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鋼鐵の女豹  作者: 月野原行弥
第一章
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狩るもの、狩られるもの

「今日はもう遅いですから詳しい話は明日にしましょう。休めるとこへご案内しますからこちらへどうぞ」

 ラッキースケベイベントをかろうじて回避した斎司郎は女の娘を部屋へ案内した。

 今は裏で除霊や退魔を請け負わないとやっていけないくらい寂れているこの神社も、昔はそれなりに栄えていて勤めている神職の数も多かったので今では使われていない空き部屋がたくさん残っていた。

「こちらでちょっとお待ちくださいね?」

 取りあえず一番小奇麗そうだった空き部屋に女の娘を通し自分は納戸へいって客用の布団一式を引っ張りだしてきた。

「外人さんが布団なんかで寝られるのかなぁ……?」

 思いあぐねてみたがこの神社にベッドのある部屋なんかないので布団で休んでもらうしかなかった。空き部屋に布団一式を持って戻り畳の上に布団を敷く。

「これ、馴染みがないかもしれませんけど日本のベッドみたいなものです。この上で休んでください」

「いえ、ベッドなんてとんでもありません。わたしは、ここで」

 女の娘は部屋の隅っこで膝の上に自分の顎を載せて体育座りの姿勢になった。

「―――や、やめてください、そんな引きこもりみたいな格好は……。誰も邪魔しないから楽にして休んでくださいよ……」

「楽? 楽とはどうすればいいのでしょうか?」

「え~っと……」

 ウエイトレスのような格好だがこれもメイド服の一種かもしれない。メイドといえば日本では聞こえがいいが突きつめて考えれば召し使いに他ならない。西洋が舞台の映画では虐げられたり、貴族の慰みものにされたりしているのを見たことがあるような気がする。もしかしたらこの娘も主人にこき使われて身体を伸ばしてゆっくり休んだことがないのかもしれないという考えが斎司郎の頭を過ぎった。

「その敷布団の上に身体を伸ばして横たわって風邪引かないよう掛布団をかけて休むんです」

「ふむ……。そういえばロシアでは凍りつかないよう藁束をかけてくれたりしていましたが、同じようなものなのでしょうか?」

(ロシアで寝具が藁束だけ……? あそこって、確か日本よりもずっと寒かったはずだよね……?)

「とにかく、今日は誰にも気兼ねすることなんてありませんから、ゆっくり休んでください」

 もしかしたら思っていたよりもずっと酷い扱いをこの女の娘が受けてきたようだと思った斎司郎(さいしろう)は、優しい声をかけると襖をそっと静かに閉めた。



「発射!」

 耳をつんざくような発射音とともに車体が激しく揺れる。

 自分と違い垂直に切り立ったような装甲を組み合わせた自分よりやや小さな戦車がその装甲を紙のようにあっさり撃ち破られ黒煙を噴き上げた。

「命中!」

 砲塔上部のキューポラから外を確認していた戦車長が嬉しさを滲ませた声で叫んだ。

「少尉、右前方二時の方向に新手の戦車っ!!」

 インカムを通じて車体前方右前に席のある通信手の叫び声が耳に届いた。慌ててそちらの方向のペリスコープへ目を移す。死角になっていた物陰から姿を顕したのは、先ほど撃破したのと同じように切り立った垂直の装甲を備えているがずっと横幅が広くずんぐりした戦車だった。車体の前面には鉄かぶとを図案化した師団マークが誇らしげに描かれてある。味方だったらこれほど頼もしい存在は他にいないが敵にするなら考えうる限り最悪の相手としかいいようがない。

「ちっ……。“火消し”のおでましか」

 決まって激戦地へ投入されることから火消し部隊の二つ名を奉られた精鋭師団が姿を顕わしたことに戦車長は思わず舌打ちしていた。

「車体を右旋回させろ! 急げ!」

 インカムを通じて操縦手に怒鳴るように命令を伝えた。運悪く先ほどの攻撃で砲塔は左横を向いていた。そのため右斜前から姿を顕した敵戦車を捕捉するのには砲塔をほぼ半周させなければならない。その時間を少しでも短縮させるために、車体の向きも同時に旋回させたのだ。

「次弾装填急げ!」

 砲塔を旋回させつつ装填手にも砲弾の装填を急がせた。

「この距離ならAPCBC弾でも正面装甲を抜けるはずだ」

 あれを正面切っての対戦車戦で撃破することができれば叙勲も夢ではない。

「少尉っ!!」

 照準器を覗いていた砲手の口から悲鳴のようなかすれた声が漏れる。ペリスコープから外を覗いていた戦車長にも敵戦車の砲塔がこちらへ向かって旋回しているのが見えた。敵戦車の砲塔旋回速度は遅い。こちらが敵を捉えるのが先か、あちらがこちらへ照準を合わせるのが先か。

「撃てっ!!」

 戦車長が叫んだのと同時に、こちらへ真っ直ぐと向きなおった敵戦車の砲身も火を噴いた。

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