7話 「気まぐれな一日(後編)」
今回のお話は前回からの続きとなります。まだ前回を読まれていない方、今回初めて読む方はそちらから読むことをおすすめします。
僕たち3人はようやく落ち着き、僕とアウロラは、結局エリスは何しに来たのかを尋ねることにした。
「ところで、本当に貴様は何をしに来たのだ。まさかじゃれ合うためだけに来たのではなかろう。」
アウロラがそう尋ねると、エリスは、「何で分かったの?」というような表情を見せた。
「おいおい、これだけ大層なことをしておいて遊びに来ただけとは、つくづく魔女という生き物は分からんことばかりだ。」
「あらあら、遊びも人生に大切なことよ。それに前にも言ったけど、人生マジメばかりじゃ本当に腐っていくわよ。」
「悪いが、私はこういう生き方しかできないのだ。貴様のように遊び呆けてばかりではいられない。」
「そう?さっきはいい悪乗りだったと思うけどぉ?」
エリスのその一言に、僕はつい噴いてしまった。
「…分かった、今回は私の負けだ。いい余興だったよ。実に…。」
「ふーん、その割にはあまり乗り気じゃなさそうねぇ…。」
「…。」
アウロラが内心怒っているのが分かった。怒っているというより、悔しがっているのかもしれない。
「2人とも、ケンカはやめようって。エリスもからかい過ぎだよ。アウロラはこういうのが苦手なんだ。」
僕は、あまりアウロラの困った顔が好きではない。とても不安になるからだ。もちろん、エリスも本気で彼女をけなしているわけではなく、彼女のことが気に入っていて、放っておけないのだ。だから、こんな危険なことをしてでも僕たちに会いに来たんだと、僕は勝手に解釈していた。しかしそれも、実際にエリスが考えていることに当てはまっているかは別だが…。
「…そうね、ボク君はアウロラが大好きなのよね。ごめんなさい、アウロラ。あなたの大事なフィアンセにも迷惑かけちゃって…。」
「いや、こちらこそ、ついムキになってしまった。済まない。ヴィトも、庇ってくれてありがとう。」
「そんな、大丈夫だよ。それにフィアンセだなんて…。」
僕は恥ずかしくなってそれ以上は言えなかった。僕がアウロラのフィアンセなんて、とんでもない。彼女には到底及ばないのに。
「そ、そうだ。こいつはこんな貧弱でも、王家の息子だ。私がその中に割って入るなど、とても出来ん。」
「あらぁ~、でもとてもお似合いよ。ボク君とアウロラちゃん♡」
からかっているのか褒めているのか分からなかったが、お世辞でもそう言われて僕は嬉しかった。アウロラもちょっと照れていた。とにかく、仲直りできてよかった。
「そう言えば忘れていたが、土産を持ってきたと言っていたが、土産とは何だ?」
「あ、いっけな~い!忘れるところだったわぁ。」
エリスは僕の机の上に置いてあった本を手に取った。
「はい、これ!ボク君にプレゼント!魔女に興味を持ったみたいね?嬉しぃわぁ~。」
「え、なんでそれを知っているの?」
「ひ・み・つ♡ でもその本には魔女についての歴史や代表的な魔術が記載されているのよ。本当は普通の人にはあげられないんだけれども…。」
そう言って、彼女は僕の耳元に顔を近づけ…。
「かわいいボク君のために特別サービスよぉ♡はむっ。」
彼女は僕の耳を咥え、舌で少しなめた。
「うひっ!?」
僕は思わず変な声をあげた。そしてあまりの快感につい、勃起してしまった。
「お、おい。何をし、している…?」
アウロラもかなり動揺していた。相変わらずエリスはやることが派手だ。
「んぅ~、とっても甘かったわぁ~。今度はボク君のかわいいゾウさんも食べちゃいたいなぁ~♡」
「あーやめてー!!」
エリスのせいで正気を失いそうだった。しかし、もうここまでくるといっそ食べてほしいくらいだ。
