プロローグ
「あなたには特別に、能力中の能力、『神殺し』の能力を授けましょう。
なぜあなただけ特別になのかって?
それは単純明快、その方がおもしろ・・・じゃなくて
あなたが一番、その力を使うのに相応しいからです」
僕を異世界に召喚した女神はそう言った。
そうして僕は世界を何度も救うことになった。
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「成績は学年で上から数えて常に一桁台、スポーツ万能おまけに地元のボクシングジムに通っていたこともあって喧嘩も負けなし。さらにルックスも良くってしかも性格はそれでいて嫌味のない爽やか好青年。
文句の付けどころもない完璧リア充なあなたには、たとえどこへ行ったとしても常に人が集まるでしょう。そんなあなたには『無効化』、あえてすべてを拒絶するこの力を授けます」
そう言って女神は俺に力を渡した。
___それもなぜか2つ。
「あっ、間違えて鷹野さんにあげるはずの能力まで渡してしまいましたが・・・うん、これはこれで面白いので良しとしましょう♪」
やることなすこと適当な神様だな、というのが第一印象だった。
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「最後のあなたには特別大サービスです。『無能力』、持たざる者の能力を授けます。・・・なーんて!お前みたいなのにはなーんもくれてやんねえよ!!!
鷹野京太郎・・・まさかあなただったとはね!!偶然って本当ステキ♪神様に感謝したいぐらい!ってまあ私が女神なんだけどもね!!!あー、本当こんなうれしいことって何百年振りかしら・・・。
お前は!!どこかも知らない世界に飛ばされて何も分からずにとっととおっ死にな!お前には特別大大大サービスで名のある冒険者たちを闇に葬ってきた最大難度の未踏のダンジョン『魔獄の迷宮』に飛ばしてやる!感謝で咽び泣きながら異界の果てで人知れず朽ち果てな!」
奴は俺の顔を見るなりそう言い放った。
天使の羽みたいなのに天使の輪っかみたいなのを頭に浮かべて浮かべる笑顔は悪魔みたいなこいつ。
俺にはなんでこいつがそこまで俺のところを目の敵にしてるのかまったくわからないし、初対面で何故ここまで言われないといかんのだと思うがそれよりも何よりも今こいつが言った言葉の内容の方が大事だ。
「おい待て、一体あんたはなん・・・」
「さようなら、偽物」
目の前の悪魔が俺に手をかざすと、そこから強烈な光が発された。
「うっ・・・!」
瞬間、俺の体を眩い光が包み込んだ。
眩しさに目がくらみ思いっきり顔をしかめるとそこは。
「グオァアーーー!!!!!!!」
物凄い圧だった。
突然すぎた。人間って本当に自分が理解できない事柄に直面すると頭真っ白になるんだな、とか後になって思う。
目の前には怪物がいた。
ぎょろり、とした目玉、明らか堅そうな鱗で覆われた皮膚に、恐竜みたいな頭には二本の角に、禍々しく赤黒いでっけえ翼。体からは火の粉みたいなのが常に煌めいていて、俺にはそれが馬鹿馬鹿しいほど綺麗に見えた。
そう、目の前にはアニメとか漫画とかでよくみる伝説上の生き物がいた。
「おいおい・・・嘘だろ・・・? ドラゴン・・・とか」
例えるならば、そう最近の若者だったら一発で分かる名前だと、ミラ〇レアス、またはリオ〇ウスみたいな感じ。
ああ、俺は何も分からないまま数秒後にはその鋭い牙だとか爪だとかで紙切れのように引き裂かれるんだろうなという、自分でも冷静に冷静すぎるほどの考えが一瞬過ってその場に立ち尽くしてしまった。
あまりにも非現実的すぎる状況に、そしてあまりにも現実的すぎる目の前にいる死に考えが及ばなくなって頭が追いつかなくて。
だからそれは奇跡としか言いようがなかった。俺が、『無能力』の一般人がいきなり異世界のダンジョンの奥底に飛ばされて命を失わずに済むってことが。
「グギャァアーーーーーー!!!!!!」
それが断末魔だと気付いたのは、目の前でドラゴンがドシン!と大きな音を立てて倒れる様を見てからだった。
そう、さっきの咆哮は目の前のデカブツが息絶える最後の瞬間に振り絞った最大級の叫びだった。
そしてデカブツが倒れ込み砂ぼこりが舞い、その奥から、まさに目の前のデカブツをヤッた犯人が。この孤独なシルエットは!そう、紛れもなく、奴さ!
