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第4話 なりたい職業、なれる自分




_________





 拓海が高校へ入って少し経ってのことだ。あれは何年に一度の大雨だとかでニュースになった日のことだった。

滝のように降りしきる雨の中、傘も忘れてしまいさすがにこれでは下校できないのでどうしたものかと拓海は下駄箱で考えていた、そんな時だった。


「あ、たっくんだ」


「悠那も帰れなくなっちゃった感じ?」


親し気に声をかけてきたのは拓海の幼馴染の島村悠那だった。

鞄を肩に下げながらスマートフォンをいじりながら歩いてきて、そのまま並ぶように自然に拓海の横にきた。幼馴染の距離感だ。

着崩した制服からちらっと覗いた胸元に思わず視線がいってしまう拓海。

だって仕方ないじゃないか、男の子だもの。


「たまたま今日はちょっと用事があって残ってたんだけど・・・まあさすがにこの雨じゃあねー。ウチのに迎え来させるってのも無理だし」


スマートフォンからようやく顔をあげると整った顔立ちが目の前にぐっと近づいて拓海は内心そわそわしてしまったがそんな様子はおくびにも出さずに悠那と会話する。


「でも悠那のウチなら迎えこいーって言えば普通に来そうだよね。黒塗りの車で」


「あれねー・・・もう子供じゃないんだからいいって言ってんのにたまにパパがよこすんだよ」


悠那の家は物凄いお金持ちだった。悠那はいわゆるお嬢様だ。なんでも警察庁だか警視庁だかのお偉いさんの娘らしい。

その割にはわりと自由な恰好をしていたりするが、これは悠那のお父さんとの取り決めで、しっかり学校の勉強を怠らないことや、必ず門限を守ることを条件に服装にはケチをつけない、と約束したそうだ。

