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第3話 ようこそヘスティランドへ

だいぶ書くの遅くなってごめんなさい(泣



「・・・ここは?」



目が覚めると目前にはどこまでも広がる青空が。

気づくとそこは見知らぬ場所だった。

草のにおい。

ここは____草原だ。

少なくともここは拓海のいた町ではなさそうだ、と一目で分かる。

拓海の通っていた学校は都会だったし、こんな自然豊かな場所はなかった。

拓海は気づけば草の上に寝転がっていた。

なるほど。多分だけどここは・・・。



「ヘスティ・・・ランドか・・・」



とりあえず起き上がりぐっと体を伸ばす。

恰好はいつもの制服のまま。見たところ本当に教室からここに飛ばされたのだろう。

どうやら女神の言っていたことは本当だったみたいだ。

ここは異世界なのだろう。

なんでそんなことが分かるのか、と言われれば女神が言っていたように身体能力が向上しているからか何だかいつもよりも体が軽い気がする。

それに漠然とだが、空気の中の魔法的な何か___たぶんこれが女神の言っていた『魔素』なんじゃないだろうか___ともかくそれらしいものが空気中に満ちているのが分かる。

それと自分の体の中にもそれらしきものが循環しているのがはっきりと分かった。


「・・・ふぅ」


思ったよりも冷静な自分に驚く拓海だったが、考えてみればそれも納得だ。

長年つっかえていたものが取れた気持ちだ。

妹は生きている。

それが本当なのか、拓海は確かめなければならない。

拓海にとって一番大事なところはそこであって、先ほどの空間でも何となく女神が言っていることは本当のことだという確信のような気持ちが拓海にはあった。

とりあえず現状把握はOK。

この世界で魔王を探す。

まずは魔王がどこにいるのかを調べよう。

それと女神から貰った能力ギフトのことだ。



(神殺し・・・って言っていたか。特別だ、なんて言っていたけど、実際どんな能力なんだ・・・?)



これは早急に把握する必要がある。

まず、拓海にはそんなつもりは毛頭ないがこれから先、女神の言っていた魔王との戦いになった時に自分の能力がわからないのでは話にならない。

それにここは異世界だ。クラスメイトも一緒に転移させられたような口ぶりだったが、あの教室にいたメンバーは今は周りには見当たらない。

とりあえずは、と拓海は周囲をよく見渡してみる。

周りに障害物もない草原で、見たところ辺りには人っ子一人いない様子だし、この場所には自分だけが転移させられたと考えた方がいいだろう。


(もし仮に、この世界に魔物とかモンスターとか言う類の生物がいたとしたら、とりあえずは自分でなんとかしないといけないわけだ。周りには町も見当たらないし)


思ったよりも順応性のある自分に驚く拓海。

そりゃ、普段からRPGゲームなどは人並には遊んでいる。

それにしても実際に自分がまさかRPGの世界のようなファンタジー世界へ飛ばされたら誰だって少しは面食らうものだと思う。

思うのだが、拓海にはそれがなかった。


「・・・とりあえず人だ。人を探そう」


神殺しの能力のことも気になるが、とりあえずの目標は別だ。まずは情報が欲しかった。

少しでもこの世界のことをまずは知るべきだろう。

と、拓海が当てもなく歩きだす。

5分、10分経ったころだろうか。

延々と変わらず続いてく草原に少しイライラしてきた拓海だったが、しばらくして何やら茂みからガサガサとする音がした。


(っ!?)


これがRPGだとしたらそろそろチュートリアル戦闘がある頃だろう。

そんな考えが過る程度には拓海もゲーム脳だった。

出るなら最初だから弱い魔物にしてくれよとか場違いなことを思う拓海。

ここはゲームの世界じゃないというのにそんな考え方をしてしまうのはやはり現代日本に生きている一学生にすぎない拓海には仕方がないことだろう。


___そして気づく。

自分が武器を持っていないことに。

神殺しの能力がどういうものか分かっていない上、武器もない状態で戦闘になったらたまったものではない。


(魔物だったらとりあえず逃げるか・・・!)