「なぜこんな所に人が・・・」
それは人の声だった。鈴が鳴るような、なんて詩的な表現かもしれないが、とても透き通った綺麗な声。
声の方へ顔を向けるとそこには、流れるように長い銀色の髪を靡かせた白雪のように真っ白な肌をちょっと露出多めじゃありません?と言いたくなるような最低限の布で胸と股間だけ隠しました、みたいな装いの、まさにアニメや漫画から直接出てきたような『美少女』が長く、そしてしなやかな真っ赤な槍を携えこちらを見ていた。
もちろん、知らない方です。紛れもなく奴とかいって女の子でした。
絹糸のような銀髪をファサーって感じにかき分けて、俺__鷹野京太郎の方を向いた少女の顔が長い長い髪の隙間から、カーテンでも開くように現れる。
赤い、紅い瞳だった。
目が合うこと数秒。
言葉が消えた、音が消えた。ついでに俺の思考も真っ新になって。
「・・・綺麗だ」
漏れた言葉はそれだけだった。
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晴海 拓海には妹がいた。
妹はいつも拓海からことあるごとにお金をせびっていた。
せびる、の言葉から察していただけると思うが、拓海は妹より立場が弱かった。
原因は3年前、妹のパンツを妹の部屋から拝借しようとしたのを見つかったことから起因する。
タイミングが悪かった。
その日、妹は友達の家へ遊びに行くことになっていた。
それを知っていた拓海は好奇心とほんのちょっぴりの出来心とあとちょっとだけの__恋心から。
妹の、下着を、盗んで___盗んで、何をしようとしていたのだろう。
ともかくそれが欲しくなった。あわよくば、かぶろうとしてたのかもしれない。
よく覚えていない。
ガチャッ
ドアノブが開く音、今でも鮮明に覚えている。
「なにしてるの・・・?おにい・・・?」
妹の、僕を見る顔を___いや、正確には自分の下着をタンスから取り出している兄の姿を見て固まる
妹の姿を見て。
「えっなんで・・・?いや、えっと、これはその・・・つまり・・・」
僕はとっさのことで何も言い訳が思いつかなかった。言い訳のしようもないよ。こんな状況じゃ。
そしてその後、妹は怒るでもなく泣くでもなく一瞬驚いたような顔を見せたのもつかの間、すべてを察すると。
「・・・そっかそっか・・・そういうことね・・・おにいの______変態」
満面の笑みで、そう言ったのだった。
僕はその顔を見て、ああこの妹はなんてこうも良い笑顔をこんな場面でするんだろうと純粋に疑問に思ったのを覚えている。
そのことを親に黙ってもらう代わりに妹は拓海に色々と要求をしてくるようになった。
やれアイス買ってこい、買ってこないとあのことバラすからね。
そして最近ではいよいよもってエスカレートしていき、もっと欲求に忠実になっていき
「現金が欲しい」
ついに、妹はそんなことを言うようになった。
捻りも何もない言葉だ。
しかし拓海は逆らうどころか、妹のその後に続く言葉に結局いつも財布の中身を貢ぐようになるのだ。
「代わりにパンツ、見せてあげるから」
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「晴海ぃー! ちょっちお願いしたいことがあるんだけどぉー」
パツ金ロンゲ、耳ピアス、シャツはズボンから出して第2ボタンまで胸元を開けネックレスちら見せ。
恐らく、というか十中八九その辺のドン○とかで売ってる安物。顔立ちはそこそこ整っており、噂によればただいま三股中だとかなんとか。
見るからに校則違反な外見と聞くだけで耳障りの悪いちょっと甲高い声、クラス内ヒエラルキー最上位グループ筆頭DQN、菱形修治その人だった。
先の一声とその外見からだけでも彼がどのような人物なのかは諸兄に置かれましてはだいたい察していただけると思う。
つまり何を言いたいかといえば・・・。
