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僕と女騎士さまの物語  作者: アンジェロ
9/20

9話 「ヴィトの冒険(後編)」

今回の話は、前回の続きからです。まだ前回を読まれていない方、初めて読む方は先にそちらから読むことをお勧めします。

 しばらくアウロラと歩いていると、見覚えのある道に出た。この道をまっすぐ行けば、エリスの住処まであと少しだ。しかし、湖を離れてからアウロラの様子がおかしい。あまりしゃべらないのは普段通りだが、あちこちに目を回していた。歩き方も変だ。まるで何かに見つからないように音を立てず歩いている。僕は彼女が何故そうしているのか分からなかったが、僕も音を立てずに歩こうかと思った。しかし彼女は何も言ってこないのでそのまま普通に歩いた。ようやく彼女は口を開いた。

 「ヴィト、エリスの所に行ってどうするんだ?」

 「ん?ああ、エリスに聞きたいことがあるんだ。とっても大事なことをね。」

 「そうか。なら、彼女へのお礼も用意しないとな。」

 「あ、お菓子を持ってきてるよ。」

 僕はアウロラに菓子の詰まった袋を見せた。

 「お、用意がいいな。そういうところは抜かりないんだな。」

 「まぁ、これぐらいしか2人にしてやれることはないし……。」

 僕は少し申し訳なさそうに言った。それにしても、彼女がなぜこんな質問を今更したのか分からなかった。聞くタイミングは門にいたときからいつでも聞けただろうに……。すぐにその答えは出た。



 目の前に見知らぬ妙な格好をした3人組の男たちが出てきた。

 「おっと、こんなところでデートかな?よかったら僕ちゃん達もまぜてほしいんだけど?」

 1人が僕たちに話しかけてきた。

 「そこにいるのは君のお姉ちゃんかな?とっても美人さんだねぇ。」

 「ん?手に持ってるのは何かな?俺たちにも分けてくれないか?」

 残りの2人も話しかけてきた。明らかに怪しい雰囲気だった。恐らくアウロラはこの3人組の気配を感じ取っていて、先ほどの質問も彼らをおびき出すためだったのかもしれない。何よりも彼らの格好、アウロラが言っていた盗賊の一味かもしれない……。