そう算段を立てていると、草むらからウサギくらいの大きさの影が飛び出した。



(これは・・・)



その姿は今や色々なゲームで見慣れた姿だった。

どうみてもこれは日本一有名なあの魔物ではないだろうか。

透明な液状の体にぶよぶよとした質感。異形のモノには違いないが、日本人のほとんどがそれを見て「強そう」だとは思わないであろうあのモンスターだ。

___そう、これはどう見てもスライムだ。



(どうする・・・?弱そうだといってもこっちは丸腰だし・・・)



そもそも向こうは襲い掛かってきたわけではない。無理に戦闘する必要はないか?

そう拓海は考えると____突然スライムが拓海に向かって飛びかかってきた。


「やっぱりそうなるか!」


半ば予想通りという感じだが、相手の動きもそこまで早いわけではなかった。

というよりも拓海の動きが早いだけだった。

身体能力が向上してるという何となくの感覚はあったが、自分でも驚くほどスムーズに横へ身を翻し回避した自分の反応に驚く拓海だったが、驚いている場合ではない。

辺りは障害物一つない草原だ。逃げるといってもずっと追いかけてくる可能性だってある。



(とりあえず試してみるか・・・!)



体勢を立て直しスライムへ手をかざす。

意を決してとりあえずストレートにいってみる。



「来い!神殺しの能力よ!!!!!」




・・・。




「・・・やっぱり何も起きないか・・・?」


やはりそんな簡単に能力は発動しなかった。というか女神も発動条件とか肝心のところを教えてくれなければ能力をもらったところで意味がないではないか。

などと拓海が女神に対して不満を募らせているがスライムも待ってはくれない。

また馬鹿の一つ覚えとでもいうように飛びかかってくる。


「くそっ!」


今度はかわし切れずにやむをえず拳をカウンター気味にくらわせてみる。

ボヨンッ

と、独特の感触が拓海のこぶしを包み込み、スライムはまるでその衝撃をすべて吸収したかのようになごともなかったように思いきりそのまま拓海へぶつかってきた。


「くっ!!」


大きな衝撃が拓海を襲う。

拓海は体勢を崩しその場に倒れこんでしまう。


「っ!!!! しまった!!」


そこをすかさずとどめとばかりに襲い掛かってくるスライム。


(完全に油断した・・・!ここは異世界だっていうのに思いこみでスライムだからって!)


後悔してもあとの祭りだ。そのままスライムは拓海にのしかかり、拓海の体を覆い尽くす。

そのままじわじわと拓海を下半身から包み込んでいく。

獲物を捕食する際にはやはり体内に獲物を取りこんでゆっくり消化するのだろう。

スライムに包まれると、拓海の体からどんどん力が抜けていく感じがした。


「くっ!こいつ、僕の体力を吸収してるのか!?」


RPGでいうところのドレイン持ちなのだろう。明らかに先ほどよりも体力が失われていく。

これはまずい。

スライムはその見た目に反して結構な重さだった。

さっきまでなら可能だったろうが、今の拓海では十分に力が入らず簡単には引き剥がせそうにない。

異世界に落ちてきてわずか数十分、拓海は自分の死を覚悟させるような場面に直面していた。


「このっ!!くそっ!離れろぉぉぉっ!!!」


必死になって引き剥がそうと暴れる拓海だったが、スライムはびくともしない。

もがこうと足掻けば足掻くほどスライムは容赦なく拓海の身体を覆っていった。



(こんなところで死にたくない・・・!!!俺はまだ、妹に会えていない・・・誰も救えていない・・・!)



異世界に来る前の拓海ならもしかすると生を諦めていたかもしれない。

拓海に『生きたい』と思わせたのは女神のたった一つの言葉だった。

妹の生存。

それだけがどうにも拓海に生を諦めさせなかったのだ。

そしてスライムが拓海を覆い尽くすのがもう数分もかからないであろうという所まできたその時だった。

___脳内に直接響いてくる声がした。





『___発動条件クリア。神殺し、起動』




無機質で、まるで機械のような冷たい声。




『___起動しました。

 対象を『サファイアスライム』に設定。

 代償を設定してください』





確かにその声は「神殺し」といった。

ならば拓海の能力が直接脳内に話しかけているのか?

