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第7話 命の洗濯



あの後すぐにマオと別れたキングたちは風呂屋へ来ていた。

何となく日本の銭湯のようなものではなく、ドラム缶風呂みたいなのが並んでるのとかを想像していたがこじんまりとはしているものの、なるほどこれは立派な風呂場だ。

ご丁寧に木製の桶やタオルなども用意されており、・・・というか完全に銭湯だった。

正直風呂とは言いつつもどの程度のレベルのものがでてくるかわからなかったものだから心配は杞憂に終わった。

薪を使ってるのでお店の人が火力を調整しているらしい。少し熱めのお湯が体の疲れを飛ばしてくれる。



「ふぅー・・・生き返るなぁー・・・」



「・・・ですねぇ・・・」



思わず気の抜けた声を出してしまう二人だったが、キングが急に顔を引き締めると拓海へ問いかけた。

さきほどの件についてだろう、と拓海も身構える。



「お前さん。さっきのはいかんよー、マオはまだ小さいが、あれでいて良くできた子だから全部わかってるんだ。3年も前に攫われている姉が助かる見込みが薄いってことはな。

俺も最初、マオにあったときに同じようなことを言った。お前じゃ無理だ、大人に任せておけ、ってな」



そして今度は拓海のところへ向き直るキング。

お風呂なのだし、当然なのだが、裸なので目のやり場に困る拓海だったが真剣な顔のキングの方をきちんとみる。



「お前さんがなんであんなことを言ったのか・・・きっと思う所があったんだろう、ってのはわかるんだ。とりあえず今日はもう宿を取って寝るとしよう。夕食は適当に宿が出してくれるだろ」


そのままこの話は終わりだ、とばかりにざばっとお湯から出ていくキング。

もっと色々と聞かれたり怒られるとばかり思っていたので拍子抜けという感じだ。

もともと浴槽がそんな広くない為、距離が近かったのでお尻が拓海の目の前に来てその姿はとてもアレだったが・・・。



「あの、キングさん」



出ていこうとするキングに声をかける。



「ん?」



「僕・・・もっと強くなりたいです」



自分の中の、言葉にできない何とも言えないこの気持ち。

それを振り絞って振り絞って・・・出た言葉がそれだった。



「そうか・・・それは・・・まあ、まずは明日、朝一でレベル屋へ行くか」



「はい」


それだけ行ってさっさと出てしまうキングだった。烏の行水とはこのことだろう。

ちなみに拓海は普段それほど長風呂はしない方だったが、今だけは湯船にずうっと浸かっていたい気分だった。

強くなる。

なったあとはどうするというのだろう?

それはわからなかったがとにかくここではレベルをあげれば強くなれるというのだ。魔物が出てくるこの世界では何をするにしても強くなければいけない、と思った。



(思った以上にマオちゃんとのやり取りを引きずってる・・・)



切り変えなくては、と思った。何もできない、何も救えないという気持ちと一緒にマオちゃんのことをなんとかしてあげたいという自分もいた。そうだ、これは他人事じゃあないからだ。

拓海の妹が『いなくなった』のも3年前。

マオの姉が攫われたのもちょうど3年前だという。

マオは攫った相手が強大だと知ってもなお立ち向かおうとしている。3年も経っているのにだ。

大して拓海はどうだったか。ここにくるまで___そう、日本にいる頃は妹の事を忘れようとさえしていた節があった。

しかも___妹が生きている、そう聞いたときの拓海の気持ちは決して明るい気持ちではなかったのだ。

心の底から喜んでいなかった。

ここで一つ、勘違いをしてほしくないのが、拓海は妹の事を愛していた。

いや、今でも愛している。たった一人の妹だ。ちょっと中身が人から外れている部分があるが・・・それも含めてそんな妹を受け入れて愛している。

妹が生きている、それを知った時にはまずは妹の生存をこの目で確かめたい、という欲求が生まれた。何はともあれ、まずはそこからだと思った。

マオは生きていなかったとしても姉の骨を拾ってやりたいと言っていた。それが供養になるから、だと。

だが拓海にはそんな気持ちすらなかった。

仮にこの世界で妹が・・・もし、死んでいたとしたら。

拓海はたぶん悲しむことすらなく、そのまま日本へ帰ろうとするだろう、という自信があった。

やはり僕はどこかおかしいのだ、と自分で理解している。



「ああああああ!! ダメだダメだ、こんなことじゃ・・・強くなって、魔王のところへ行って僕は妹を探して・・・探して・・・どうしよう」



妹が生きてて見つかったら、そのときはどうするのか。

拓海はそれをずっと考えないようにしていた。



「・・・あがろう」



草原にいたときは必死だから何も考えずにいられた。だから余計なことを悩む必要もなかった。

こうして村に着いて、お風呂に入ってリラックスをして・・・そこでつい、考える暇がなかったことまで考えてしまった。



「そういえば・・・クラスの他の人はどうしてるんだろう・・・」



余裕ができ、ようやく他人の心配ができるようになり、そういえばと思った拓海だった。

明日、村で情報収集をしてみよう、と風呂屋を後にした。

あと明日、服も買おう。




______






次の日の朝、拓海はさっそく例のごとくキングの案内で宿屋を後にしてとりあえずレベル屋へ向かうこととした。

宿屋に関しては質素ながらも質の良い宿だった。気を利かせてくれたのだろう、一人部屋を取ってくれた。キングにはますます頭が上がらない。

夕食も薬草のスープに何の肉だかわからないがおいしい肉とパンが出てきた。日本人の拓海の舌にも合うおいしい料理だった。この世界に来て、今のところ食に関しては文句なしだ。何食ってもうまい。