悠那とは幼馴染ではあるが、家ぐるみで付き合いがあるとか、そういうわけではなかった。

たまたま小さい時から保育園が一緒だったとか、そして小学校も中学校も一緒だったーとかそういう感じ。

拓海の家は中流階級のごくごく普通の家庭だ。


「・・・雨、やまないね」


ぽつりとつぶやく悠那。校舎には雨音が響き渡る。バケツの中いっぱいの水ををひっくり返したような勢いの激しい雨音だ。


「そうだね」


軽く返す拓海。

しばらく無言が続き、悠那はスマートフォンをいじり、拓海はぼーっと外の様子を眺めていた。

ふと、悠那が唐突に口を開いた。、


「あの・・・さ、たっくんって今、好きな子とか・・・いる?」


「えっ?好きな子・・・?」


あまりにも突然の問だったので驚いた拓海だった。

考えてみれば悠那と拓海の間にこれまで色恋の話だったり浮いた話は一切なかった。

それは二人が今まではまだ子供だったのもあったし、そういう話は別の友達とはするが幼馴染の間で色恋の話をするのはどこか気恥ずかしかったからというのもあった。

ところが高校生にもなれば嫌でも異性のすったもんだの話題というのは出てくるものだ。

だが拓海はまともに会話する女子といえば幼馴染の悠那か妹くらいものだった。好きな異性といわれてもぴんとくる女子はいない。


「うーん・・・僕が話す女子って悠那くらいだしね」


「ふーん。・・・ってそれってアタシが好きってこと?」


「えっ?悠那を・・・?」


考えたこともなかった。

悠那を好きか嫌いかでいえばもちろん好きだ。いや、好きというか大好きだった。

話していて気も合うし、一緒にいてすごく落ち着くし、他の女子と違って一緒にいて緊張しないのもいい。

顔だって可愛いし、おしゃれだし、と褒めればきりがないほど良い点が出てくる。

だが異性として、というのは拓海は今まで意識してこなかった。

そりゃあさきほどみたいに、胸元が開いていれば見てしまうし、どうしたってそういう目で見てしまうときも多々あった。

だがそれが恋愛感情かといわれればノーだろう。

これは恋愛感情というか、ただの悲しい男のサガだ。

では一人の女の子として悠那を見たときには・・・どうだろう。

そう考えると自然と拓海の口から漏れた言葉は・・・。




「好き・・・かも」



そう、自然と漏れていた。

好きだ、といいきれない自分に少しどうかとも思うが、それでも今の正直な気持ちだったのだ。



「かもってなんだし・・・。ま、いいや。じゃあさ、あたしたち、付き合おっか」



「・・・え?」


思わず目を見開いてどういうこと?という具合に悠那を見つめる拓海だったが、悠那は平静そのものだった。世間話でもするような軽さで言い放ったのだ。



「アタシとたっくん。たっくんはアタシが好き。あたしも好き。カップル成立。オーケー?」



好き。


(え?? ちょっと待って、今、爆弾発言がなかったか?)


悠那が拓海のことを好き。好き。好き・・・好き。



「ファッ!?」



意味を理解すると思わず変な声が出てしまった。




そんなこんなで拓海と悠那は付き合うことになった。まだ夏が本格的に始まる前のこと。







_________








「すごい・・・!!」



結論から言うとキングはすごく強かった。

村へと向かう道中、拓海を襲ってきたサファイアスライムも難なく一人で倒していた。

キングの使う獲物は弓だった。

弓自体の大きさはそれほどでもなく、矢はどこから調達するのだろうと思っていたがリュックの中に矢を入れる矢筒も一緒に携帯していたようだ。戦闘の際はリュックをその辺に放り投げ矢筒と弓だけ取り出して戦っていた。

戦う、というと聞こえは良いが、戦闘自体は毎回一瞬で終わることが多かった。

敵に気づくと、そのまま相手に気づかれることなく弓を取りだし一射、それで一発なのだ。

放った矢は外れることなく必ず敵を射止めていた。



「キングさんってすごく強いんですね・・・」



「そんなことはねえさ。旅慣れてる奴ならサファイアスライムくらいなら一撃で倒せるだろうよ。お前さんもちょっとレベルを積めば倒せるようになる」



「レベル、ですか?」



「おうとも。さっきすげえ光を出してサファイアスライムを倒したときに、頭ん中で何かが積もったような感覚がなかったか?」



「ああ、ありましたね。僕もそれが気になっていました」



「それが経験値ってやつさ。 そして経験値は『無職』のままで積んでもあんまり意味はねえ。神殿かその職業の幹部クラスのもんに言って『就職』して何かしら職業についてっからレベル屋ってとこでレベルをあげんだ」



やはりこの世界にはレベルという概念があった。

しかもご丁寧に職業システム的なものまで。某有名RPGのような世界だな、と拓海はますます感じた。



「見たところお前さんはまだ無職のようだな。ちなみに俺のは『狩人かりゅうど』っつー弓専門の職業だな」



神殺し以外の戦闘手段が欲しい、と思っていたところにさっそく耳寄りな情報だった。職業にさえついて経験値を溜めていけば誰でも強くなれる世界だ、ということだ。ならばさっさと職についたほうがいいだろう。

そう思い、ならばさっそく!と意気込んで拓海はキングにお願いした。



「あの、キングさん。僕、強くなりたいんです。キングさんさえ良ければ、その『狩人』にしていただけないでしょうか?」



「いやあ、あのな、さっき言ったように職業につくには幹部クラスにいうか神殿へ行く必要があるって聞いてなかったのか?」



「ですからキングさんに言ったんです。キングさんって気のせいじゃなくても『狩人』の幹部クラスでしょ?」



「・・・なんで分かったんだぁ?」



素っ頓狂な声をあげるキングだったが、拓海がキングを幹部クラスだと分かったのは何も偶然ではない。

これはこの世界の全員が全員見えるのかわからないのだが・・・拓海にはどうやら相手のレベルが見えるようなのだ。

そしてキングが狩人だ、と自分で名乗ったあたりで急にキングの頭上に『狩人 LV55』と出てきたのが見えた。

レベルの上限がいくつまでなのかはわからないが、レベル55だったら結構上、いやRPGでいったらラスボスいけるクラスのレベルなんじゃね?と。

これが転移者だけの能力というか特権なのか、はたまたこれすらも神殺しの能力の一部なのか?とりあえずキングの驚きから、皆が皆相手のレベルを見れるわけではないのだろう、とは伺えた。