その発動条件とやらが一体何だったのかはわからないがとりあえず今の言葉から神殺しが発動したのだということだろう。

だが代償を設定とはどういうことだろうか。


「・・・くっ!! ううううううううう!!!!」


そうこうしているうちにどんどん拓海を包み込んでいくスライム。もう下半身はまるまる包み込まれ胸のあたりにまで迫ってきていた。

このままではまずいと思い、何かないかと考える拓海。

すると制服のポケットから倒れこんだ時に落ちたのであろう拓海のスマートフォンが自分の近くに転がっているのが見えた。


「!! 僕のスマホを代償にする!!だから神殺し!!力を貸せっ!!!」


一か八か、口にする拓海。

これでダメなら本当に万事休すだ、と。



『____代償、設定しました。 『異世界の持ち物』

 レベル5を対象に発動します』




脳内に声が響いた、とその刹那____。




「ッッッ!!!!!」



ドン、と体に振動が伝わる。

上空から眩い一筋の光が降り注いできた、と理解するのに一瞬。

同時に耳を劈くような轟音が拓海とスライムを襲った。

閃光が降りしきる中、あまりの圧力に耐えられず目を瞑る拓海。



「くっっっっ!!!!???!?!?」



放射され続ける光の奔流。レーザーみたいなものが突然空中からスライムを直撃した、といえばわかりやすいだろうか。日本で日常生活を送っていてこれほど眩しい光を目の当たりにすることはなかなかない。

そして目下スライムの真下には拓海がいる状態だった。

状況を理解しようと恐る恐る目を開ける拓海。

目の前で黒こげにされていくスライムに、自分も丸こげにされるのでは、と思う拓海だったが、そうだとしたらスライムに光が直撃した時点で拓海の体も一緒に丸焦げにされているはずだ。

眩い光に目がくらむも、何とか目を開いて状況を確認する。

すると光はなんとスライム『のみ』をその灼熱で焼き焦がしていた。

ただ、これだけの熱量なら近くにいる拓海もただではすまないのが道理なのだが、よくよく見てみると自分をはじめとした周囲の草原にもこれだけの規模のレーザーのようなものが空から地上へ降り注いでいるというのに焼野原になるどころか突風一つ起こる様子もない。


なるほど、これはこういうものなのか、と拓海は理解した。

恐らく神殺しの能力というのは『対象』以外には一切効果をなさないのだろう。

なんともご都合、ついでにいえばさきほどスマホを代償に選択したが、RPGなどで魔法を使うとMPが減ったりするものだが、拓海の身体から力が抜けていくような感覚だったりがまったくない。体を巡っているとなんとなく感じる魔素?も、さきほどの状態から変わらず減っていないと分かる。

これはRPGでいうところのMPも消費無しなのではないだろうか。



(つまり神殺しを使用するのに代償さえ払えば他に魔素だったりは特に必要ないってことか)



問題は発動条件だが・・・これはもっと突き詰めていく必要がある。

などと冷静に分析しているうちにレーザーの照射が終わった。音が鳴りやみ、光も止まった。

目を完全に開けると見るも無残に黒焦げの灰へと変わったスライムがぽろぽろと風に飛ばされ散っていく。

拓海は残った死骸(灰)も体からどかして立ち上がった。



「何とか助かった・・・けど」



初の遭遇戦でこんな大ピンチになるとは思いもよらなかっただけに、同時にこれが本当の異世界転移なのだと改めて思い知らされたような気分だった。



(ゲームのような世界だけど・・・ここはゲームじゃない。スライムだからって油断したら死ぬんだ。もっと気持ちを引き締めないと・・・)