その宿で朝飯もごちそうになり、その際に漏らした言葉が「ご飯と味噌汁が恋しくなるな・・・」だった。日本にいたときは日本食の多かった拓海にとって、この世界に来て初めて日本が恋しくなる瞬間だった。

しばらく村の中をキングを先頭にあるいていく。

村ですれ違う人へそれとなくこの辺で異世界からやってきたとかそういう人の話を聞いたかー等と聞き込みをしようとも思ったが、キングがいる手前、それを聞くのもためらわれた。

別にこの際、キングにすべて話してしまってもいい気がする。

まだ出会って1週間ほどではあるが、キングは十分信頼に値する人物だし、何より嘘をついているのが後ろめたかった。

レベル屋というのはどうやら村はずれにあるらしい。

昨日マオが素振りしていた広場も過ぎた。さすがに朝からずっと木刀を振っているわけではないか。



「ちょいとそこ行くおにいさんっ!」



「ん?」



「キミだよキミ!そこの変わった服装の君!」



呼びかけられたのが自分のことだ、と気づいた拓海が声の方へ向くと、そこには拓海と同い年くらいの女の子が露店を出して椅子に座っていた。

顔は目から下は布で隠されている。アメジスト色の長い髪をツインテールにし、服装は踊り子のようなひらひらした服を着ていた。

良く見てみると露店・・・と思いきや、台の上には水晶玉が置いてあり、台の上の札に小さく「うらない」と書いてあることからどうやらここは占い屋のようだった。



「そこでお悩みのあなた!!お姉さんが占ってあげるわよん!今ならお代は100ギルカでいいわよ!きゃーアリスちゃん太っ腹ー!」



何やらのっけからハイテンションな女の子だった。拓海の苦手なタイプだ。

ギルカというのは何だ?お金の単位だろうか?

そういえば宿屋でキングがお代を払っている際にそんな単語を言っていた気がする。

というかナチュラルにキングに風呂代に宿代まで奢ってもらっている自分に気づいた。

あとで改めてお礼を言わなければ。



「いや、あの・・・結構です」



拓海もこういうのには慣れていた。伊達に都会育ちではないのだ。

怪しいツボを売られてしまったり変な絵を買わされたりするに違いないのだ、こういう手合いの者は。

すたこらと歩き去ろうとする拓海。



「そんなこと言わずに!君、名前なんていうの?名前からあなたの将来、占っちゃうよ!」



晴海拓海はるみたくみですけど・・・」



ここで馬鹿正直に答えてしまう辺りに拓海という人物の人間性が出ていた。



「晴海・・・?」



「あの、僕、ツレがいるので・・・」



「ってちょっと待って!!お願い!!お金はいらないからっ!ねっ!!さきっちょだけでいいからぁ!」



少女は椅子から立ち上がり拓海に追いすがってきた。あろうことか拓海の腕に抱きついてきたのだ。



「ちょっ、なんなんですかっ、離してくださいよっ!」


拓海が振りほどこうとする際に、ささやかながらも確かに存在している柔らかな胸のふくらみを拓海は意識せずにはいられなかった。華の高校生なのだ、仕方あるまい。



「いいからっ!あなた、探し物か探してる人がいるんじゃないの!?占い師の私なら探し物の場所、分かるかもよ!!ねーおねが」



「・・・!! 探し物の場所、あなたなら分かるんですか!?」



「グフォッ!」



『探し物』という単語に振り返ったと同時に思いきり少女のあごに拓海の肘がクリーンヒットしてしまった。



「ご、ごめんなさい・・・」



「おーい、拓海ーなにしてんだー? って・・・なんだ?」



拓海が引き止められているのに気づかず先を歩いていたキングが何事かと戻ってきた。



「占い師か・・・?珍しいな、こんな辺鄙なとこで会うなんざ」



どうやら札に書いてあるうらないの文字が目に入ったらしいキングがそう言った。



「いっつつ・・・ああ、あなたも良かったら私に占われてみない?私の占いは百発五十中くらい当たるわよ」



「半分じゃねえか・・・」



すかさず突っ込むキングだった。



「・・・キングさん、行きましょう」



一瞬、探し物というワードに反応した拓海だったが、その後のあまりにも適当すぎる占い師の言葉に我に帰った拓海だった。



「ちょ、ちょっと待って!ほんとっ!お願いだからー!!」



「あの、そろそろ本気で怒りますよ・・・」



しつこく食い下がってくる自称占い師の女に業を煮やした拓海はそろそろ本気で怒りますよとばかりに占い師の方へ向き直ったそのとき。




「あなた、もしかして妹がいたり・・・しない?」




占い師の少女は拓海に、そう問うてきた。





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