「確かに俺は狩人職の幹部だ。免許皆伝だから俺の権限だけで拓海を狩人にすることは可能だ。だがな・・・お前さん、弓なんて使ったことはあるのか?」


「ないです。でも弓を使ったことがなければ狩人になれない、なんて条件はないんですよね?」


「ああ。その通り。俺が一言、お前さんを狩人に任命する、と唱えるだけで無職のお前さんを就職させることは可能だ。

・・・でもなあ、本来なら職業ってのはそんなに簡単に決めるもんじゃねえんだよ。

職業ってのは多彩だ。それこそ戦闘職から補助職に、非戦闘職もたくさんある。もっと慎重に決めるのが普通なんだ。いくら転職が可能とはいえ、だいたい一つの職を3年もしないでやめちまう奴は他の職業になろうとしても断られるのが常だしな」



「なんだか日本の就職みたいだな・・・最低3年は続けないと心象が悪いから就職に振りとかそういう感じか・・・」



とつい口に出てしまった拓海だが、なるほど、職業が気に食わなかったからすぐに別の職業へ、というわけにもいかないらしい。



「ちなみにいえば狩人ってのはそんなに数が多いもんでもねえ。たいがい旅をする奴ってのは戦士か剣士か格闘家や魔術師だったり、それを補助する僧侶職だったり盗賊・・・ってのが相場なんだが、まず狩人ってのはそんなにパーティーで重用されるわけじゃねえ。

パーティーってのはギルドで受けられる町の奴らからの依頼である『クエスト』を受けるときに結成される仕事仲間みてえなもんだ。旅をするものはだいたい旅の路銀をクエストで稼いでる。

だいたいギルド側でこのクエストにいけるのは何人まで、って具合にパーティーの人数に制限がかけられてるんだが、だいたいが4人から多くて8人のことが多い。

そうさな、例えば募集要項が4人パーティーだったとする。

一人が剣士でもう一人が魔術師だ。これで戦闘職が2人埋まったことになる。そうするともう二人の内、少なくとも一人は僧侶を探そうとするだろう。あるいは他の回復職だ。

それかクエストが探索系なら盗賊のやつらが重用されるだろう。そうしたとき、残り1枠に特に候補がないな、というような場面。お前さんならどうする?」



「・・・パーティーの基本とかがよく分かってないので的外れなことを言ったらごめんなさい。たぶんその状況なら僕だったら前衛のできる職業の方を探す・・・と思います」



「そう、まさにその通りだ! わかるか?俺たち狩人ってのは前衛職ではない。だから体を張って魔物共の攻撃を受け止める前衛職と組むのが基本的には大前提の職だ。だが、同じ後衛はぶっちゃけた話層が厚い。魔術師なんて典型だ。詠唱する時間さえ与えちまえばレベルが低くても魔物を一撃で粉砕する魔術を唱えられる。たいして狩人はレベルの低いうちは火力に悩まされるんだ」



「火力・・・キングさんくらいになってようやくモンスターを一撃で倒せる、と」



「そうだ。俺はここまでくるのに10年はかかった。レベルの上限ってのは100が最大なんだが、俺はやっと50を超えたあたりなんだ。ここまでくるのに10年。10年でやっとスライムを一撃で倒せるレベルだ。レベル100までいくってんなら恐らくもう10年かそれ以上の歳月が必要だ。