確かに死にかけた拓海だったが、むしろここで遊びのような気持ちを捨てることができてラッキーだったと思うことにした。

もしここが魔王の目の前にいきなり転移させられたと仮定して、明らかに魔王がこちらに敵意を持っていたとしたら拓海は恐らく生きてはいられなかっただろう。

魔王というのがどれほど強いのかはわからないが、少なくともスライムよりは強いだろう。

そう仮定するとやはりいきなり転移して魔王と戦って~なんてことになればなすすべなく殺されている未来が想像できる。

考えるだけでゾッとした。



(とりあえず生きるためには戦うすべを見につけないとダメだ・・・確かに神殺しはすごい力なのかもしれないけれど現状では発動するための条件すらわからない。それに毎回代償を必要とするようだし、他の方法で戦えた方がいい)



すると拓海は自分の体の中で何かが『積もった』ようなイメージが急に沸きあがった。

それが満タンになるのにはまだ5分の4ほど残っている、という明確なイメージも。

漠然とだが、なぜだかこれが何なのかが瞬時に理解できた。


「これ・・・経験値か?」


多分、いや___これは経験値のようなものだろうと拓海は確信した。

理屈抜きにして自分の中で分かったのだ。

これも異世界転移の特典なのか、はたまたこの世界の人間に備わっているものなのかは不明だが。

そして、経験値があるのであればレベルのようなものもあるだろう、と推測できる。

つまりこれは戦いを繰り返していけば拓海も強くなれるのだ、ということを示していた。

モンスターが出てくるのだ。そこもRPGの常識で考えてもいいのではないだろうか、と拓海は考える。


(この辺りのことも一度他の人に聞く必要はあるけど・・・)


何はともあれ人だ。

この世界の住人を探さなければ何をするのもはじまらないだろう。

さて今度もまた当てもなくとりあえず歩くか、と思案した拓海だったが、


「ん?」


ふと、目を凝らすと障害物の何もない草原に人影がこちら側へ歩いてきているように見えた。

さきほどの神殺しの能力を見た誰かが何事かとこちらへ向かってきたのか?と思う拓海だが、たとえ人間でもそれが味方かわからない以上油断はできない、と気を引き締めた。

さきほどのスライム戦が拓海の教訓になっていた。

さすがに連戦ともなると神殺しの発動条件がわからない今、大前提として他に戦えるすべの持たない拓海では戦いの中でその条件を煮詰めていく必要があることになる。

もちろん素手で戦う、という選択肢もあるが・・・魔物が出てくるような世界で一人こんな草原を歩いている人物なのだ。少なくとも戦闘手段をもった相手といえる。

そんな相手に素手での戦闘を取るのはあまりにも無謀といえた。


(いきなり襲い掛かってきたりしなければいいけど・・・あとは言葉が通じるのかも気になる)


人影がどんどん拓海へ近づくにつれ、そのシルエットもはっきりしてくる。

それはくたびれたマントを靡かせ頭にターバンを巻いた背中に大きなリュックを背負ったいかにも旅人といった風貌の痩せぎすの男だった。

あごには無精ひげが生えており、あまり綺麗な印象は抱けない。

すると彼はあたりを見渡した後、こちらへ話しかけてきた。



「お前さんがさっきの光を出したのか?」



なんとびっくり、目の前の異世界人は日本語を発した。

しかもなかなかの低音イケボだった。

てっきり言葉は通じないであろうと覚悟していたところだったので面食らった拓海だったがとりあえず聞かれたのでどうこたえようかと思案する。


「・・・ええ、そうです」


とりあえず正直に答えた。相手の出方をうかがう意味でもしらばっくれるよりいいかと思ったからだ。


「ほう。そうするとお前さんは魔術師なのかい? いやなに、あれだけの光だ。どこかに仕える王宮術師さんか何かかい?それにしたってこの辺はスライムしか出ないだろうにあれだけの上級魔術を撃つ必要性も・・・」


