第2話 シスコン
「僕が・・・世界を救う?」
目の前の女神と名乗る『何か』は確かにそう言った。
「そうです。ちなみにあなた以外にもあの時あの場にいたあなたのクラスメイトの方、全員が勇者です。全員で仲良く協力しあって、これからあなた方が赴く異世界『ヘスティランド』を救ってください」
「いや・・・救うって・・・そもそも異世界?になんで僕たちが飛ばされて、しかも魔王なんかと戦わないといけないんですか?だいたい、戦うっていいますけどどうやって?」
あまりにも一方的すぎる女神の言葉に我慢できずにまくりたてる拓海だったが、女神の方は相も変わらず同じテンションで続けた。
「まず一つ目。なぜあなた方なのか、それはあなた方が『適合者』だからです」
「適合者?」
なんだかとてもファンタジーなことをさっきから言っていた女神だが、なぜだか拓海には今ここで起きていることが夢ではなく本当のことなんだろう、という確信があった。
体が納得してしまうというか、この『女神』が言っていることなのだから、ここは現実であり、なんらかの超常現象で本当に異世界へ飛ばされてしまい魔王と戦わされるのだろう、ということが理解できるのだ。
「はい。さすがに私が神といえど誰でもこうして異世界へ召喚、なんてことはできません。少なくともまず第一条件として体に異世界へ転移しても耐えうるだけの抗体である『魔素』が常人よりも遥かに多く体内にあり、なおかつ『能力』を付与しても体が耐えられる者、それが条件です」
色々と途中でわからない単語がいくつかあったが、つまりは拓海達のクラスは全員がその条件に見あうだけの体だった、ということみたいだ。
その魔素というものが無いと異世界転移は耐えられないということも分かった。
「そして第二に、これは本当にこんな言い方もどうかと思うのですが、あなた方のクラスは召喚に『とても都合が良かった』。
これはあなただから明かしてしまうのですが、全員が魔素が標準を上回るうえに、その構成員の何人かはヘスティランドとの適合力とでもいいましょうか?
ヘスティランドという世界そのものとチャンネルを繋げやすい方がいらっしゃいましたので。それもあって、召喚というものは一辺に何人もすることは通常できないのですが、今回のようにクラス丸ごと転移♪なんてことができたのです」
とりあえず魔素、っていうのは何となく字面で想像がつく。
恐らくだけどファンタジーでよくある魔力的な何かだろう。こんなものは漫画だったりゲームをやってたりする人間ならすぐにだいたいの予想がつく。魔素っていうからには魔法とか魔術とかそのヘスティランドとやらにはありそうだなーとか。
ヘスティランド?とやらとの適合力。これもよくわからないが、普通に地球で暮らしている拓海たちがそれが高いってのもレアなことなんだろう。それも分かった。
分かったが、だ。
同時に理解もしてしまった。
それは詰まるところ、条件に合えば誰でもよかったのだ、と暗に言ってるのだと。
「そしてなぜ魔王と戦わなければならないのか、ですが・・・それは奴がヘスティランドを滅ぼす存在だからです」
魔王というくらいだ。世界を滅ぼす、くらいのことはするのだろう。これも字面的に納得できる。
・・・で、これもなぜ拓海たちが自分たちの知らない世界のために魔王を倒さなければならないのか。
魔王がヘスティランドを滅ぼす。それが拓海達と何の関係があるのだろう。
それこそ勝手に滅んでくれ、という感じだ。
「続いて、どうやって魔王と戦うのか。・・・ですがこれは簡単です。さきほど言いました『能力』があれば。あなた方勇者にはそれぞれ固有の超強力な能力を授けます。それぞれがそれぞれの違った能力を与えますので皆さんで協力し合って魔王を倒してくださいね♪
さらに召喚者の方々はそれぞれ体力・魔力・筋力・俊敏性などなど、ステータスが軒並みパワーアップしている状態なのも特徴です。その辺の冒険者レベルでしたら能力なんて使わずとも戦って勝てる程度にはチート状態です♪」
女神がにっこり(といっても顔は見えないのであくまで雰囲気)し話が終わったところで拓海も口を開く。
「・・・とりあえず分かった。分かったけど、これが夢じゃなくて現実の出来事だというなら僕は納得しない。
夢ならいい、たとえ魔王に殺されても夢から目が覚めるだけだ。でも現実はそうじゃない。