 「アウロラ……。」

 僕は身震いをさせた。

 「下がってろ。」

 アウロラは僕を庇った。

 「貴様ら、盗賊だな?」

 アウロラは3人組に問う。3人とも形相を変えた。

 「だったら何だっていうんだ?」

 一人が答える。

 「悪いが、貴様らに渡すものはなにもない。怪我をしたくなければ、失せろ。」

 アウロラは冷静に3人を牽制した。

 「へへっ、言うじゃねぇか女騎士さんよぉー。」

 アウロラは一切臆していない。だが、3人組も彼女の恐ろしさを知らないのか、からかっている。

 「しっかしほんと、美人だよなー。どうだ?俺の女にならねぇか?贅沢させてやるぞ?」

 「何言ってんだよ。こいつは俺が貰うんだよ。」

 「おいおい、俺の女だぞ。」

 3人のふざけっぷりに僕はついに腹を立てた。僕は3人に怒鳴りつけようとすると、アウロラは僕を制止した。

 「そうだ、3人でこいつをまわすってのはどうだ?この女、いいスタイルしてるし、最高の性処理道具になるぜ!!」

 「おほっ、いいねぇ!!ただし、こいつにとどめを刺した奴が処女をもらうっていうのはどうだ?」

 「異議なし!!それでいこうぜ!!」

 しかし、アウロラは最後まで冷静だった。

 「意見はまとまったか?あいにくこちらは時間がないのでね。それと、貴様らの要望には答えられそうもない。」

 3人組も諦めが悪かった。

 「それはどうかな。俺たちは数々の修羅場をくぐってきてる。軍隊にいたことだってあるんだぜ?」

 「おとなしく俺たちの性奴隷になったほうが身のためだぞ!」

 「でも強気な女を犯すほうが興奮するなぁやっぱり!!これから俺の名器に屈する姿を想像すると今すぐにでもぶちこみたくなってくるぜ!!」

 アウロラは呆れながらも3人の言い分を聞いていた。僕にとっては只のストレスでしかない。

 「お前たちの性癖は分かった。その手と名器とやらで女どもも蹂躙してきたそうだが、少し調子に乗り過ぎだ。」

 ついにアウロラも聞き飽きたのか、3人を挑発する。

 「犯したいならさっさと来い。ただし、命の保証はできんぞ。」

 「言われなくても!!」

 3人は隠し持っていた武器を取り出し、一斉に襲い掛かってきた。僕は勢いのあまり目を背けてしまった。だめだ、やられる!!——————

 それは一瞬の出来事だった。しばらくすると何も聞こえなくなり、僕は恐る恐る目を開けると、3人組の男たちが血を噴きながら倒れていた。名器がどうこう言っていた1人はズボンの股に血糊ができていた。僕は彼にどんな激痛が走ったか考えたくもなかった。

 「怖がらせてしまって済まなかったな。先を急ごう。」

 アウロラは平然としていた。まるで何事も無かったかのように。

 「3人はどうするの?」

 「きっと私とエッチしている夢でも見ているのだろう。そっとしておいてやれ。」

 僕は返事をしてその場を去ることにした。3人とも死んでなければいいが。特に名器を潰された人は……。



 やっとのことで僕らはエリスの住処にたどり着いた。初めて来たときよりも随分長い道のりだった気がしたのも無理はない。途中、謎の湖でアウロラとちょっとしたバカンスをしたり、スケベな盗賊たちと出くわしたり、何かと大変だった。