矢継ぎ早に問いかけてくる男だったが、黙りこくる拓海に訝し気な顔を浮かべる。どう答えたものかと考えた末、拓海は言った。


「あの、すみません・・・ここはどこなのでしょうか?僕、目が覚めたらいきなりこの草原で倒れていまして・・・」


「・・・驚いた。気づいたらここにいたって言ってもこんなとこ、来ようと思わなければ普通の人間にゃ近付く理由すらない場所だしなあ・・・北に記憶を食っちまう魔物が暴れてるって噂を聞いたことがあるが・・・お前さんも記憶喪失か何かなのかい?そりゃあ困っただろうなぁ」


とターバンの男は訝し気な態度から柔らかな態度へ変わり人好きのしそうな笑顔を浮かべた。

 


「ここはゲノームと黄金国よりもっともっと西に位置するヘスティランドの最西端、スライムが生息するから通称『スライムの草原』ことヘスティ大草原だ。ここから近くの街へ行くのに寝ずに行っても2、3日はある。

お前さんがどこの村や町からここまで来たのかはわからねえが・・・」


とそこまで言って男はふと何かに気づいたような仕草で手を打った。


「名乗りが遅れたな。俺はキング。 この辺じゃ『K』って名乗ってる。好きに呼んでくれ」


「ご丁寧にありがとうございます。僕は晴海拓海。キングさんの言う通り、自分の名前以外は何も思いだせないんです。 

この世界の名前がヘスティランド、っていう世界なのは知っているのですが、そこにある地名や、どういった世界なのかすらも思いだせないんです・・・。

ゲノームというのも黄金国というのも覚えがありません。

さっきの光もスライムに襲われて自分が死ぬ!って思ったら空からスライムへ降り注いできて・・・その魔術ってのもよく分かりませんし・・・自分で出したっていう感じじゃなくて。

それで途方に暮れていたところでキングさんが来てくれたんです。今は人に会えてほっとしています」



とりあえず拓海は自分が記憶喪失だ、という体で行こうと決めた。

見た感じの第一印象がちょっと小汚い恰好をしていたので警戒していたが、話してみた感じ悪人という感じはしない。もちろん演技の線もまだ捨ててはいない。

拓海は油断をしないとスライムに誓ったのだ。

本当のことを喋ってもいいが女神が何なのかもわからない上、またもしかするとこの人が魔王の関係者だったりしたら女神は明らかに魔王と敵対しているような感じだし、こちらにその気はないにせよ転移したと聞いて襲い掛かってくるやもしれない。


「なるほどな。つまりほんとのほんとになーんも思いだせない、と。それは・・・本当にどうしたもんやら・・・」


と、少し困った顔をするキングさん。やっぱり悪い人ではなさそうだ。


「ところでキングさんは魔王の居場所をご存じですか? 僕、どうしても魔王に会わないといけない気がするんです」


とりあえずジャブを撃ってみよう、と拓海は質問した。


「魔王? フィリスのことか?・・・奴だったらこのヘスティ大草原と真逆も真逆、ヘスティランドの最東端の魔大陸にいる。

・・・それにしても目が覚めたらこんな辺鄙な場所で記憶喪失で謎の光魔術を使えて、その上理由はわからないが魔王に会いたい、と。ますますお前さんが何ものなんだか気になるな。

ただ魔王のいるところまで行くにはかなりキツい道のりになるぜ?というよりもほぼ不可能に近い。

なんてったってこの世界の一番西から一番東だからな。それに海を超えなきゃなんねえから船も手配が必要だし・・・。

それとこれが一番おおきな理由だが、今俺たちのいる大陸にはゲノームって国と黄金国おうごんこくって国の二つの国がある。そんでもって基本的にこの大陸と魔大陸の奴らは敵対してて只今専ら戦争中で大陸の行き来ができない」


「戦争・・・」


とりあえず魔王の居場所は案外あっさりと分かった。だが、そこへ向かう道がどうやら困難だということも同時にわかった。そして戦争という言葉、だ。

この世界では人間同士が争っているのだ。


「ああ。もうかれこれ百年くらいになるか・・・この戦争が始まる前には他にも2つ、北と南に大陸があってそれぞれの大陸に一つずつ国があり、この大陸と魔大陸とで合わせて4つ大陸があったんだが、魔族と人間族との戦争で北の大陸と南の大陸は今は消滅しちまった。