狩人は決して、戦闘においての花形にはなれない。

だいたいの奴らは途中で他の職へ転職する。他の職へ行く際にはまたレベルが初めからになるんだが・・・それでもだ

狩人の職の奴らは年々減っていく。だから幹部、なんていっても年功序列でたまたま長かったから俺が選ばれた、くらいの理由なんだ」



そこまで言ってキングは真剣な顔で拓海を見た。



「いいか?これで狩人ってのが数ある職の中でもあまりおすすめできない理由が分かっただろう?そして極めつけだ。狩人ってのは戦うのにどうしたって矢がいる。その調達をするのもめんどくさい上に最初は矢を買う金もかかるから金欠だ。矢は決して安いもんじゃねえ

クエストに就くようになってある程度自分で稼げるようになるまでは戦うたびに金が減ってく。お前さんはそれでも・・・それでもこの職を選ぶのかい?」


「僕は・・・」



返答に大して迷うことはなかった。



「僕はそれでも狩人でいいです。 いや、ますます狩人がいいな、って思いました」



「今の話を聞いてますます狩人がいい?一体どういうこった」



若干イラだち気味に問うてくるキングだったが、気にすることもなく拓海が答える。



「狩人っていう職業が大変なのはわかりました。ですが、それは他の戦闘職についても、補助職についても同じことだって思います。クエスト?では確かに重用されないのかもしれません。キングさんはこの10年でそれを見に染みて味わっているってことなんでしょう。だけど僕はそれでも狩人がいいな、って思ったんです。

だって、狩人は苦しくてもそれでもキングさんが選んだ職業だってことでしょう?

それに、戦うキングさんはかっこよかった。かっこよかったからなりたい、単純なことです。

実際はそんな甘いもんじゃないのかもしれない。ですけど職業を選ぶ理由としてはそう珍しいものではないでしょう?」



憧れたからその職につく。日本の就職活動だって同じだ。

誰だって小さい頃に一度は○○になりたい!と憧れを持つものだと思う。

そしてそれを大人になるまで抱え続けて頑張り続けたものだけが夢をかなえなりたい職業になるのだ。

それが叶わなかったものや諦めてしまうのが大多数なのは分かっている。

だが拓海も一度はあきらめてしまった側なのだ。自分が何かを救える人間になりたい、と一時期は人の命に携わる職業へつきたいと漠然と考えていたものだ、と思いだした。

だが歳を取るにつれて現実を知り___自分はそちら側の人間ではないと知るのだ。

あるいは知った気になってしまった、というべきか。


妹を探す、それが大前提であり、本来なら一刻も早く魔王のところへ向かうべきなのだろう。

だが拓海はそれでも、狩人を選んだことがたとえ遠回りになるかもしれなくとも、それでも狩人がいいな、と思ったのだ。



「・・・ふぅ。 お前さんは見かけによらず、なんつうか・・・いや、まあいい。いいだろう、お前さん____ハルミ タクミを『狩人』へと任命する」



さも呆れたやつだ、という具合な感じだったが、キングは拓海を認めてくれたようだった。

キングがそういって手をかざすと、拓海の体を光が包み込み___手に木でできた弓と矢を入れる矢筒が現れた。



「わわっ」


慌てて落しそうになりなったそれらをしっかり掴みなおす。


「それは選別だ。職業神マルケラスからのな。職業についたばかりの時は初期装備が与えられる。

そいつはお前さんの相棒だ。大事にしな」


キングが手をさしだして来る。両手がふさがっているので拓海は弓と矢筒をどうしようか、と迷ったところキングが矢筒に紐がついていて肩にひっかけられるようになっているのと、矢筒の部分に弓も金具のようなもので留められるのだと手でジェスチャーしてくれた。

それらをあわてて肩へかける拓海。



「んじゃ・・・ようこそ、狩人の世界へ。___新入り」


差しだす手に両手でがっしりと握手した。


「よろしくお願いします!!」



こうして拓海は狩人へと就職した。








_____








晴海 拓海 狩人LV1 能力『神殺し』






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