 「ふぅー、ようやく着いたぁー……。」

 僕はそのままアウロラに寄りかかった。

 「おいおい、そうくっつくな。暑苦しくて動けん。」

 「いいじゃん、僕もうクタクタだよぉ……。」

 「全く、仕方ないやつだな。」

 アウロラは呆れながらも、僕の肩を抱きかかえた。ドアの前まで付くと、彼女は一瞬凍りついたように動かなかった。

 「……どうしたの?」

 僕はアウロラに尋ねた。

 「……エリスの気配がない。出かけているのかもしれん。」

 そう言い、彼女は念のためドアをノックした。しばらくしても、何も聞こえなかった。

 「うそぉ、無駄足だったの!?」

 疲れているのか、つい大声を出してしまった。

 「あまり大声を出すな。また盗賊がやってくるぞ。」

 「う、ごめん……。」

 何とか落ち着こうと僕は深呼吸した。しかし、しばらくしてもエリスは戻ってこない。

 「残念だが、一旦戻ろう。それに、アリシア様には実質無断で外出してしまっているからな。」

 「うぅ、そうだね……。」

 僕はエリスに会えなくてとても残念だった。次はいつ会えるのか分からないし、それまでお預けなのはすっきりしなかった。

 「さぁ、戻ろう。」

 アウロラが僕の手を引っ張って行こうとしたとき、突然声が聞こえた。

 「あらぁ~?ボク君とアウロラちゃんじゃない?奇遇ねぇ♡」

 この少しわざとらしい感じのしゃべり方、間違いなくエリスだった。

 「あぁっいたっ!!どこに行ってたの!?」

 僕は驚きのあまりまた大声を出してしまった。

 「ボク君今日も元気ね~。そのお股についてるのも元気だといいけどぉ?」

 会って早々下ネタは相変わらずだったが、スルーした。

 「今までどこにいた?貴様のことだからその辺の子供にいたずらでもしていたんだろ?」

 「あらぁ~?失礼ね。今の私はボク君にゾッコンよぉ~♡」

 「それが一番の問題なんだが……。」

 アウロラもついツッコミを入れてしまった。

 「ごめんねぇ、その辺ゴミがいっぱいあって掃除してたのぉ。お詫びにおねぇさんがちゅっちゅしてあげるね♡」

 ゴミ……。もしかして盗賊のことだろうか。そういえばさっきから僕は大声を出しているが、人が寄ってくる気配がない。これもエリスのおかげなのだろうか……。

 「そうか。貴様にまで面倒をかけてしまってすまないな。本来は我々王国に仕える兵が対処するはずなのだが……。」

 アウロラもエリスの言っていた意味を理解していた。

 「いいのよこれぐらい。丁度いいストレス発散になったしぃ~。」

 「え、何か悩み事があるの?僕が相談に乗るけど……。」

 そう言うと、エリスが目を輝かせた。

 「え、いいの!?それじゃぁ、おねぇさんボク君とイチャイチャしたいなぁ♡」

 「いや、それは……。」

 僕はアウロラの方に目を向けた。アウロラはとても怖い目で僕を見ていた。

 「んもぅ~、ボク君の女たらしぃ!アウロラちゃんと一緒がいいの?」

 「いやいや、違うよ!!」

 そういうとアウロラは今度は悲しそうな目で僕を見た。

 「何だ?私と一緒にいるのは不満か?」

 「ち、違う、アウロラ、そうじゃないんだ。えぇーっとぉ……。」

 僕は何て言えばいいのか分からなかった。とりあえず深呼吸をした。

 「まぁ、ここで立ち話もあれだし、どうぞ中に入って♡アウロラちゃんも、どうぞっ。」

 エリスは僕たちを小屋の中に案内した。

 「あ、お邪魔しまーす。」

 僕はささっと中に入った。後に続いてアウロラも入った。

 「一緒にボク君を食べない?」

 入る途中、エリスはアウロラにささやいた。

 「そんなことをしたら尻の穴を増やすぞ。」

 「ふふっ、相変わらず物騒ね。」

 僕とアウロラはとりあえず部屋の真ん中に座った。もともと小さい小屋なのでそんなに広くはないが、このほうが人肌を感じやすいので僕は好きだ。

 「紅茶がいいかしら?」

 エリスが尋ねた。

 「うん、僕は砂糖を入れてね。」

 「はいはーい。アウロラちゃんも?」

 「ああ、同じのを。」

 エリスは嬉しそうに紅茶を作り始めた。僕も持ってきたお菓子を取り出した。

 「少し多くないか?」

 アウロラが僕の持ってきたお菓子を見て、そう言った。

 「ま、まぁたくさん食べるかなって、つい……。」

 「ふふっ、そうか。食べかけをエリスに食われんようにな?」

 僕は少し笑った。

 「ん?何か言った、アウロラちゃん?」

 エリスが話しかけてきた。

 「いや、何でもない。何か手伝おうか?」

 「大丈夫よ。せっかく来てくれたんだから、ゆっくりしてて。」

 今日のエリスは一段と親切だった。やっぱり彼女のことが気になって落ち着かない。そう考えていると、あっという間に紅茶が出来上がったみたいだ。

 「おまたせ~♡おねぇちゃんのあま~い汁入りの紅茶よ♡」

 「ぶへぇ!!」

 僕は彼女の過度な下ネタについむせてしまった。飲んでいる途中だったら間違いなく大変なことになっていた。

 「おいヴィト、大丈夫か?エリス、あまり変なことを言うな。」

 「あら、ごめんね?ちょっときつかったかな?」

 僕は少し紅茶を飲んで、ようやく落ち着いた。紅茶自体はとてもおいしかった。たださっきの下ネタは一歩間違えればえらいことになっていただろう……。

 


 「そうだ、エリスに聞きたいことがあったんだ。」

 「ん、私に?何かしら?私が処女かどうか?」

 「それは違うかな。」

 エリスは最初はふざけたが、僕の顔を見て少し真剣になった。

 「いいわよ、私が答えられる範囲でね。」

 「うん。」

 僕はとても緊張していたが、アウロラが後押ししてくれた。

 「ヴィト……。」

 「うん、わかってる。」

 僕は今日三度目の深呼吸をした。

 「エリスって家族はいるの?」

 エリスは今まで見せなかった、素のアウロラのに似たきりっとした表情を見せた。

 「私の、家族?」

 「そう。僕たちと別れるとき、とてもさみしそうな顔をしていたけど。」

 エリスはうつむいて黙り込んだ。しばらくして口を開けた。

 「……ごめんなさい。それについては言えないわ。」

 「……何か嫌なことでもあったの?」

 僕は彼女の心の傷をえぐるようなことは好まなかったが、どうしても放っておけなかったので、つい押してしまった。

 「ボク君、大人の事情にはあまり興味を持たないほうがいいわ。知りたくないことまで分かってしまうから。」

 やはりエリスは心を開いてくれない。

 「分かった。教えてくれたら、僕にエッチなことをしていいよ。」

 それを聞いても、しかしエリスは首を横に振った。

 「ダメよ。ボク君の大事なものはアウロラちゃんにあげてね。そんなにしてまで欲しくはないわ。」

 彼女は想像以上に冷静だった。こんな彼女を見たのは初めてだった。僕はここで引くべきか、もっと押すか、とても迷った。しかしエリスは相当まいっている。これ以上は聞かないほうがいいかもしれないと思った。