そんなわけでお前さんが魔王と会いたいのは分かったが、あまり現実的じゃあない。あきらめるんだな」



大陸が消滅するとか、何やら聞いてはいけないワードが飛んでいたように思えるがとりあえずスルー。

なるほど、確かにこれは骨が折れそうだ。



(それにしてもあの女神・・・)



女神は魔王を倒せといっておきながら魔王の居場所と一番離れた場所へ転移させたということだ。

適当にもほどがあるだろう。

いや、それともそれすらも狙ってやったことなのか、何にせよあの女神は本当にいい加減だ。

能力を授けるといってどういう能力なのかもわからない力だけ渡されて気が付くと魔王のいる大陸とは別の大陸とか。

しかも拓海の場合キングに会えたから何とか状況整理できてきているものの、会えていなかったらまだこの草原をさまよっていただろう。

と、女神のへの愚痴ばかり湧いてくるがいったん頭の外へ追いやる。


そして気づいたことがあったので拓海はキングに聞いた。


「あの、ふと思ったんですけど、ここがヘスティランドの一番西なのは分かりました。 

それじゃあ逆にここより西に進んだらどうなるんですか?」


そうなのだ。彼が言うにはここがヘスティランドのいちばん西だから、魔大陸は東にあるから一番遠いよってことらしい。そもそも『この世界の一番西』という言い方が何か引っかかったのだ。


「どうなるって・・・いや、悪かった。そこも思いだせないんだな。

いいか、このスライム草原を西に進んでいくと、そこは崖になってる。崖の底は真っ暗でなにも見えやしねえし、また草原の西側には『闇』が広がっている」


「闇・・・ですか?」


「ああ。本当に闇としか表現ができないんだ。

見渡す限り真っ黒で、真っ暗なんだ。何人か試しに闇の向こう側へ行こうとした連中がいたが揃って帰ってこねえ。

魔術で闇を照らそうと上級火魔術を放ったがそれすらも闇に飲まれた。あれは闇っていうより『無』っていったほうがいいのかもしれねえ。

とにかくこの大陸の一番西側にはそれが広がっていて、うーんと北とうーんと南にもそれが似たように広がってる。だからここはヘスティランドの一番西なんだ。同じように魔大陸の東にも闇が広がっている、って話だぜ」


つまりヘスティランドは地球みたいにまーるく繋がっているわけではなく、それぞれの方向へずっと進むとある一線で闇が広がっていて必ずそこより進めないようになっている、と。

・・・いや、もしかすれば闇を超えればこの草原と魔大陸もつながっているのかもしれないが、誰も戻ってこれていないのでそれもわからないということか。

つまりここを西に進んだ所で魔大陸には行けない、と。



「とりあえずここでいつまでも話してるのも何だし、一番近くの村まで送ってくぜ。見たところお前さん、どうやってあの光を出したのかもわからねえって話だし、またスライムに襲われたらたまらねえだろ」


「ありがとうございます、キングさん。そうしていただけると助かります」


キングの提案に乗っかる拓海だったが、村に着いてからどうしたものか、と思案する。

いずれにせよこの世界に来た目的は妹探しだ。

女神もこの世界のどこかに妹がいて、それは魔王を求めていけば見つかる的なニュアンスで言っていた。あの女神のことを信じるのもアレだが、今の時点では他にすがる術もない。そもそも妹が生きている、という女神の言っていることは信じるのか、という話にもなってくるがそれはそれだ。嘘か本当か分からずとも、妹が生きているという言葉を聞かされたらとりあえず探しに行く、という結論になったからここ__ヘスティランドに来たのだ。女神のいうことを信じてみるしかないだろう。

詰まるところ結局は正攻法で、魔王のいる魔大陸までいける方法を探すのが目下の目標になったわけだが・・・。


(今はとりあえず、キングさんについていって近くの村まで行ってからこれから先どうするか考えよう)


というわけで拓海はキングの案内により近くの村へと向かうこととなった。





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