「・・・何?菱形くん」
「今日俺どーしても!!!どーしてもぉぬけられない集まりがあって!!だからよっ今日掃除むりだから頼んだっ!!!」
要件は拓海の半ば予想していた通りの内容だった。
「えっ・・・でも僕一人でなんて・・・いや、分かった、僕のほうでやっとくよ」
拓海のいる学校では基本的に毎日放課後掃除の時間が設けられており、その日当番の班が割り当てられた場所を掃除してそのあと各自で解散、下校といった具合になっていた。拓海と修治は同じ班で、修治はよく掃除当番をサボっていた。拓海の班は他にも班員がいるのだが、その日は掃除場所がトイレということもあり他の班員の女子たちは自分たちの担当である女子トイレを、班員の男子である拓海と修治の二人で男子トイレを担当することになっていた。
「ほんっっとわりぃ!!明日!明日ジュースおごっから!!マジでさんきゅー!じゃあほんとありがとなっ!」
それだけ言ってそのままどこかへ光のごとく走り去る菱形修治。
そうだ、彼ら(リアルが充実している集団)と闇に生きる拓海たち(ぼっち組)とはどうしたって相容れない存在なのだ。今も昔も。それこそアニメや漫画やラノベの中と現実でだって、どこに出てくる学校でもリア充とその他教室の端っこ組とじゃ仲良くなれないものだと決まっている。
拓海はそう割り切り、だからといって別に修治が嫌いなわけでもなかった。
そういうものだ、と思えば。
「よし、終わった」
一通り清掃を終え、手を洗いトイレを出ると同じく女子トイレの清掃が終わったらしい同じ班員の女子二人がトイレから出てきた。
「んでさーそんときの成田っち、まぢやばなの!こうだからね、こうっ!超うける!」
「あはは、成田くんっぽいねー」
「しょ?まじうけるでしょ?・・・あ、晴海まぁた一人で掃除させられてたんしょー」
ぎくっと一瞬条件反射でぴくんっとしてしまった。
急に話を振られたものだからどう反応しようかと一人であたふたしていると。
「掃除させられてたっていうか自業自得でしょ、嫌なら嫌ってはっきり言わない晴海が悪いんだし」
「きゃはっ!ちょっと悠那冷たすぎっしょー!幼馴染なんしょー?」
「別に。ってか、その幼馴染とかってのやめてって言ってるじゃん、さえ。”これ”とはもう一年以上口きいてすらないし」
トイレから出てきたテンションの高い方のギャルが辻さえ子。これまた見事な明るい金髪。黒いリボンでポニテにしていてげらげら笑うたびに髪の毛もふさふさ揺れる。
男子にも教員にも物怖じしない発言力と行動力でクラスの女子のボス的存在で学級内ヒエラルキートップとまさに修治と対を成すような存在である。
そしてもう一人の方がさきほどさえ子が言っていたように拓海の幼馴染である島村悠那。黒髪セミロング。ナチュラルに毛先くるんってしてる。見た目は髪の毛こそ染めてはいないがピアスしてたり胸元あけてたりと滲み出てくる”遊んでる”感。
さえ子と一緒に行動していることが多いこともあり、クラスでは専ら夜な夜な夜の町へと繰り出し『ヤリまくっている』との噂が立っていた。
拓海はその真偽のほどは知らないが・・・悠那のいうとおり、今の二人の間に交友は一切ないのだ。知るすべもない。
(というよりも君は口をきくきかない以前に僕の顔を見たくもないのだろうけど)
拓海と悠那との間には昔、ある種、覆しようのない決定的な出来事が起きており、その溝はもう埋まることはないと拓海は考えている。
(___元より埋める気もない。それは許されないことだから)
「こんなの置いといて早く帰ろ」
「ほーい。じゃ、またねー晴海ぃー!」
「ああ、うん。また明日、辻さん」
明るく元気よく手を振る彼女に手を振り返すとそれを見た悠那はすごく不機嫌そうな顔をし、そのままさえ子と行ってしまった。
「・・・帰るか」
とりあえず拓海も帰宅の準備をするべく鞄をおいてある教室まで戻ることにした。
更新頻度は期待しないでください