 「分かったよ。そういうことならもうこのことは2度と聞かないことにするよ。ごめんね、エリス。」

 「ううん、こっちこそ。でもボク君、心配してくれて本当にありがとう。それだけで私、嬉しい……。」

 エリスの目から涙がこぼれていた。僕は少し落ち込んでしまった。

 「……そろそろ行くよ。ヴィト、帰る支度をしろ。」

 アウロラがそう言うと、僕はうなずき、持ってきたお菓子をエリスに渡した。

 「残りのお菓子は全部あげるよ。紅茶ごちそうさま。」

 「うん、ごめんね、しんみりさせちゃって。」

 「ううん、僕の方こそ、ごめんなさい。」

 そう言って、僕はエリスの頬にキスをした。せめてもの償いだった。

 「僕、エリスのことも大好きだよ。また遊ぼうね。」

 「うん、またね……。」

 エリスは涙を拭ってアウロラに話しかけた。

 「アウロラちゃん……。」

 「ん?」

 アウロラがエリスの方を向く。

 「いい子ね、ボク君。」

 アウロラは微笑んだ。

 「ああ、私もそう思う。」

 少し淡白だったが、彼女のその一言は、とても一言で表せないような意味合いを持っていた。



 エリスのもとを後にし、僕は帰り道、気分が沈んでいた。

 「ヴィト、そう落ち込むな。あいつも決してお前が悪いとは思っていないさ。」

 「でも、エリスのこと傷つけちゃった……。」

 アウロラは少し間をおいてから話した。

 「他人とより深く親しくなるために、あえて傷つけるという方法もある。もちろん諸刃の剣だが、それを乗り越えれば、今まで以上に良い関係を築けるんだ。」

 「僕とアウロラみたいに?」

 彼女は少し考えた。

 「そうだな、兄弟のような関係になれるのが私としての理想だ。もちろん、本当に兄弟がいる奴はその限りではないが。」

 「じゃあ僕にとってのいい関係はアウロラとのような仲だね。僕は兄弟とかはいないし、父親も亡くなっているし。」

 さらにアウロラは聞き返す。

 「アリシア様はどうだ?」

 僕は少し頭を抱えた。

 「うーん、最近はあまりいい関係とは言えないかな?これが反抗期ってものなのかな?」

 「ふふっ、反抗期は誰にでもあるさ。でもお前もそのうち、家族というものが分かってくるよ。」

 「そうだといいけどね……。」

 僕はエリスとの仲が悪くなっていないかと不安に思いつつ、城へ帰った。自分から相手にキスをしたのは、これで3度目だ。1度目は母さん。2度目は、アウロラだ。ただ、僕は臆病なので、唇同士はまだだった。エリスの頬はとても柔らかく、いい匂いがした。いつの間にか彼女に惚れ薬でも飲まされていたのかもしれない……。そうであっても今回は全然かまわないと僕は思った。

 その夜、僕はエリスのことを想いながらいつの間にか寝ていた……。

 


 お久しぶりのあとがきです。私用が忙しくて、更新頻度が遅くなってしまい申し訳ないです。なるべく一週間に一話は最低でも投稿できるよう努めていきます。

 さて、最近一話毎の文字数も多くなっていて、第一話と比較すると2倍、ひょっとすると3倍近い文字数になっているので、本来私自身が掲げている、お手軽に読める小説から少し遠ざかりつつある気がします。その代わり、あとがきがご無沙汰なので、これで良いかと自己完結しちゃったりするときもあります。内容については、より細かい動作や人物の心情などを加えたりしているので、場合によってはしつこいと感じるかもしれません。私自身、アマチュアなので、執筆に関する教育はほとんど受けていませが、もしこうしたほうがいいといったご意見などありましたら、遠慮なく申してください。

 最後に次回予告ですが、今までの話を一旦休止して、アウロラの過去について書いていこうかなと思います。これについては前々からネタは用意してあるので、スムーズに執筆できるかと思います。ただ、2月中は私用のため、更新頻度は遅くなってしまいます。投稿するまで、気長にお待ちください。

 今回もご覧いただき、ありがとうございました。

 ※誤字、間違った語句等ありましたら遠慮なくご指摘ください。

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