「い、いや。わ、私が…。お前の…その…あっ…。」
アウロラが恥ずかしそうに何かを言おうとしていた。恐らく、エッチなことだ。
「アウロラ、それ以上はやめて!!本当にこのムラムラをアウロラにぶつけちゃいそうだから!!」
僕は今、人生で一番発情している。これ以上エッチな言葉が出てくると本当に粗相をせずにはいられない。だが、今は母さんの目に届くところで、しかも無断ですればただじゃ済まないだろうと思った。そのおかげで何とか理性は保っている。
「はぁー、ちょっと2人とも、僕で遊ばないでよ。まだ13そこそこなんだよ?」
「あら、もうじゅうちゃんちゃい(13歳)なの?じゃあもう子供から大人になる頃ねぇ。」
「そうだった。エリスよ、ヴィトには刺激が強すぎるんだよ。さっきみたいなことは。」
「そう?でも成長して立派なゾウさんになるのと一緒に、いろいろな事も知っておかなくちゃならないのよ?」
「それはそうだが…。」
エリスは僕に顔を向けた。
「ボク君。その本はある意味、おねぇさんのほとんどのことが分かるものなのよ。もしおねぇさんに“お姉ちゃんボクと結婚してください!”ってプロポーズしたい時とかに便利よ♡」
「い、いや…。そういうのは…。」
どう反応していいか分からなかった。
「まぁそれは冗談として、お勉強熱心なボク君にはいろいろ期待してるからね…。」
エリスはもっと何かを言いたそうにしていたが、何故か少しうつむいて元気がなくなったように思えた。そう言えば、初めて会った時も似たようなことがあったっけ。
「うん、ありがとう、エリス…。僕、この本大事にするね!」
そう言うと、エリスは僕の方を見てにっこり笑った。気づけば僕は、その素敵な笑顔につい惚れてしまった。
「あら、そろそろ帰らないと。ボク君のママに心配かけちゃうわね。」
「あ、そんなに時間経っちゃったのか。そうだ、お菓子とか用意できなくてごめんね。」
「いいのよ。ボク君のことを味見できたから、それだけでも十分よ♡」
「んもー、思い出させないでよ!」
僕は少し照れてしまった。これではまるで恋人同士だ。もちろん、僕が一番好きなのはアウロラだが…。
「さて、名残惜しい気持ちは分かるが、本当に長居しすぎた。そろそろアリシア様が心配になさってメイドたちをこちらに寄越すだろう。最悪、他の護衛の者まできたら厄介だ。」
「それもそうね。それじゃあそろそろおいとましようかしら。ボク君、また会おうね。それと、ボク君にかけた魔法、その本に載ってるから後で見てね♡」
「うん、後で見てみるよ。」
僕はそう言って、窓から出ようとする彼女を、アウロラと見送った。別れ際、エリスは舌を出し、口元に手でオッケーサインを作り、それを前後させた。何を意味しているかはよく分からなかったが、おそらく卑猥な意味だろう…。
「じゃあね♡」
そう言って、彼女はほうきにでも乗って飛んでいくのかと僕は思ったが、そのまま彼女は窓から飛び降りた。
「うそ!?飛んでいくんじゃないの!?」
慌てて僕は窓に近づき、地面の方を見たが、エリスの姿はなかった。その代わりに、木の葉がひらひらと空に舞い上がっていった。
「きっと魔法でも使ったんだろう。全くひねくれた魔女だよ、エリスは。」
「そうだよね。それに、飛んで行ったら他の人に見られちゃうし。」
僕はアウロラのお腹に寄りかかって木の葉が見えなくなるまで外を眺めた。そろそろ昼食の時間だったのを思い出し、一度王室に行って母さんに昨夜の嵐は僕の夢の中で起きたことで、実際にはなかったと伝えた。もちろんエリスのことは一切出していない。それが終わり、ひと段落ついてからアウロラと食堂へ向かった。今日のメニューは何かな…?