だが、そうじゃないと打ち明けた今となっては拓海もこれ以上キングに世話になりっぱなしというのは気が引けていたのも事実だった。
キングと別れる。そうなると一人で魔王の元まで妹を探す旅をすることになる。
するとこの見ず知らずの広大な世界を___いや実際どの程度の広さなのかとか知らんけど。
それを一緒にアリスが付いてきてくれるというのだ。しかも向こうは一人旅で大陸を旅してここまで来たという。当然各地の地理だったりにも詳しそうだし、旅慣れもしている。
おまけに強いともいっている(自称だが)。
ここまで好条件がそろっているとむしろ断る理由すらない。ないのだが・・・。
「その・・・例えばだけども、この世界は魔物だって出るし、魔大陸は人間と戦争をしているんだから当然そんなところへ行けば人間である桃香も問答無用で攻撃されたりしてもおかしくない・・・と思うんだけど、その・・・桃香が死んじゃってる可能性だってあるわけでしょ?
それなのに桃香を探すの?」
拓海は懸念していたことをアリスに聞いた。
女神は妹は生きていると言った。確かに言ったのだ。
だが本当なのかは保証できない。それにアリスがそれを・・・桃香が死んでいる場合のことも考えていないのかも聞いてみたかった。
「あなた、自分の妹さんのことなのにそういうこと聞くのねー。正直意外だったわ。
もちろん私もそれは考えたの。だって魔王のところへ行く、なんて言うやつは大抵英雄気取りの死にたがりばかりだし。
でもね、彼女だけは別よ。これも占いの結果ではあるんだけど・・・。
そもそも私は占う時に「どこへ行けば桃香と会えるか」を占ったの。
対象が死んでいたとしたらまず占いは失敗するわ。だって、もう死んでいる人と会うことはできないもの。だからあなたの妹は生きている。これは私が保証するわ」
他でもない占い師であるアリスが言っているのだからそういうことなのだろう、と納得した。
「例えば死んでる人の眠ってる場所・・・お墓の位置が知りたい、とかだったらちゃんと占うときに『お墓の場所を教えて』って占う必要があるの。このどこへ行けば桃香と会えるのか?って占いの結果が出た時点であなたの妹さんは少なくとも『まだ』生きているってことになる」
妹の生存説がこれで確固たるものになった。
やはりというか、拓海は妹の生存を知ってもそこまで嬉しかったりだとか感情が揺り動かない。
そしてそんな自分が嫌になるのだ。不の連鎖である。
「これで分かってもらえたかしら?あなたにとっても私の占いは妹さんを探すうえでも大いに役に立つと思うわ。ね?だから連れていってよ」
「大変ありがたい申し出だけど・・・アリスさん、僕、こんなでも一応男だし、二人きりで旅とかこう・・・そこのとこなんかどうなの?」
「んー?? キミィ、もしかして意識しちゃってるの?そりゃあアリスちゃん超可愛いしィ、気持ちはわかるわよん?でもー・・・」
そこまで言ってアリスは目にも止まらぬ速さでヌッと近づいてきて言った。
「少しでも妙なマネしたら、ちょんぎるから覚悟しとけよ?」
そのとき、拓海は下半身がヒュンッとしたという。
「わ、分かったよ・・・。それじゃあ改めて。僕は晴海拓海。その・・・よろしく」
「ふふん。よろしくされてあげる。・・・で、そっちのおじさんはだれなの?」
と、キングの方を見るアリス。
「おじさんって・・・いや確かにおじさんだがよぉ、もうちっと言い方あんだろ・・・。
俺はキング。この辺じゃKとも呼ばれてる、しがない狩人さ」
「・・・キング? ねえあなたって・・・」
と、キングの名前を聞いた途端顔色を変えたアリスだったが「なんでもないわ」とその後すぐに元のテンションへと戻った。
「それで・・・あなたたち、どこへ向かうところだったの?」
「とりあえずレベル屋へ行くのと・・・あと服を買おうかな、と思ってた」
草原で倒したスライムたちの肉片は良い値段で売れるとのことだった。
宿屋や風呂屋はおごってもらったのだがさすがに服くらいは自分で買いたい。
「ふうん。まあ確かに今のあなた、見た目ぼろっちいものね。いいわ、それじゃあ行きましょう」
「っと、ちょっと待った。お前ら俺抜きで話進めすぎじゃねえか?」
とてくてく進んでいこうとするアリスにタンマをかけるキング。
「なに?」
振り返るアリスを無視してキングは拓海へ向いて言った。
「まず拓海。お前さん、さっき二人きりでーとかっつっていわなかったか?」
「・・・キングさんには大変お世話になりました。このご恩は絶対にいつか返したいと思います。
ですが・・・これ以上はさすがにキングさんに甘えるわけにもいかないかなって思います。
キングさんもいつまでも僕と一緒にってわけもいかないでしょうし・・・」
「お前さん、なんか勘違いしてないか?」
「勘違い・・・ですか?」
「ああ。お前さんは俺に弟子入りしたようなもんだ。んで、弟子がまだ一人前じゃねえのに旅に出るっつってんだぞ?じゃあ頑張れよっつって一人で行かせる奴があるかよ」
「えっと・・・それじゃあ」
「当然、俺もついていくさ。少なくともお前さんが一人前の狩人になるまでは、な」
思っても見なかった言葉に拓海は震えた。
日本でここまで何かに感動したりなんてことはなかったが、やっぱりこの世界にきて拓海はどこか人間らしさというか、感情のふり幅が大きくなったと思う。
「ありがとうございます!!ほんとっ・・・本当にっ!!キングさん!!!いつか・・・いつか必ずご恩を返します!!!」
「おいおいまたお前さん、泣きそうじゃねえか。恩返しもお前さんが一人前の狩人になってくれたらそれが俺にとっての一番だ。だから強くなりな、拓海」
「はい!!ぜったい・・・!絶対に、一人前の狩人になって、キングさんに認められる男になります!!」
これは誓いだ。
キングへの最大の恩返し、必ず果たそう。
がしっとキングと握手する拓海だった。
「暑苦しいわね・・・さっさとレベル屋へいきましょ」
それをみていたアリスは冷ややかな目だった。
というわけで仲間キャラゲットおおおおおおおおおおお!!!
もうちょっと拓海の話が続きますが、仲間キャラ出揃ってひと段落ついたら他主人公へ移ります。