ヘスティランドが滅亡の危機だから救ってくれ?なんで僕たちが命をかけてまで救わないといけない。
どっかの知らない世界はどっかの知らない世界の奴が救えばいい。それに僕には世界を救う、なんてことできるわけがない」
拓海にはまず世界を救う、という言葉に拒否反応が出た。
世界を救う、なるほど良い響きだ。
だがその一方で拓海の中で世界を救うという言葉はとてつもない嫌悪感を覚える言葉だった。
昔、救おうとして何も救えなかった上に幼馴染には失望され信頼も失った身としては。
「世界を救うことができるわけがない?できますよ。・・・いいえ、救ってもらわなければ困るのです」
「困ったとしてもそれこそ僕には関係のないことだろう。僕は世界を救う気なんてないんだから元の世界へ返してくれ」
思わず強い言葉でいい返してしまう拓海。
(なぜだろう、この女神と話しているととても気分がイラだってくる。どうしてなのかはわからないけれど)
「それはできません。・・・というよりもそれはそれであなたが困ると思うんですよね」
「僕が困る?」
何が困るというのだろうか。
「だって・・・」
そして女神は顔は見えないけれど確かににんまりと三日月のように唇を吊り上げ楽しそうに笑って言ったのだ。
「だって・・・あなたの死んだと思っていた妹さん、実はヘスティランドのどこかで今も生きているんですから♪」
「なっ・・・!!」
拓海は声を失ってしまった。
驚き、というよりもまったくの想像外からの言葉と、その言葉の意味する内容に言葉にできない感情に何も言えなかったから。
「キャハハハハハハ!!!驚いてる驚いてるぅ!!さっすが、救いようのないシスコンお兄さんですね!救いようもないし、誰も救えないし、また・・・救わないんですね」
「っ!!お前っ!!!」
(こいつは、どこまで僕のことを知っている・・・!?)
まさか妹の事が女神から出てくるなんて思わなかったのもそうだが、この女神はどうやら拓海とその妹に何があったのか、知っているような口ぶりだった。
女神。
なるほど、こいつは確かに神なのかもしれない。
何でも御見通しというわけだ。
『妹が生きている』
それを知った以上、拓海がとれる行動は決まっているのだと分かっているのだ。
「妹は・・・ヘスティランドにいるんだな?」
「ええ。それは本当です。女神は誓って、嘘はつきません♪」
「妹はどこにいるんだ!」
「どこって・・・そう言われましてもねえ。ただ確実にヘスティランドにはいますよ。それは断言してあげます。
ヘスティランドのどこにいるかは分かりませんが・・・それも魔王を追っていけば自ずとたどり着くかと思いますよ。だからこそあなたには頑張っていただきたいんです。そうすることで私もあなたも結果的に二人とも得をする、ね?ウィンウィンでしょう?」
「・・・分かったよ。最初から僕にはヘスティランドに行くしか選択肢がない、ってことが」
「ええ、私も最初からあなたが断るはずがないと分かっていましたから♪妹の名前を出されると妹の事意外なにも考えられなくなる、そんな男だって」
本当にこの女神はどこまで知っているんだろうか。
拓海は女神のことが急に恐ろしい存在に思えてきた。
ただしこれだけは言わないと気が済まなかった。
「魔王は追う。妹を探すために。ただし、魔王を倒すとは言っていない。僕に世界を救ってやる義理はない」
「分かりました、分かりましたよ・・・強情な方ですね。
『救う』という言葉があなたにとっては癌なのでしょうね。分かりました、これ以上は言いません、今は。
それではそろそろチャンネル合わせるのも限界に近付いてきてしまったようなので・・・。
あなたには特別に、能力中の能力、『神殺し』の能力を授けましょう。
なぜあなただけ特別になのかって?
それは単純明快、その方がおもしろ・・・じゃなくて
あなたが一番、その力を使うのに相応しいからです」
そう言って女神は何やらうすぼんやりとした光に吸いこまれるかのように存在が遠のいていった。
「待ってくれ!まだ聞きたいことが____」
徐々に拓海も自分の体が浮き上がっていくような不思議な感覚につつまれる。
最後に、何か女神が言った。
「・・・た会お・・・ちゃん」
うっすら聞こえた声はやはり、なんだかとても懐かしい声だと感じた。
やっと異世界です。前置き長くてすんません・・・